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「つくね小隊、応答せよ、」(廿四)



兄、九右衛門、片頬で、にやりと笑います。


「六右衛門さまの顔に泥をぬっときながら、何事もなかったかのように眠ってやがるぜ…親分をこけにした事、泣きわめいて詫びさせてやらあ」


弟、作右衛門、同じく片頬でにやりと笑います。


「兄貴、その後は穴観音の皆の前で、見せしめに、なぶり殺してやりやしょうぜ」


屋島の八兵衛、多度津の役右衛門も、にやにやと頷いております。


黙って九右衛門、右手を上げる。


すると四匹の影、しゅぱんと飛び上がり、障子を蹴破り、畳に着地すると同時に、2つの布団を四振りの刀で串刺しにっ!


どどどすっ!



しかしすぐに九右衛門の顔つきが変わる。


「手応えがねえ!布団を剥げっ!」


四匹が布団を剥ぐと、座布団がたぬきの術で上下している。


「くそ!兄貴!先を越されちまった!」


弟 作右衛門がそう言うと、布団の中から、


しゅつぱぱぱぱぱぱぱぱすんっ!


鋭い細い光がいくつも飛び出した!


四匹はその光を刀で受けて、体を捻ってかわす!


「いてぇっ!」


しかし!一つの光が弟 作右衛門の右目に突き刺さる!


見るとその光、銀色の針。八兵衛が、刀で弾いた針を拾うと、針はしゅるるるるんと煙を吐いて、毛になりました。


作右衛門、刺さった針を抜いて、毛を畳に叩きつける。


「この毛色は、金長のじゃねえなっ!くそう!この毛は、大鷹ってやつの毛だろ!くそっ!大鷹め!こ!殺してやる!」


作右衛門、黒い布を額と目に巻きながら、片目で怒り狂っておる様子。


九右衛門、行灯に手をかざす。


「作右衛門、気を抜いたな。おい、まだぬくもりがある。火が消えて間もない。二匹をとっ捕まえるぞっ!」


四匹、子供だましのような針や座布団で化かされて、馬鹿にされ、怒り心頭。

九右衛門、作右衛門、八兵衛、役右衛門、矢のごとく駆け出しました。



「大将、もうちょっとで、勝浦川ですぜ。水の匂いがしてます」


「そうか、もうそこまで来たのか。じゃあ小松島まで、もうちょっとだな」


茂みの影に隠れて、辺りの様子を窺いながら、金長、大鷹が息を整えております。


「日が昇って、人に化けて町に紛れ込めば、こっちのもんです。
人の前じゃ、津田のやつらも、簡単に手出しはできません。日が昇るまでここで待ちましょう」

「うん。わっちもそれがいいと思」
じゅぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱんっ!


金長が背を預けていた木の幹に、いくつもの手裏剣が突き刺さります!

手裏剣は金長の顔を狙い、上から下おりてゆく!
しかし金長、鋏に化けて、慌てて自分の上半身をぱかりと開く!

鋏の開いたとこへ、そたたたんっ!と残りの手裏剣!


にゅるりと鋏からたぬきに戻り、立ち上がった金長は手裏剣の飛んできた方向に向かって怒号を飛ばします。


「え!! め! めちゃくちゃあぶねえ!」


大鷹、大太刀を抜いて身構えると、四方から、ぬるりと四つの影が現れる。


「あれ、金長、明日、位を授けてもらえるのに、なんで帰るの?」

と、兄 九右衛門。

「そうだよぉ?ほら、そこの大鷹も、大事な大将の晴れ舞台を、ちゃんと見届けてあげないとだめじゃないの?挨拶もなしに、津田を出てくことないっしょ」

大鷹の毛で右目をやられ、歯ぎしりをしながらの弟 作右衛門。


八兵衛、無言で槍を構える。

役右衛門、体中に鎖や苦無や手裏剣を携え、笑っている。



「ちょっと急用を思い出しましてね。忘れ物を取りにかえるところなんすよ。あれ?作右衛門さん、右目はどうかしました?どこかの誰かの寝込みでも襲おうとして、失敗しちゃったんですかい?」

大鷹が刀を構えながら、にこやかに言うと、作右衛門、歯ぎしりをして刀をふりかぶる。それを兄の九右衛門が右手で制す。


「まあまあ。忘れ物は、明日でいいだろ。さ、津田へ戻ろう。俺たちもお前たちを連れて帰らないと、六右衛門さまに、なにされるかわかんねえ。な?頼むから津田へ一緒に、きてくれよ、なっ!!!」


九右衛門、金長の手を優しく握ろうとしたその瞬間、右手をトラバサミに变化させ、金長を捕らえようといたします!


しかし金長、蝶のように身を翻し、刀の鞘でその右手を打つのでございましたっ!

「いやまてまてまてまて!お前あんなに化けるのうまかったっけ?ラジオとか盆栽とか、失敗例しかまだ見てねえんだけど?」

早太郎歩きながら、金長の頭の上に前足を乗せて話しかけます。金長はその前足を必死で振りほどいて抗議しました。

「ちょ!まじでうるさい!早太郎さん!まじでうるさい!黙って話聞いててくださいよ!いやー、こういう奴居酒屋とかにいるわー。絡みづらい客いるわー。絡みづらいわー、ちょ、もういいから!まじで黙ってて!」

「いや、なんか、手裏剣飛んできて、すぐ鋏に化けられるんなら、こっちでもなんかちゃんとやってほしいってい」「いや!だからさ!100年前なんで!今はね、100年ぶりにたぬきの姿を現してて、しかもなおかつここ外国なんすよ!

いきなり本調子でいけるわけないじゃないですか!100年っすよ?100年!」

「ふーん、…で、あれって、ほんとに、実話?」

「は?!実話ですっ!史実です!んもう!いいから続きを聞いてくださいっ!いいとこなんですからっ!いやまじで!まじですよこれ!まじで言ってますからね!」


狐はくすくす笑っております。





手を打たれた九右衛門、慌てて手を引っ込め、打たれた場所を痛そうに舐めます。

「やってくれたな、金長!」

九右衛門、刀をざばりと引き抜いて、金長の顔めがけて斬りかかります!

するとそこへ素早い動きで金長の前に立ちはだかる大鷹!九右衛門の刀を受けるふりをして、九右衛門の腹めがけて、つま先で蹴りを一撃!

斬りかかった勢いと、大鷹の蹴りの勢いが衝突し、全ての威力が九右衛門の胃の腑へ集結!


九右衛門、ぎゃうんっ!と叫んだかと思うと、後ろの藪の中へ突き飛ばされてゆく。


ぎゃるんざばしゃばじゃばあああっ!


藪の草木をなぎ倒し、九右衛門、胃液を撒き散らし転げてゆきます。


「四匹でしかかかってこれねぇようなやつらが大将に太刀を浴びせようなんざ、30年早いんだよ…」


大鷹、大太刀を構え、残りの三匹を冷めた目で見つめて言います。


「おい、阿波の元締めの四天王に向かって言う言葉じゃあねえなあ…」


八兵衛がそう言って槍を構える。目を潰され、兄を蹴り飛ばされた作右衛門は、歯ぎしりをして、真っ赤な顔で大鷹を睨みつける。


黙ったままの役右衛門、大鷹に手裏剣を5つ投げつけます!

しかし手練の大鷹、5つの手裏剣をすべて刀で弾き返す!弾き返された手裏剣すべて、役右衛門の方へすごい勢いで飛んでゆき、役右衛門の体をかすり、すべて背後の木に刺さります!


かたたたたんっ!


「おい、大鷹、どうせ弾き返すんなら、ちゃんと俺に当ててみろよ」

役右衛門がにやっと嗤う。

大鷹も、同じくにやりとわらったかと思うと、役右衛門の苦無や手裏剣を留めていた縄が全て切れ、

がちゃんがちゃちゃちゃがちょががんっ

と自慢の武器が全て地に落ちる。


「最初っからあんたなんか狙ってねえんでね…その野暮ったい、がちゃがちゃうるせえおもちゃが癪に触るんで、落とさせてもらったんですよ。
さ、大将、こいつらは俺が引き留めておきますから、行ってくださいよ」


「…でも、大鷹」


「大将!津田に行くときに言ったでしょ!大将が小松島に無事に戻らねえかぎりは、俺は小松島に帰れねえ!

大将を待ってるたぬきや人が、小松島には大勢いるんすよ!

早く行ってください!

六右衛門の腰巾着は、俺がとっとと片付けて、あとを追います。さ、行ってください」


「わ、わかった、すぐに助けを呼んでくるから、大鷹、頼ん」

金長が走り出さんとするその時、 歯ぎしりしながらの作右衛門、金長に怒鳴りつける。

「おい待てこら!師匠の六右衛門さまに不義理をしておいて小松じ」

するとその言葉を遮り、大鷹、雷鳴のように怒鳴る。

「大将にてめえごときが話しかけんじゃねえぞ!!!自分の弟子に四匹の雑魚をよこすしかねぇような卑怯なやつは、阿波の元締めはおろか、大将の師匠ですらねえんだ!

おい、お前らは俺が遊んでやる!

よそ見してんじゃねえ!」


大鷹、自分の身長ほどもある大ぶりの大太刀を、三匹に向かって横薙ぎに振ります。


ぶしゅんっ


燕が耳元を飛んでいくような風を切り裂く音がして、三匹は慌てて後ろに飛びました。


「俺に任せてください。さ、大将、行ってください」


刀を、横一文字に振りかぶった大鷹。背中で金長にそう言い放つ。
金長、歯を食いしばり、ひとつ頷いて走り出す。


小松島の大将、金長の右腕!藤の木寺の大鷹の運命やいかに!


さあて!
ここらでちょいとおいとま!


おつづきは、またの機会っ!



ぽぽんっ!

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