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Peaceable Education #11 「幼児版ピースフルスクールプログラムの取り組み インタビュー1」

~東京都江東区の保育園の実践1 導入初期のころ~

ピースフルスクールプログラムは子どもたちが社会参画するための学習プログラムでオランダで開発されました。集団での学びを特徴とし、子どもたちは大人の力を借りることなく、自分たちで課題を解決する力を身につけることをめざします。幼児版からスタートします。
 
東京都江東区の「みんなのみらいをつくる保育園 東雲」では、2017年の開園時から、ピースフルスクールプログラムを取り入れた保育を行っています。毎年新年度になると、4歳児、5歳児のそれぞれのクラスで週に1回30分のレッスンが始まります。全体で26レッスンありますが、時々振り返りも行いながら1年間続けていきます。
このインタビューは、開園当初から今年の3月末まで園長として、先頭に立って実践を進められた成川元園長先生に4月にご協力いただいて行いました。

―まず、開園時の様子を教えてください
開園にあたり、1年かけて準備を行いました。それまで0歳から2歳児までの保育園を経営しており、その後の受け入れ先として就学前までの認可保育園を作ることになりました。
話し合いで、みんなのみらいをつくるような子どもを育てたい、その保育は、こどもを主体に内発性・共感性・創造性の3つを柱にする、保護者は顧客ではなくてスタッフと共に保育をする仲間という骨子を作りました。
そんな時、ピースフルスクールプログラムを知り、導入を決めました、導入の決め手は、わかりやすかったことです。当時、「こども主体」といっても具体的に何をすればよいのか、明らかではなかったのですが、このプログラムには26のレッスンで、やさしく無理なく書かれていました。園の状況に合わせて少しずつ学びを重ねていくことができる内容だと思いました。

―初めのころのレッスンの様子を教えてください。
初年度は5歳児の人数が少なかったので、3歳児4歳児も集め、初めてのスタッフたちも加えて大人も子どもも一緒に混ざって、私がレッスンを行いました。子どもたちはすぐにこのレッスンになじんでくれました。例えば、毎回レッスンの最初に気持ちをたずねる時間があります。先生が「今ピースでない(穏やかではない)気持ちの人はいますか」と聞くのですが、これが子どもたちのお気に入りになりました。自分の気持ちを話してもよい時間だと理解すると、子どもたちは心のうちにあることや気になることをよく話すようになり、お母さんに叱られた、朝もっと寝ていたいのに起こされた、本当はもっとだっこしてほしいのにしてもらえないなど、子どもなりの話に、わたしたちははっとすることも多かったです。

成川先生 レッスン風景

―子どもたちはみんなよろこんで参加してくれましたか?
全員が必ず参加することは求めず、参加する気持ちのある人どうぞという感じです。たいていの子が椅子に座って参加する中で、少し離れたところにいて耳はしっかり聞いている子ども、意見は言えないけれど場にはいたい子どもなどもいました。その中に今日は参加したくないという子がいて、理由を聞くと、前回パペット劇のさるくんのお話が悲しくてつらかったので今日は参加したくないと。毎回パペット劇を行うので、その子どもに今日は違うお話をするからと言って参加してもらいましたが、子どもたちはパペット劇のさるくん・トラくんが大好きです。友人としてパペットたちに向き合っています。パペットたちが相談すると真剣に考えて答えてくれます。これまで私は絵本などもたくさん読み聞かせしてきましたが、パペット劇だと子どもたちがいっそう純粋に感じて受け止めているのを感じます。

―ふだんの生活にどのようにピースを活用されていたのですか?
感情カードは最初から取り入れました。感情カードは、こどもたちが自分の感情を知り言葉にできるように、カードを用意して毎朝登園時に自分の気持ちを選ぶというものです。園では子どもたちが自分の写真の横に貼れるようにカードにマグネットをつけています。自分の気持ちを教えにきてくれる子ども、途中で気持ちが変わったからと変えに行く子どももいます。

―こんな風に、ピースを実践される中で、先生はどんなことを感じられましたか?
3歳、4歳になると、自分の思いでどこまで動いていいのか悩む子どもが出てきます。例えばトイレ問題。仮に時間を決めてとか、先生が許可した時というように大人の都合優先でルール化すると、こどもたちは本当に遠慮しながら何回も何回も尋ねることを繰り返したり、自分のことよりも他人や場の雰囲気、ルールを優先してしまう子どもも出てきます。子どもにはどんな園だと穏やかに過ごせるのか、大人だけでなく子どもの意見を聞くことも欠かせないと思うようになりました。

―新しい環境で、先生方はいかがでしたか?
新しい園、新しい考え方ということで、最初の頃は手探りで、日々保育について悩み、涙して訴えてくる人もいました。先生方もレッスンに参加する立場で、子どもたちが目の前で理解し吸収していくのを見ながら一緒に学んでいきました。子どもたちに参加を強制せず、見ているだけ、途中外して戻るなど、すべてを受容して進めていく中で、先生方にも「参加」よりもピースの考えにふれて知ることの大切さが伝わったと思います。もちろん安全面など大人が責任をもってひっぱる必要があることは確実に進めながら、「『みんなのみらいをつくる』ことに自ら参加し 貢献しそして楽しむ心」を育んでいきたい、そのため、指示・命令しないという経営者の方針のもと、園として動いてきましたが、戸惑いは大きかったです。

―そんな中で先生はスタッフに対して、どのように動かれたのですか?
保育士はまじめでがんばる人が多いのですが、それまで受けてきた教育も含めて、指示通りにやりたい、場の空気に従ってその通りに進めたいと思う人がほとんどでした。私は、どんな時もまず話を聞きました。個別に話をしたり、声をかけて気持ちを聞いたり、お互いの理解不足を埋めたり、初年度は誰もが悩み、涙にくれていた印象があります。でも、みんなまじめに真正面から向かい合って悩んでくれた人ばかりでありがたかったと思います。

―何かを決める時はどのようにされていたのですか?
園全体で月に1回の会議をもち、そこでなんでも決めていくようにしていましたが、私はすべてこうしたらいいと示さずに、いろんな案を並べて話合い決めるようにしてきました。必要なことは子どもの意見も聞いて手探りで形にしていくプロセスが続きましたね。

(インタビュー2へ続きます)

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