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【南房総インタビューVol.7】二地域居住から見えるローカルとの関わり方~NPO法人南房総リパブリック理事長 馬場未織さん~

今回は、「NPO法人南房総リパブリック」を運営し、「平日は東京、週末は南房総市の里山で暮らす」という二地域居住を実践している馬場未織さんにお話を伺いました。

ーーーーまず初めに、馬場さんの自己紹介をお願いしてもよろしいでしょうか?ーーーー

馬場:私は二地域居住を2007年から続けていて、来年の1月で14年になります。仕事は執筆業をしています。元々、建築の設計の仕事をしていたのですが、2人目の子供を産んだ頃から転向をして、今の仕事に移りました。
また2011年に「南房総リパブリック」というNPO法人を立ち上げ、2012年に法人化をして、来年で10年を迎えます。
初めはただ家族との時間を作るために「週末の田舎暮らし」として、東京と南房総の二地域居住を始めました。しかし、週末だけ南房総に訪れるお客様のような生活を数年続けていくうちに、親しくなる方も出てきて、地域の資源を使って楽しんでいたということもあり、恩返しをしたいという気持ちも芽生え、仲間と一緒にNPOを立ち上げました。

ーーーー私たちも馬場さんのブログや文献を通して、南房総や二地域居住というものに触れてきたのですが、そもそも南房総でただ二地域居住をするだけでなく、地域の活動に主体的に関わっていくきっかけはあったのでしょうか?ーーーー

馬場:きっかけは近くに住んでいるお宅のおじいさんが亡くなったことです。その方は私たちが二地域居住を始める前まではその地域のお目付役でした。その方が亡くなった時に地域が緩んだ感じがしたんですね。自分たちも土地に手を加える大変さとか、里山を維持することの労力の多さを実感していたので、地域の要人がいなくなることでこんなに風景が変わるんだということを体感しました。東京ではあまりないことですよね。竹が伸びっぱなしとか、草が生えっぱなしになってしまったりとか。

そうやってお客様のように言われないとやらないということを続けていると、地域が人口減少とともに衰退していってしまいます。衰退してほしくないなら、自分たちが地域を担う側に立たないといけないんだろうなと考えるようになりました。

草刈り

「外の人」がローカルに入っていくために

ーーーーお話の中でも「お客様」という表現があったように、私たちのようないわゆる「外の人」が地域に入って活動したり、長くそこに住んでいる方とコミュ二ケーションをとることには難しいことではないかと感じました。馬場さんは地元の方と信頼関係を築く上で、何か考えていたことはありますか?ーーーー


馬場:NPOの理事の本間さんという方がいらっしゃって、彼は三芳の農家さんであり、里山にも精通している方です。
NPOを始めた当初、「私たちの活動を地域に知ってもらいたいという気持ちと、自分自身が週一しか南房総に行かないから地域になじみ切れない」という悩みがあって、どうしたらよいのか、彼に質問したことがありました。
その時、本間さんは「こちらからPRをしない方が良い。」ということをおっしゃっていました。
「私はこういう人間で、こういう活動をしています!こんなに地域のことを考えてます!」って仕事だったら言いますよね。そういった一方的なPRではなくて、例えばその地域で本当に親しくなった人が会話の中で、
「あの馬場さんの家は悪い人じゃないよ。NPO南房総リパブリックってなんかよくわかんないけど悪い人たちじゃないよ。」みたいなことが人づてで伝わっていく。「それは自分でPRをするよりもよほど信頼されることになって、それを待ったほうがいい。」と、その時本間さんに言われました。
その話がとても腑に落ちて、お互いの関係を個人的に結んでいくことが大事なんだなと思いました。

あとは先日ですが、うちの地域の取りまとめ役の方のおうちに上げてもらってお茶をしたんです。コロナ自粛後初めてでした。
その時に14年目にして初めて、地域の困り事の相談をされました。どうやったらこの地域の酪農を続けていけるのか、地域の引き屋台をできる人がいなくなっちゃってすごくもったいないんだけどどうしたらいいのか、とか。14年かけたら相談相手として見てくれるようになったんだなということを実感しました。
やはり1、2年目の時に、その人のことを信頼するということは難しいと思うんですよ。時間をかけることをいとわず、今わかってもらえなくてもちゃんと関わり続けていればきっといつか分かってもらえる、と言う考えをもとに、腰を据えていくことの大事さをすごく感じました。
ぱっと行ってどっか行っちゃう人とはやはりその程度の浅さでしか付き合えないじゃないですか。去らないこと、消えない事が見えてきたときに初めて心の内を明かしてくれるのだと思います。そこを大事にしていくほかはないんじゃないかな。それってコミニケーションの上手い下手ではないんですよ。

みんなで作業


ローカルで暮らす、引き受けるということ

ーーーー時間をかけるということがやはり重要なんですね。研究室を含め、私たちの周りは東京近郊に住んでいる人が多くて、良くも悪くも、近所の人とコミニケーションをとらなくても住めてしまう環境にいます。山の管理など、近所の人とコミニケーションをとらざるを得ない場所で生活することの感覚を持っていないように感じました。ーーーー

馬場:分かります。人とつながらないで生きれたら、それは楽ですよね。
地方から東京に流れるという大きな流れはここ何十年も変わっていません。それは若者にとって個人の自由を獲得できる、仕事があるという磁力のある場所が都市だからというところだと思います。
一方で、自分に体力があったり、自分の可能性を追求しているときはその自由さを満喫できるんだけど、自分が弱ったり、自分の人生がマイナスの方向に向いているような時は根っこがないことにめちゃめちゃ不安になるんですよ。自由と孤独は表裏一体な訳じゃないですか。
逆にローカルで暮らすことは良いことばっかりではなくてほんとに(笑)。
やらないと生きていけないことがある中で、不自由だったり、個人の時間以外にも生活を割かないといけない。それは一方で、自分が立ち行かなくなったときに、それでもここにはいてもいい、誰も取りこぼされないという安心感があるんですよ。家族って子どもの受験が失敗したからといって、見捨てたりはしないじゃないですか。それと同じようなところがありますね。
いろんな地域のことを引き受けてきたからこそポイっとされない、そういうところの安心感に価値を求める人たちが増えてきているのかなぁと思います。
それだけ不安が多い社会でもあるとは思うんですよ。会社に入ると上手くいっている、というプレゼンテーションで自分を打ち出していかないといけない。上手くいっていない人は資本主義社会の中では切り捨てられてしまう。そういう中で生き続けることはそれなりに大変な訳で。そこで行き詰まっていた人がそうじゃない生き方もあるんだなぁって再び目を向けた、という流れは確実にあります。世間ではブルーオーシャンで事業をする、自己実現をするという流れを中心に取りあげられていますけどね。攻めの局面にも守りの局面にも価値があると思います。

畑作業

ーーーー馬場さんの中では、東京と南房総を行き来することで、生活や考え方のバランスを取っているという感覚なのでしょうか?ーーーー

馬場:バランスというか、同じ時代にたかが隣同士の東京と千葉で本当に違う時間が流れていて、違う文化がある所を行き来することの気づきって膨大なんですよ。
週一で全然違う視点が入り込んでくる感じ。そうすると東京に住んでいる人が信じている価値の裏側を見ることもあったりとか。田舎の人が心配していることを相対視できたりとか。都市の人、田舎の人がそれぞれ課題に感じていることをセットで組み合わせられる瞬間があったりとか。そういうことがめちゃめちゃ面白いです。

夜景


南房総リパブリックを通して考えるプロジェクトデザイン

ーーーー馬場さんが理事長を務めていらっしゃる『南房総リパブリック』という活動を、「プロジェクトをデザインする」という視点で捉えたときに、どのような目的をもって行っている活動だと考えられますか?ーーーー

馬場:大きな意味で、そこで暮らすということのソフトの面に真正面から向き合ってると思います。そういう意味では、実は田舎とか都市とかの二項対立の話ではなくて、どんな場が人にとって居心地が良いか、という真理の追求を行っていると捉えられます。
南房総をフィールドにしているのは南房総と偶然ご縁をもてたからで、居心地の良さを紡ぐ実証的な実験をしているという感じです。それで、その時にある種の解答を得る時があるんですけど、その解が特殊解なのか、全国・全時代共通の一般解なのかを検証し続けています。
建築って、その場のコンテクストを読んで、そこに一つしかあり得ないものを設計していくわけですけれども、だからといって、その中にある理念とか、デザインソースというのは普遍的なものだったりするから、それがその場所だけの特殊解だとは限らないじゃないですか。それと同じだと思います。

ーーーーありがとうございます。僕らはもう少し、短期的に南房総に関わる人を増やすという内容までにしか考えが至ってなかったので、今のお話はとても目から鱗といいますか…ーーーー

馬場:0→1をつくることはすごく大変なことなので、短期的に増やすことももちろん大切です。私たちがやっていたプロジェクトの中に『洗足カフェ』というものをやっていた時がありました。東京で南房総のことを想像してもらうために、南房総の食材を知識とともに体験してもらい、南房総に少しでも興味を持ってもらいたいという思いで行っていました。その時、一度でも実際に南房総に足を運んでもらうことと、一度来た人に何度も訪れてもらうことのハードルの段差は全然違うと感じました。

移住とか二地域居住をしてもらうための一つ一つの段階って、連続的に語られるのですが、その段差がすごく大きいんですよね。そういう意味で、来てくれる人の回数によって段差の作り方が違うから、段差を10回作る作り方を追求するというのはすごく面白いことです。

障子

南房総リパブリックの目的としても、定住と観光の間のグラデーションをデザインしていくということがあります。色々な関わり方がある中で、いつも地域にいる人だけじゃなくて、頭の中で常に南房総のことを考えている人が増えていくんです。それって、地域にとっても、何か災害が起きたときに外からの応援が増えたり、地域外の人にとっても、拠り所がたくさんあることはとても豊かなことだと思うので、より知ってもらうということはとても価値のあることだと思います。

川遊び

ーーーー南房総リパブリックでの活動を継続させていくためには、資金が必要だと思うのですが、資金の調達や管理はどのように行っているのでしょうか。ーーーー

馬場:お金を集める手段の1つは、行政や民間の募集をしている助成事業の当てはまるものに応募して、熱意とテクニックでPRしていくという方法です。
もうひとつは、イベントでの収益です。この点に関しては、黒字にするというよりは赤字を出さないこと、助成金は初期投資には使うけど、その後の活動には使わないことを意識してます。そこで注意しないといけないことが、行政の助成金を使う時、たとえば参加費を徴収してはならない、全部助成金で賄わないといけないという制約が課せられている時があるんですね。そうすると、初回の助成金ありで参加費タダのところが、二回目は助成金なしで参加費をとろうとすると、途端に参加者がいなくなってしまうことがあります。助成金の危ない使い方です。活動の価値を減じることなく、持続的に人を募れる方法を冷静に考えることが大事です。

ーーーーこれから、南房総リパブリックの活動では、どんなことが求められるのでしょうか?ーーーー

馬場:ここ最近は、台風の被災地支援の際の支援物資の物販、ボランティア手配、農業ボランティアなど、自分たちのできることをできる限りやっていたのですが、実際どれだけ現地にとって役に立ったか、という検証は難しいんですよ。そういったことを経験して得た挫折感から、地域が本当に困っていることの解決を自己満足でなくするための方法をずっと考えているところです。単発の移住促進イベントなどだけでは解決できない深みにどうやって足を踏み入れていくか、というところが今後の取り組みになってくると思います。
また、田舎の地域を「助ける」という感覚から脱却することが大事です。たとえボランティアに行っていたとしても、地域よりもむしろボランティアをする方が精神的に満たされることもあるくらい。助けられてるのは実はこっち、というね。それをまっすぐ受け止めるところに、真の地域資源の価値利用のヒントがある気がしています。

ーーーーありがとうございます。最後に、南房総のまちが今後、どのようになってほしいかという理想を教えていただけますか?ーーーー

馬場:そうですね。人が増えることが大事というよりも、地域への愛着の深い人がいる方が大事だと思います。あとは、自分の大事にしている場所を俯瞰して見てみるといいなと思っています。私は、自分が海外のツーリストだと思ってその地域に訪れるのがいいなと思っていて、そうすると、本当に地域の価値をあげているものの検証になると思うんです。例えば、よくインスタグラムでかっこいい写真をあげますけど、そのかっこいい写真は風景から切り取ったもので、フレーム外のリアルなところに着目することが大切だと思うんですね。そういう意味では、本質的に美しい風景を作ることにもう少しまともに向き合っていきたいな、という気持ちがあります。

私が地域の作り方として興味があるもので、神奈川県の真鶴町に『美の基準』というものがあるんですけど、そこでは街と民間が一緒になって美しさの基準を決めて考えているんですね。そういった、地域を良くする目をみんなで養う、教育を作る、リテラシーを共有する、ということは、建築を出た人たちの役割だと思っています。1番良いことは、地域の価値と個人の利益が合致することなんだけど、そこを乖離して考えるんじゃなくて、合致してみんなで探っていくという未来があったら面白いなと思います。

里山とトラック

ーーーーありがとうございます。本日インタビューをさせていただくまでは、地域を良くするためには関係人口をどう増やすか、という短期的な視点でしか考えが及んでいなかってのですが、時間をかけて地域を作っていくということや、地域の魅力を深掘りするために俯瞰視することの大切さ、二地域居住の本質的な価値を知ることができました。大変貴重なお話をありがとうございました。ーーーー

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写真:zoomインタビュー当日の様子

編集担当:研究室4年 小俣翔 坂田耕平


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