【院試体験記】京都大学理学研究科物理学・宇宙物理学専攻
こんにちは、私は大阪府立大学の工学域応用化学課程に在学中ですが、どうしても物理の研究に携わりたいということで理物の大学院を受験しました。その結果、京都大学理学研究科の物理学・宇宙物理学専攻の院試に合格しました。この記事では自分が行った勉強と試験本番のことについて紹介したいと思います。皆さんのお役に立てれば嬉しいです。
4回生の4月までにした勉強
自分は1回生の10月くらいまでは(授業を除けば)化学の勉強しかしてきませんでした。1回生の11月に初めて量子力学に触れ、そこから授業の合間を縫って物理の教科書を読み進めました。自主ゼミで輪読したものもあります。その中で特に院試に役立ったと思うものを紹介します。
砂川「理論電磁気学」(第8章 電磁波の途中まで読んだ)
JJSakurai「現代の量子力学 1, 2」(第5章 近似法の途中まで読んだ)
畑浩之「基幹講座物理学 解析力学」
清水「熱力学の基礎 I, II」(相転移まで読んだ)
田崎晴明「統計力学 I, II」
Webサイト「物理とはずがたり」(特に力学と量子力学を参考しました)
これ以外の分野(力学や物理数学)は色々な問題を解く過程で知識を身につけていきました。
4回生の4月から試験日までにした勉強
4回生の4月からは演習問題と過去問を解くことに専念しました。研究室がある日はコアタイムが10時-19時だったので一日3時間程度、7月末からは研究室が院試休みに入ったので一日6~8時間勉強しました。各分野の一般論を自力で再現できるか、その一般論のどの部分を用いて問題を解いたのか、などを意識しながら演習問題を解きました。
演習しよう力学(1周、苦手な問題だけ2周)
演習しよう電磁気学(2周した)
演習しよう熱統計力学(2周した)
演習しよう量子力学(1周した)
演習しよう物理数学(ベクトル解析・ラプラス変換以外1周、複素解析だけ2周)
石原純夫・泉田渉「フロー式 量子統計力学」(1周した)
過去問R6~H28まで(9年分を1周)
過去問はどの年も6~7割は取れました。「演習しよう」で解いたことのあるような問題をまず全部解いたら5割くらいとれて、残り1,2割は見たことないけどなんか解ける問題でした。どの年も全く太刀打ちできない問題が2割くらいありましたが、研究室見学の際に合格点は5,6割だと聞いていたので本番の目標は6.5割のつもりで勉強しました。
もっと読んでおけば良かったと思う本
ここでは時間があったら読んでおきたかった本を紹介します。
砂川重信「電磁気学演習」
畑浩之「弱点克服 大学生の解析力学」
ランダウ・リフシッツ「理論物理学教程 力学」
村上修一「フロー式 物質中の電場と磁場」
久保亮五「大学演習 熱学・統計力学」
詳解演習シリーズ
砂川電磁気演習・ランダウ力学・久保統計は院試問題の元ネタ的な本なのでやっておいて損はないと思います。畑先生はかつて京大で教鞭をとっていたこともあり、問題の問い方が過去問に似ていると思ったので挙げました。
演習しようシリーズは院試勉強の時期に入る前に固めておいて、院試前はここに挙げたような広範囲をカバーしている演習書を解くのが理想なのかなと思いました。
分野別の具体的な傾向と対策
力学
中心力・連成振動・剛体が頻出だと思います。剛体は運動についてよく問われますが、回転軸の安定性など込み入った所までは聞かれない印象があります。また力学全体を通して解の線形安定性がよく問われている感じがしました。
電磁気学
静電場・静磁場・電磁誘導・電磁波がよく問われます。特に、電気・磁気双極子モーメント、物質界面での境界条件、制動放射、ポインティングベクトルの計算などがよく出てくる印象です。結構重めの計算問題が多かったです。
熱統計力学
ゴム弾性のモデル、Ising模型、BEC、熱力学関数やその偏微分係数の表式の導出、などがよく出てきます。Ising模型については様々な解き方に触れておくのが良いと思います。
量子力学
一次元(に帰着できる)ポテンシャル、調和振動子の代数的解法、磁場中の荷電粒子がよく出ます。スピンや角運動量の合成、摂動論もたまに出ます。一次元ポテンシャル問題は、束縛問題なのか散乱問題なのか、束縛問題ならポテンシャルは対称か非対称か、遠方での波動関数のふるまいはどうか、など確認するポイントが多いので侮れません。
物理数学
フーリエ解析・複素積分がよく出ます。色々なパターンについて解いておくのが良いと思います。
ここまで自分が過去問を問いた時の所感を書きましたが、本番の試験では傾向からかなりはずれた問題がいくつも出題されて苦戦しました。余裕ができたら過去問ではあまり見かけない問題を解いておくのも良いと思います。
試験当日の話(筆記)
筆記試験は午前午後に分かれていて午前は9時-12時の3時間、午後は13時-16時の計6時間ありました。
午前の試験
午前の試験問題は以下のような配点でした。
力学(100点)(小問8個)
電磁気学(100点)(小問6個)
統計力学・熱力学(50点)(小問5個)
量子力学(25点)(小問4個)
物理数学(25点)(小問3個)
まず最初の1時間で量子力学と物理数学を慎重に解いて50点確保、次に30分で熱統計を8割、ここまでは順調でした。力学の(1)(2)や電磁気の(1)(2)(3)が比較的解きやすかったので1時間ほどかけて解きました。この時点で残り30分なのに得点率は5割を下回っていて、もう解ける問題が無くかなり絶望したのを覚えています。悪あがきで力学の(3)と電磁気の(4)(6)を勘で埋めて、熱統計(5)のジュールトムソン係数の符号は適当に正として議論を進めました。(逆転温度で場合分けすることに気が付けなかったのは悔しいです。)
最終的な得点率は5割くらいだと思います。
午後の試験
午後の試験問題は以下のような配点でした。
量子力学(100点)(小問8個)
統計力学(50点)(小問5個)
物理数学(50点)(小問6個)
実験(50点)(小問5個)
力学(25点)(小問4個)
電磁気学(25点)(小問4個)
量子力学の問題は傾向通りの磁場中の荷電粒子の問題だったので意気込んで取り掛かりましたが(5)までしか解けませんでした。統計力学も傾向通りのゴム弾性ですが相互作用ありという見たことのない設定。(1)(2)が相互作用無しの場合だったのでとりあえず埋めておきました。力学は演習しようで飽きるほど解いた転がる剛体の問題だったので瞬殺できました。ここまでで2時間は経過していたと思います。
残る問題は、ノータッチだったラプラス変換、フォトダイオードの原理(全く分からなかった)、定義すら知らない群速度の問題で完全にお手上げでした。電磁気は群速度が絡まない問題だけ解いて、統計力学の(3)(4)を勘で埋め、残りの45分はラプラス変換の問題に掛けました。ラプラス変換・逆変換の定義すら知らなかったですが、意外にもラプラス逆変換の積分経路が分からないだけでそれ以外は誘導に沿って解くことができました。
午後の得点率は5.5割くらいだと思います。
TOEICの点数と合わせて全体で5.4割くらいと予想しています。
試験当日の話(面接)
面接は筆記試験から一週間後にzoomで行われました。面接が始まる前に以下のものを準備しました。
受験票
出願時に提出した志望理由書とレポート
A4用紙1枚(興味のあるトピックをメモしていた)
面接は(理物は私服でいいという風潮がありますが一応)白のワイシャツを着て受けました。画面には3つほど枠があって第一志望の先生が1人で写っている枠と、第二希望の先生方3人が教室に座っている様子がカメラで中継されている枠があったのを覚えています。第一志望の先生とは研究室見学の際お話ししたことがあったので多少緊張がほぐれました。面接では次のようなことを聞かれました。
人から聞く話ではもっと専門的な質問が来るそうですが、自分は化学系出身なこともあり「今までどんな勉強をしてきたか」という質問が多かったです。
結果は第二志望合格でした。そもそも筆記の時点で受かっていると思わなかったのでとても嬉しいです。志望したのは京大だけで第一第二希望は両方とも理論系、第三希望以下は無しというかなり攻めたことをしたので、合格発表までメンタルが削られました。併願校はできる限り受けるようにしましょう。
最後に
自分がこの試験を突破できたのはたまたま運が良かったからだと思っています。理物の理論系合格者の中ではおそらく底辺に近い成績なのだと思います。裏を返せば、最低限の演習を積めば学部が違えど受かる可能性はあるということです。これから理物の大学院を受験される皆さんを応援しています!この体験記が皆さんに少しでも勇気を与えられることを願っています。
最後まで読んで頂きありがとうございました。