LEONE #15 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第7話 2/2
「チームRED、チームBLUE! 急げ! ヤツらに準備する時間を与えるな!」
「ク、クソッタレが、警察の奴ら、どうやってここまで……うあああ!」
「チームRED、作戦エリア鎮圧完了! 次のフロアーに即時に移動します!」
「止めろ、止めろ! 止め……!」
なんてことだ……。
セロン・レオネはいま自分が見ている光景を信じられなかった。
なんてことだ。
本当だった。
すでに旗艦内ではあちこちで戦闘が行われていた。いや、戦闘というよりは「討伐」や「狩り」という言葉のほうが似合うかもしれなかった。
真っ白い戦闘服で重武装した兵士たちは、圧倒的に旗艦内の組織員たちを鎮圧していくところだった。大型スクリーンに映っているたくさんの防犯カメラのうち、どれを見ても『アニキラシオン』が明らかに受け身に追い込まれていた。
セロンは固唾を飲み込みながらその場面を見つめた。
切なさや失望感、安心感を感じる前にどうしても理解のできない状況だった。
いったいどうやってこの旗艦の居場所を見つけたのか。それにルチアーノが呼んだ『第三艦隊』はどうして彼らの侵入を放置したのか。
やがてセロンは苦笑とともにつぶやいた。
「これを喜ぶべきか、それとも悲しむべきか……」
「なにをバカなことを。お前の今の立場だと喜びすぎて暴れ死んでも足りないくらいなのに」
セロンは声が聞こえてきたほうに振り向いた。そこにはクライドが不満そうな顔で自身のトレンチコートの埃を振り払っていた。
「まったく。ここもそろそろだな。おい、ここ以外の場所はないのか?」
「いくつかなくはないけど……」
セロンは平然な顔を装いながら答えた。
「この画面を見る限り、すでにそちらのエリアは『SIS』の手に落ちたようだ」
「クソっ、このままだと今月も赤字だっていうのに」
クライドは肩を落とした。それを見たセロンが肩をすくめた。
「なら今からでも上に上がってルチアーノを狙ってみたら」
「バカか? あんな化け物に手を出したら、楽に死ぬこともできない」
「……あんた。賞金稼ぎだって言ってなかったか?」
クライドはセロンの質問を軽く無視し、額に垂れた汗を拭きながら部屋の奥にある椅子に座った。
セロンはあえて再び彼に質問するのをやめ、頭を回してスクリーンを眺めた。
セロンは『アニキラシオン』の金庫に案内すると言ってクライドをそそのかし、かろうじてこの最下層のフロアまで潜り込んできたところだった。もちろんそれはここにある防犯カメラの画面を見て旗艦内の状況を把握するためだった。
クライドの手を借りて二人の組織員を倒しその目的は達成した。大まかな状況を把握した今、セロンは頭を回転させた。
彼の計算では今の状況はかなり希望的だった。
(残念だな、ルチアーノ。おかげでこっちは一石二鳥)
おそらくルチアーノが逮捕され、調査が行われたら結局は『SIS』もセロンがとんでもない状況に陥ったということを知ってしまう。つまり、『アニキラシオン』のボスであるレオネ・ジュニアが少女型セクサロイドに変わったことに気付くだろう。
しかしそれは逆に言うと、少なくともルチアーノを捕まえて細かいところまで調べない限り、『SIS』は自分の正体がわからないという意味でもある。普通の人なら今目の前にいるこのアホ、ビル・クライドのように、どこかでさらわれた少女くらいに考えるのが普通だ。
これは絶好のチャンスだった。
ここを何とか抜け出すことができれば……。
セロン・レオネの元の体を持ってここを抜け出し、何とか元の体に戻ることができれば。ルチアーノを処理してセロン自身はアニキラシオンを取り戻せることができる。
そしてそのためには……。
「ふぅ」
クライドは大きなため息をつきながら立ち上がった。
「仕方ない。今日はこのくらいにして」
「おい、ビル・クライド」
「……あん?」
クライドは顔をしかめながら自分の名前を呼んだ少女を見つめた。少女は視線を防犯カメラに固定させたまま、クライドの方を見ていなかった。
クライドは最初からこの少女が気に入らなかった。
遠くから見た時はいい女に見えて銃弾を5発も使ってカッコつけたが、間近で見るとまだ発育の足りない小娘だった。
しかも命の恩人である自分の頭を殴ったり、怒鳴りながら飛びかかってくる始末。
ちなみに男の前で裸をさらけ出しても恥ずかしがらないこともマイナスポイントの一つだった。最初は少し顔を赤らめることもあったが、今は裸に上着一枚で出歩いているではないか。
どうせもう会うことはないが、それでもクライドはこのイカレたじゃじゃ馬娘に最後に何か一言言ってやらなければと思っていた。ここまで連れてきて無駄足を踏まされたのも気に入らなかったし。いざとなったらさっきのように脅すつもりで、クライドは銃を触りながら少女に近寄った。
そして冷たい声でこう言った。
「おい、こら。さっきから人の話を遮ってないか?」
「ビル・クライド」
少女は振り向かず、再び彼の名前を呼んだ。クライドは腹を立て何か一言言ってやろうとしたが、少女はそんな機会を与えずに話を続けた。
「いいから黙って質問に答えろ」
「……何?」
この小娘、本当にイカレ……。
「金が必要なんだろ?」
「……」
その言葉に、ビンタでも食わせるつもりだったクライドの手がそのまま空中で固まった。幸い少女の目はまだスクリーンに固定されたままだった。クライドはそっと手を下ろしながら、なんともない声で答えた。
「いや、まあ世の中に金がいらない人なんていないだろう。だからって人としての道を捨てるまで金が必要なわけではないけど……」
「ごちゃごちゃ言わずに。必要か? 必要ないのか?」
(この小娘は人に最後まで話をさせたら死ぬ病気でもあるのか。)
クライドは怒りを抑えながら返事した。
「……必要だ」
「よし。あんた、この旗艦にはどうやって入ってきた? 個人の飛行艇で潜入したのか?」
「当然だろう」
「ちょうどいい。では最後に、自分の腕に自信はあるのか?」
バカになった気分だ。なぜか逆らってはいけないような気分で、クライドは苦々しい顔でうなずいた。
「まあ……それなりには」
「ふう」
少女は軽いため息とともに振り向いた。裸にかけた上着の襟を引っ張りながら、少女はさっきとは違う、なぜか少し傲慢な顔でクライドを見つめた。
「最後の返事が少しさえないけど、仕方ない」
「何が」
「こちらからの条件は二つだ」
また口を挟まれたクライドは怒りを必死に我慢しながら少女の話に耳を傾けた。もちろん心の中では違うことを考えていたが。
(この小娘、ふざけたことを言ってみろ。痛い目にあわせてやる。)
少女が口を開いた
「まず一つ目。俺と、荷物一つをお前の個人飛行艇で一番近い惑星まで安全に運んでもらう。なかなか大きい荷物だ。当然飛行艇まではお前が運ばないといけない」
それはお願いでも、依頼でもなかった。一方的な通報だった。結局我慢できなくなったクライドはムッとしながら声を上げた。
「おい、俺が何で……」
「二つ。俺にそんな風な口をきくことは許さない」
少女は目をつり上げ腕組をした。
「口を慎め。さっきみたいにレディだとかなんとかみたいなサムイ言い方をしろとは言わないが、最大限礼儀正しく、敬語を使うんだ。呼び名は適当に任せる」
……ダメだ。もう我慢できない。
この小娘がいったいどこから現れたのかは知らないけれど、こいつは48の銀河全体でも片手で数えることができる図抜けた才能を持っている。それも二つも。
状況把握ができない才能と、人を怒らせる才能。
クライドは無意識に自分の手が少女に向かうことを感じた。
膝の上にのせて、ケツをたたいてやる。
泣きながら謝っても絶対に許さない。
変態だと思われても関係ない。
せめてそれくらいの屈辱と痛みを与えないと、この怒りを鎮めることはできない。
その時、少女が自分の右手を上げた。
(なんだ、反撃でもするつもりなのか?)
クライドがそんなバカなことを考えてる間に、少女は右手から二つの指-人差し指と中指を立ち上げた。
少女は言った。
「2億」
クライドの手がほぼ少女に触れる直前、彼はかろうじて自分の手を止めることができた。しかしそのまま止まること以外はできず、そのせいでクライドはすぐにでも少女を掴みそうな、変な姿勢で固まってしまった。
そのままクライドはマヌケな声で尋ねた。
「な、なに?」
「この条件に同意するなら、あんたに現金で2億を支払おう」
クライドの顔が白く変わっていった。
そんなクライドを見つめながら、少女、いや、セロン・C・レオネ。『アニキラシオン』のボスでありながら当主である彼は、いつの間にか取り戻した自信満々な笑顔とともに、最後の釘を刺した。
「やるのか、やらないのか?」
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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