LEONE #32 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第5話
1章:The Good, The Bad and The Ugly
第5話 留置所にて
『カウボーイの都市・ペイV』にもいつのまにか夕闇が舞い降りる時間が来た。
灼熱した太陽はすでに姿を消し、徐々に下がった闇が街を覆っていた。ただ闇の中の風の音だけが、なおさらうっとうしくうずくまった。
昼も静かだったメインストリートは、夜になるとさらに死んだように息を止めていた。砂風のせいなのか、ほとんどの建物が雨戸までしっかり閉まり、明かりが漏れる店は十か所に一つぐらいだった。
保安官事務所も同じだった。
もともと24時間電気をつけて民衆の杖になるべき保安官事務所だが、ここの保安官たちは自分たちの任務について考えがちょっと違うようだった。
先程まで大勢いた保安官は、いつのまにかみんな消えていた。
暗い建物の中には、明かりが二つだけ。留置場の天井にかかった白熱灯と、その留置場を監視する当番の机の上だけだった。
その暗闇の中で、今日留置場の唯一の収監者、ビル・クライドは血を吐く思いで泣き叫んだ。
「やあ、こいつら! いっそ俺を殺せよ!」
こう見えても彼は、48の銀河全体に名を馳せている賞金稼ぎだった。何度かの死線を乗り越え、彼自身が考えるのに不当な中傷謀略で逮捕されたのも初めてではなかった。拷問に似たようなことも何回か経験した。
しかし、こんなおかしな拷問を受けたことはなかった。
「こ、この野郎! でめえそれでも保安官なのか! 人として恥ずかしくもないのか? あん!」
「クソ! 何やってるんだ! いったい何をやっているんだよ! 神聖な職場で!」
「やあ、この、まじクソッタレー」
ふらつく両手で窓格子をぎゅっとつかんだまま、ビル・クライドは悲鳴に近い叫び声を上げた。
「そんなのは外出てホテルに行ってやりなさい!」
「ぷはぁ」
やっとくっついていた二人の唇が離れた。
「もう……あのおじさんは何なの?」
「おじさん……?!」
ビル・クライドは再び憤りに身を震えた。
どんなに激しく震えていたのか、つかまっている鉄格子まで少し震えているようだった。
実際、女はクライドよりかなり若く見えた。そしてそれは、その女を膝の上に座らせているクソガキの新米保安官の方も同じだった。
おそらくその新米保安官は、保安官の中で最も若いという理由で、今日の看守役を無理やり引き受けさせられていたようで、最初はクライドもそんな彼に少々同情していた。
もちろん、他の保安官たちがみんないなくなってから、あのクソ青二才が自分の女をここに呼び入れるまでの話だが。
「お前らがここでくっついてること、他の奴らは知ってるのか? あん?」
「あ、もう……あの人本当にうるさいわ」
新米保安官がため息をついて、女を膝の上からやわらかく押し出した。
女はやや不満の表情で自分の彼氏から降りてきて、代わりに机の上に腰を掛けた。新米保安官はそのままクライドの方に椅子を回して、帽子を動かしながら文句を言った。
「おい、ハイエナさん。そんなに嫌だったら後ろ向いて壁でも見てれば」
「そんなバカげたことを……今ここにいるのはお前らと俺だけなのに、息する音からチューする音まで全部まる聞こえじゃねーのか!」
「じゃそれでも聞きながら一人でハッピータイムでも楽しんだらどうだ?」
「……でめえ。俺が出るとき本当に殺すぞ。半殺ししてやる」
怒りに満ちたクライドの声に、若い保安官は笑顔で答えた。
「そう? それでいつ出るつもり?」
「いつもクソもあるか! あの小娘がお金さえ持って……来たら……」
今にも爆発しそうだった声はだんだん小さくなっていった。
若い保安官は彼をあざ笑うかのように微笑んでいたが、クライドはもうこれ以上怒ることができなかった。怒りが収まったからではなく、怒る気さえ残っていなかったからだ。
外はすでに暗くなり、銀行もすでに閉ざされているだろう。
もし、彼の雇い主、名前も知らないその少女が、道に迷わずにちゃんと銀行まで行けたなら、お金を持ってここに来るつもりなら、すでに来たはずだ。
しかし少女はまだ来ていなかった。
結論は二つに一つだった。少女が彼をだましたか、それとも何かが起きたか。
「あら、なに? そのおじさん、女のせいで閉じ込められているの?」
若い女が割り込んだ。クライドがぴりぴりする額をマッサージしている間、若い保安官が肩をすくめながら代わりに説明した。
「この人にすっかりはまったある貴族のご令嬢が、2億GDを現金で持ってくると話したんだって。信じるか?」
「プフッ。どうしたの?おじさん。その話を信じたの?」
女は口を覆って笑った。クライドはもうあきらめたように首を横に振り、握っていた鉄格子から手を引いた。
もはや彼には、口喧嘩する気も、状況を考える余裕も残っていなかった。こんな時はやはりお酒が最高だが、今は飲めないから少なくとも一眠りでもしたいところだった。
「クソ。うん。もう俺にもわからん」
彼は手を振り、とぼとぼと歩いて壁の方に向かった。背中を彼らへ向け、横になった。
「お前らは好きにしろ。舐めようが噛もうが俺はもう寝る……」
「あれ、ちょっと待って……2億GD? もしかしてあの子のことかな?」
その瞬間、半分ほど閉じていた目がパッと開いた。
クライドは急いで立ち上がり、再び鉄格子へ飛びかかった。そのせいで驚いた女性が息を飲んだ。
若い保安官が眉をひそめて女の前に立ちはだかった。
「おいおい、ハイエナさん。なんだよ」
「お前! あんたの彼女、さっきなんて言った?」
「うん……?」
若い保安官の眉毛が上から下へ動いた。彼はそっと顔を回して、背後の彼女を眺めた。
「今なんか言ったか?」
女は怯えた表情でうなずいた。
「え、うん……昼間に、うちの銀行で、ん……ある女の子が2億GD……持って行ったけど……」
「その小娘だ!」
「ギャー!」
クライドが大きな声を立てながら、鉄格子を揺るがし、怯えた女は悲鳴を上げながら保安官の後ろに隠れた。しかしクライドには謝る余裕すらなかった。
彼は窓に顔が突き刺さるかのように、必死で寄り添った。
「おい、お嬢さん。銀行で働いてるんだろ? その女の子どうなった。おい? 頼む!」
「おい! こら! ちょっとじっとしていろ! この子が怯えているじゃん!」
「クフム……」
保安官の声にクライドは唇を震わせながら一歩後退した。保安官はため息をついてゆっくり彼女を慰めた。
「はいはい。ゆっくり話してみて。女の子がどうなったの?」
「し、知らないよ。正確には……」
女は泣きそうな声で口を開いた。
「銀行にいきなりメイド服を着た女の子がやってきて、2億GDくらい引き出したいと言って……支店長に合わせてくれと……それで……」
「そ、それで? それでお金は引き出せた? うん?」
クライドは切羽詰った声で聞いた。女はすねたように唇を動かしながら一生懸命うなずいた。
「ぎ、銀行の支店長がその子と会ってから、いきなり顔が真っ白になって……早く出してやれと……だから私が直接カバンにお金を入れました。2億GD。カバン一つにしっかりと。その子はそれをもらってから何も言わずに出て行って……」
よし!
クライドは無言でこぶしを握った。やはり彼の目は間違いはなかった。
その少女に漂う雰囲気は、決して真似したり作り出すことのできない、間違いなく貴族家のものだった。また短い間でも、彼が少女に感じたことによれば、少なくとも彼女は一度自分が話した言葉を破ったりする性格ではなかった。
嘘をつくには彼女のプライドが強すぎた。
だから、もう残りは彼女がここに来ることだけ……。
……なのに。
……なのに?
「おお、まさかと思ったけど、本当だったんだ。ハイエナさん、やるじゃーん?」
若い保安官は驚いた表情でクライドを眺めた。しかしクライドは保安官を見ていなかった。彼は何か抜けているのを思い浮かべるために唇をじっと止めて考えていた。
クライドから返事がもらえず、気まずくなった保安官は再び女の方に視線を向けた。
「そ、それで。その次にはどうなった?」
「……その次?」
「ああ、お金を持って出てから。その次は何があった?」
女はしばらく髪の毛をいじりながら悩んだ。しかしすぐ首を横に振った。
「それから女の子は見ていないよ。うん……あ、そうだ。支店長がなんだか今日、一時間早く閉めてみんな退勤して、と言った」
「あれ? なんだ、お前今日早く退勤してたの?」
「うん。それでお家に寄ってきたの」
「それだ!」
また大きく怒鳴る声が留置場の中に響いた。
今回は女だけでなく、保安官までもが驚いて後退した。二人が驚いた目で眺めた留置場の中には、いつのまにか正気に戻ったビル・クライドが頭を抱えたまま歯ぎしりをしていた。
「……クソ、どおりで。そう。きっとここに一番早く連絡が来たはず。保安官たち、だから急いで帰ったんだな?」
「……なんだ。なんだ。なに?」
若い保安官がびくびくしながら尋ねた。それと同時に、クライドが若い保安官をじっと睨み、口を開いた。
「おい、青臭いお前。一儲けする気はあるか?」
「……何?」
「儲ける気があるなら今すぐここを開けろ。今お前の先輩たちは、お前を除け者にして、みんな稼ぎに出たんだよ」
ぼやっとした二人の男女を前にして、クライドは自分の頭を抱えながら呻吟した。
「『カウボーイの夜』だ。クソガキ雇い主様よ…!」
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」