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Peaceable Education #12 「幼児版ピースフルスクールプログラムの取り組み インタビュー2」

~東京都江東区の保育園の実践2 ピースは防災訓練と似ている?~

ピースフルスクールプログラムは子どもたちが社会参画するための学習プログラムでオランダで開発されました。集団での学びを特徴とし、子どもたちは大人の力を借りることなく、自分たちで課題を解決する力を身につけることをめざします。幼児版からスタートします。
 
東京都江東区の「みんなのみらいをつくる保育園 東雲」では、2017年の開園時から、ピースフルスクールプログラムを取り入れた保育を行っています。毎年新年度になると、4歳児、5歳児のそれぞれのクラスで週に1回30分のレッスンが始まります。全体で26レッスンありますが、時々振り返りも行いながら1年間続けていきます。
このインタビューは、開園当初から今年の3月末まで園長として、先頭にたって実践を進められた成川元園長先生に4月にご協力いただいて行いました。

―ピースフルスクールプログラムのレッスンは防災訓練と似ている?
レッスンでは、徹底的に話し合いで決めたり解決することを学びます。例えば、けんか。子どもたちはまず対立とけんかの違いを知り、対立はあってもいいけれど、それをけんかに発展させてはいけないと学びます。子どもたちはそれをふだんの生活の中で実践するようになります。
ある意味、ピースのレッスンは防災訓練と似ています。対立やけんかが起きる前に、起きたらどう対応するかを学ぶのですから。訓練を習慣化し練習を重ねて定着させる中で、とことん話合う感覚が身につくのではないでしょうか。

―練習を重ねる中で、子どもたちは話し合いができるようになるのですね。
園では、サークルタイムという毎日の話し合いの場を設けています。ピースのレッスンとは意識して切り分け、サークルタイムは、次に行ってみたい場所や行事、絵本の感想などその時々意見を出し合う場としています。
大きな違いはピースのレッスンには毎回決まったテーマがあること。レッスンではその時のテーマについて、自分はどう思うかを聞かれるので、子どもにとっては一生懸命考える機会になり、また一緒にいる仲間の意見を知る機会です。やりとりを重ねると子どもはいろいろ考えていることがよくわかり、驚くことも多いです。

―例えばどんなことがありましたか?
プログラムの後半に、みんなで決めようというレッスンがあります。みんなでする遊びを決めようとしても意見がまとまりにくい時、子どもたちに聞くと、実にいろいろな意見が出ます。じゃんけんをする、グループに分ける、多数決をするなどから、あみだくじをする、2つの遊びを同時並行で行うなど、大人には思いつかない意見も出てきます。子どもたちを見ていて感じるのは、意見する喜びや、言ってみる気持ちです。時々中に初めてそれは違うと口にする子もいます。
興味深いのは、いつも言わない子どもが口を開くと、みんながシーンとして聞こうとします。こういう様子が自然に見られるようになって、みんなで自分たちの生活の場を考えるような話し合いができるようになっていくのではないでしょうか。
 
―ピースを続けて変わってきたと思われたのはいつ頃ですか?
3年目くらいからでしょうか。
初年度は難しいと思っていたのですが、ある時、時間がかかるのだから少しずつ進めればよいと気づきました。そして同時にまわりも変わってきていたことに気づきました。

成川先生 レッスン風景

―例えばどんなふうに変わっていましたか?
この保育園はビルの2・3階にあるのですが、1階の障害児保育園の子どもたちがやってきても、こどもたちは当たり前にやりとりしています。仲間に外国籍の子どもを迎えても同じです。違いがあっても当たり前というのをレッスンで繰り返し学んで、子どもたちに根付いています。
 また、子どもたちは自分たちの意見で活動ができるということを発見し、4歳児の後半からこんなことを話し合いたいという子どもが出てくるようになりました。見ていると4歳児の頃は体験として受け止めているものが5歳児になるとなぜそれをするのか理由がわかってきます。意見を出すのも4歳児すぐのころは少し抵抗があっても、だんだん慣れて5歳児になると当たり前になります。例えば、こどもたちから夏に行っているお泊り保育を冬にもやりたいという意見が出て、実現させたのがこのころです。

―レッスンは先生がずっと担当されたのですか?
実際には毎年異動もあり、レッスンに参加する大人は少しずつ減らしました。
ただ、レッスンはやってみないとわからない楽しさも難しさもあるので、他の先生にも担当してもらうようにしました。ファシリテーターを養成する感覚です。
どんなレッスンの場にするか、どのくらい意見を受け入れたり引きだしたりするか。そのためには前後のフォローも必要です。子どもたちには、意見があっても言葉にできない子や、つい同じことを繰り返して長くなってしまう子もいますが、他の子どもの集中力や機嫌も見ながら調整する力が必要です。
これは日々の保育でも同じく大切なことで、レッスンの経験を重ね、毎回振り返りを行うことで、保育の質がよくなり、スタッフの成長にもつながります。

―レッスンを行う時に必要な力は、保育にも必要な力なのですね。
保育の先生方に指示・命令しないで話を聞くスタイルを続けてきたら、先生方も指示を仰ぐ、すぐに尋ねにくるのではなく自分なりの案をもって相談に来ることが増えてきました。そのために必要な打合せなどがあれば自分たちで行うようになり、運営が安定する中で、全体会議も当初の月1回から2か月に1回に減らすことができました。

―子どもたちにひっぱられ、そして学ぶ
子どもたちに大人たちも引っ張られていった気がします。例えばピースが大好きでレッスン以外でもパペットたちと遊ぶ子どもがいて、そこで学んだことをスタッフに対して「そんな言い方はしないほうがいいよ」と意見。するとスタッフはそれを受け入れて「じゃあどうすればよいと思う?」と相談するような、そんな関係も育っていました。
先生方もそうした子どもたちの姿を何回も目にすると、その場のファシリテーターとして熟考することになります。こうした経験が先生方を自立的に育てた気がしています。

―これまでの歩み、そして今後についてお聞かせください。
みんなのみらいをつくる保育園として、新しい考え方を進めていくのに最初の一歩になったのではないでしょうか。
保育指針が改訂されて「こども主体」という言葉は当たり前になりましたが、実際に何をするかはまだ現場の課題です。ピースフルスクールプログラムは、具体的に書かれているわかりやすいプログラムなので、今後幼児教育の講師をする時には、紹介していきたいと思っています。

(文責:クマヒラセキュリティ財団 金森匡子)

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