LEONE #27 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第2話 2/2
峻厳な法の審判にクライドを渡してから約2時間、セロン・レオネはひとりで『ペイV』の首都を歩いていた。そして、その2時間の散歩だけで、セロンはこの都市に対するクライドの評価に同意した。
この都市はすべてが中途半端だった。
『ロマンと冒険の惑星『ペイV』へようこそ!』
「クソッタレ」
セロン・レオネの口から悪態が飛び出した。
少なくとも数世紀前に使われていたかのような旧式の電話の形をした無人情報デスクは、実にその見かけに合う性能を誇っていた。
『都市地図』を押しても、『ロマンと冒険の惑星『ペイV』へようこそ!』。
『詳細住所検索』を押しても、『ロマンと冒険の惑星『ペイV』へようこそ!』。
さらには『機器故障申告』を押しても、『ロマンと冒険の惑星『ペイV』へようこそ!』。
ここだけでなく、町中の全ての情報デスクがこのような状態だった。ただ、銀行を探そうとしたセロンが予定のない2時間の都市観光を満喫したのもそのおかげだった。
なんだ? 本当にばかばかしい。
仮にも一つの惑星の首都である都市のメインストリートだ。平凡な小規模の惑星ですら人と自動車で賑わうはずで、ある程度の有名な惑星なら見上げることができない摩天楼と超高速で街を歩き回る個人の飛行艇のせいで、じっと立っているのもきついはずだ。
しかし、ここはどうなのか。
東西南北に伸びているコンクリート道路の上には、いつから停まっているか分からない空車だけが数台あるだけで、往来する車は一台も見えなかった。低ければ1層、高くても3階を超えない旧型商店はみんな揃って固く門戸を閉じている。
ただ昔の西部劇に登場するような、開拓時代の装飾だけが、通りのあちこちでぼろぼろに風化していくだけだった。
それまでならまだ大丈夫。しかし……。
セロン・レオネは狭い路地の内側に目を向けた。
メインストリートでは覗けない町の裏側。その見えない裏では、がらんとしたメインストリートとは対照的に不気味な活気が漏れている最中だった。
どこからかかすかにと聞こえてくる笑い声と、ガラスが割れる音、そこに叫び声と悲鳴。
メインストリートに敷かれた寂寞に比べて、その不気味な活気はセロンがより慣れているものだったが、そのために彼女をさらに不安にさせた。
その気持ちの悪い活気は、間違えなく裏社会に慣れている者たちが作り出すものであった。
「ちっ」
セロン・レオネは、自分でも知らないうちに襟をしっかり掴んだ。彼女を抱きしめたのは砂風だけではなかった。それよりべたつく……手足を這い上がってくるような不愉快な空気が気になった。
少なくともこんな身なりじゃなかったら。いや、こんな身体じゃなかったら、こんな田舎でもこれほどの不安は感じなかっはずたのに。
しばらく意味のない状況に時間を浪費した彼女は、再び首を横に振った。カウボーイ風田舎惑星に対する文句を並べることや、一朝にして小娘に転落した自分の運命を嘆くことより、今急がれることは別にあった。
早く銀行を探し、お金を引き出さないと。
お金を引き出さないといけなかった。
そしてそのお金で今日起こった一連の騒ぎに終わりを告げないといけなかった。
面倒になるのではないかと思って保安官たちに引っ張られるのを見過ごしたけど、それでもセロン・レオネはクライドとの約束を破るつもりはなかった。
警察を通じて渡そうが、メモでもつけて警察署にお金が入ってるカバンを投げつけようが、とにかく彼女はクライドに渡すと約束した2億GDをまともに支払うつもりだった。
その後は、生活に必要なものを購入し、できるだけ早く、もっと発展した惑星に飛び出す旅客便を探さなければならなかった。こんな田舎で博士を追う情報を得ることができるはずがなかった。できれば『パンテラ』、または銀河を越えてでも、もっとそれらしい惑星に行かないと。
そしたら少しでも手がかりを得られるはずだった。
そのやっかいなことを全て処理するためにも、彼女は今すぐ銀行を見つけるべきだった。
たとえ、古い無人案内デスクが銀行へ行く道を教えてくれなくても。
「……全く。しょうがない」
セロン・レオネは顔をしかめて周囲を見回した。
街は相変わらず静かで、かすかな声が相変わらず狭い路地の奥から少しずつ漏れていた。
それでもセロンは、最後まで街の裏側へ行く道は考慮しなかった。その代わり彼女は、しばらくメインストリートにある商店街を一つ一つ見て回り、かろうじて人の気配がある飲み屋を選んで足を早めた。
彼女が飲み屋のドアを押している間にも、メインストリートには一匹のネズミさえ見つけることができなかった。ただ、厚いほこりが積もったまま消えていく広告塔だけが、小さな背中が言葉なくパブの中に消えていく姿を眺めていた。
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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