はじめに
かつてと現在の朝ウォーキング
基本的に雨風が強くない日は、仕事が始まる前に朝ウォーキングをしていた。でも、今は仕事から距離を置いているので、ウォーキングを終えて自宅に帰っても、仕事をする必要はない。今の自分は、有給休暇を一部残して、2か月間の欠勤期間に入っているからだ。この期間が明けてもまだ通常業務をこなせない精神状態が続くようであれば、長期欠勤から休職に切り替わるそうだ。
欠勤前の朝ウォーキングは、基本的に40分、3km程度を朝食前に行うことを目安にしていた。それは、朝食後には仕事が待ち構えていたからだ。本当はもっと長い時間、長い距離を歩きたかったが、致し方なかった。
だが今は、その時間の制約がかなり無くなった。「かなり」というのは、時間の制約が全く無くなる。というところまでは至らないからだ。自分の家庭は自分と妻、2人の子供の4人家族である。家族と一緒に家に住んでいると、いくら自分が休みだからといって、一日中自分の好き勝手に時間を使えるという訳ではない。妻や子供の都合、食事の時間の都合などから、それまでには帰宅しなければならない。ということが思ったよりも多い。
そのため、欠勤期間中の朝ウォーキングは、心の状態が落ち着いている時は、1~2時間(距離にして5km~10km)程度になる。
だが、日によって、過去に会社で経験した高ストレスの原因となった事象をふと思い出したり、今の仕事をしておらず、かつ給与の支給対象から外れる欠勤状態と、業務への復帰後の不安や焦燥感から悶々としたり、イライラむしゃくしゃしたりと、心のコンディションが悪い日は、疲れてへとへとになり、もう家に帰ろうか。という気持ちになるまで歩き続けることがある。
時には、投げやりな気持ちになって、「自分なんか、いっそ熱中症にでもなって倒れればいいんだ。」という自暴自棄的な心情で歩き始めるほど心が荒んでいる日もある。
今日もややそのような心のコンディションだったため、気温34度の炎天下を、2時間6分、11kmも歩いてしまった。幸いなことに、疲れはしたものの、汗をダラダラかきながらも熱中症にはならずに帰宅出来た。
このようにしてヘトヘトになるまで歩いて帰ってくると、歩き始めの時の荒んだ攻撃的な気分が落ち着き、心が平静な状態に戻っていることに気が付く。
欠勤に至るまで
自分は6月末に、心が職場の数々の高ストレス因子を許容できる限界に達し、自分で心の非常ボタンを押した。新型コロナの発生直後の2020年4月以降、2年以上ずっと在宅勤務が続き、毎日朝から晩まで、寝室の隅の机の上のPCだけで仕事をし続けた。
これまでも今の会社の仕事は常に苦痛だったが、この日は、その度合いが異常だった。朝PCの画面を開き、溜まった英文メールを見ていたら、今まで感じたことのない動悸がしてパニックに陥った。メールの文面を読んでも、まともに頭に入ってこない。自分が担当している仕事の様々な未完タスクがあるのだが、それをこなす自信が急速に無くなって行き、「もう何も手を付けられない。何もできない!」と絶望する気持ちになった。
それでもまだ頭の片隅に理性が残っていたようで、まるでパワステの切れた重たいハンドルを無理やり回そうとするような感じで、やっとの思いで上司にメールを打った。「とても業務を出来る精神状態でないため、1週間ほど休暇をください。それと、今まで自分が担当されられていた複数案件のプロジェクトマネージャーは自分には重圧が大きすぎて、もうできません。降格して頂き、この業務から外してください!」
これまで会社員を26年やってきて、上司に対してストレートに要求を突き付けたのは、今回を含め2回だけ。それらはいずれも、社会人になって3社目の今の会社に入ってのことだ。とりわけ、2回目の今回の要求は自分にとって、今後会社から受けるであろう最悪の評価を覚悟した最大のチャレンジだった。
直属の上司は外国人で、まだ若く経験がないためか、或いは日本人的な考え方や自分の今の精神状態がそれほど大したことはないと思っていたのかは不明だが、あっさりと、「状況はよくわかりました。まずはゆっくり休んでください。休みが明けたら今後の事について相談しましょう。」と休暇を取ることについては了解した。
しかし、事態はそんなに単純ではなかった。このメールのやり取りの約1週間の間も、会社から貸与されているスマホには一日100通~200通の業務メールが着信する。会社のPCを開かなくても、スマホのメール着信が気になり、つい中身を見てしまう。
すると、自分の不在中も、そんなことにはお構いなしに、どんどん自分に対する上司の上司からの業務指示のメールや、他部署からの問い合わせ、社外との会議への参加者に勝手に加えられる、といった状況になっている。この状況が目に入っていながら、安心して休養など出来るものか。
なぜ上司は、自分が今とても仕事が出来る精神状態ではないにも関わらず、自分に対する業務指示や依頼事項を放置しているのか?上司の上司や人事部門に対し、今の自分の状況について報告していないのか?と疑念が沸き上がると共に、怒りがこみあげてきた。
約1週間の休暇が明ける前日、不安と怒りが限界に達し、上司に対してよりストレートに、強い言葉でメールを打った。やはり外国人には、日本人的な控えめな言い回しは通用しないし、なぜ自分がこんな精神状態に追い込まれたか、その背景についてもしっかり分かってもらう必要がある。と考えたのだ。
自分が今のような状態になったそもそものきっかけは、端的に言うと前述の部分で度々出ている、「上司の上司」によるパワハラ、理不尽な業務量、責任過多である。その点を明確にメールで訴えると共に、更に休暇を延長したいとお願いした。更に、まだ「上司の上司」や、人事部に話をしていないのならば、自分から直接話をした方が良いか?とも書いた。(日本人の上司であれば、「あなたでは当てにならないので、もう自分で直接「上司の上司」や人事部に伝えるので結構です!」と言われたと気が付くだろうが、外国人の上司には果たしてこのニュアンスが伝わったのかどうか・・・。
でも、兎に角こちらの主張ははっきりと伝えた。その直後、上司ではなく、人事部の責任者から直接自分に対して連絡があった。自分の上司から、話は聞いた。とのことだった。
この手続きをすることと並行して、私は会社の健康管理部署のカウンセリングに申し込んだ。カウンセラーに状況を話すと、現在の自分の状況をじっくり聞いて頂いた上で、即、産業医に相談するようアドバイスを受けた。カウンセラーから見て、当時の自分の精神状態は危うい所に来ていたようだ。
自傷行為にまでは至っていなかったが、バルコニーに立つと、「今ここから飛び降りたら楽になれるのかな。」、とか、「死んだらもうこの最悪の仕事から解放される。」というような思考が頭をもたげていたことをカウンセラーに話したからだ。
カウンセリングを受けた日の翌日、産業医との面談を申し込み、状況を話すと、「すぐ仕事をお休みした方が良いですね。但し、産業医だけではその指示を下すことはできないため、すぐに心療内科を受診してください。心療内科の主治医の診断書を得た段階で、休職等の指示を人事部に出します。」と言われた。
産業医はこれに加え、興味深いアドバイスをくれた。「心療内科は今は何処も込み合っていて、なかなか診て貰えるところが見つからないと思います。なので、自宅の近くだけでなく、少し広い範囲でインターネットを使って調べた方が良いです。」
「それから、心の病気の先生にかかる時は、自分との相性がとても重要。もし合わないとかえって病気を悪化させてしまうことになるので、もし自分と合わないと思ったら、すぐ別の病院に変えるようにしてください。」とも言われた。
心療内科探し
産業医とのZoom面談の直後、すぐにインターネットで心療内科探しを始めた。だが、産業医が言っていた通り、なかなかすぐに診てもらえる心療内科が見つからない。自宅から歩いて行ける場所にはそもそもなかった。
次に、自分が住んでいる市内にある心療内科を探すと、2か所候補が出てきた。それぞれの心療内科クリニックのホームページで、病院の特徴、院長の診療スタイル、治療方針、料金、役に立つ情報などを確認した上で、「ここなら!」とピンときたクリニックだが、1つ目は、そもそも、「既に受け入れ可能な患者数が上限に達したため、新患は受け付けていません。」と記載してあり、門前払い状態。
2つ目については新患受け入れ停止中とはなっていなかったため予約のため電話をしてみると、受付担当者からは、「一番早くて3週間後ですが、それでもよろしいですか?」との言葉が。今日から3週間も待っていたら、有給休暇を全て使い果たしても日数が足りない。
主治医の診断結果が貰えないのでは、そもそも産業医から人事部に対して自分の長期間仕事から離れて休むことの指示を出してもらえない中途半端な状態になってしまう。これは困った。と思ったが、ひとまず自分の診察枠をキープしておかねば。と思い、3週間後でも構わない。と答えて予約をしておいた。
しかし、自分としては、一日でも早く診察を受け、診断書を産業医に提出したいという希望があったため、自分が住んでいる市の周辺自治体にある心療内科も検索した。
すると、幸いなことに、隣の市といっても、車でそれほど時間のかからない場所に心療内科があることがわかり、ホームページの情報からも自分の希望にあう病院のようだと感じられた。
緊張しながら電話をしてみると、受付担当者から、「現在患者数が非常に多くなっているため、新患として受付対象となるかどうかは、現在の状態をお聞きした上で判断させて頂きます。」という返事が返ってきた。
やや雲行きが怪しいが、幸い門前払いではなさそうなので、正直に自分の今の状態、その状態に至った背景を詳しく説明した。すると、「担当医師に確認しますので、お待ちください。」と言われ、待っていると、程なく「それでは受付させて頂きます。」との返事があった。
自分のような心の状態は、心療内科を受診する患者の中ではそれほど程度が重くない部類に入ると思い、断られてしまうか。とひやひやしていたが、幸い受付をしてもらえたのでひとまずほっとした。
次の関門は、いつ診察をしてもらえるか?ということだったが、電話をした日から1週間以内の日時を提案されたため、この病院に決めた。その後、先に予約をキープしていた病院には、キャンセルの旨を伝えた。