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放課後のアイスティー2024/08/14

8月の夕方はよく蚊に刺される。30分ほど散歩しただけなのに、6カ所刺された。夏だと思いながらも、ほんとうは蚊め。と思っている。

高い気温と日差しが苦手なので、散歩にでるのは18時すぎ。おきにいりの半ズボンを纏い、日焼け止めを塗る。今日こそは刺されまいと虫除けをしゅっと吹きかけて外に出る。地元に戻ってきて4ヶ月。近くにあるお店といったらコンビニくらいで、サークルKサンクスがファミリーマートになったくらいで、他はあまりなにも変わっていないように思える。それはわたしがそう思っているだけであって、ほんとうは毎日用水路の嵩は変わっているし、植えられた苗は稲へと育っている。

散歩の目的は問うてはいけない。けれども、最近のわたしには目的がある。家から歩いて15分ほどの場所に「ハッピードリンクショップ」がある。数社の飲料企業の自動販売機が3台並んでいる。最近の目的は「へんな飲み物を買う」こと。へんというのはユニークということで、パッケージ、商品名を眺めながら今日の散歩の相棒を選ぶ。

自動販売機の前に立つと、高校時代を思い出す。わたしの高校は山の上にあり、近くにコンビニはなく、校内に食堂があるわけでもなかった。小腹がすいたとき、唯一学校にあった自動販売機に向かう。そこには振ったらゼリーになるドリンクや、果肉が入ったオレンジジュースがある。ちょっとでもおなかに溜まるものを求め、自動販売機に走る。放課後の部活に向かう前に、息を整えるためにアイスティーを買う。あの自動販売機には3年分のわたしの顔が映っていたのだろうか。見られていただろうか。

わたしはロングホームルームが終わったらすぐさま部室に足を運ばせた。クラスに仲良い人がいるわけでもなく、かといって誰とも話さないわけではなかった。けれど、他のクラスの友だちが多く、休み時間も教室を出て、ふたつ隣のクラスに入り浸っていた。多くは部活の友だちだった。ギターマンドリン部に所属して、ギターを弾いていた。部活がすきで、仲間の居心地がよくて、音楽がたのしかった。

クラスの担任の先生が、数学ばっかり勉強させる先生で、褒めるときも怒るときも全力だった。今思うと、高校生のわたしは先生より元気がなかった。だからおとなのエネルギーの塊で満ちた教室から一刻でも飛び出したくて部室に逃げていたのかもしれない。相談は全部部活の顧問にしたし、学生という狭間な年頃に、おとなのエネルギーに従うのではなく、エネルギーを受け止めてくれるおとなに出会う経験をさせてくれた顧問だった。

仲間と職員室に行って顧問を呼び出しては、「ジュース飲みたいです」とねだって、先生がご馳走してくれたジュースを飲んで日が暮れる時間まで話した。先生、たくさん仕事も残っているだろうに、早く家に帰りたかっただろうに。大人になってわかる。自動販売機の前に立つと思い出す。あのときの、アイスティー。

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