LEONE #3 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第2話 1/2
序章:Running On Empty
第2話:レディタリア 手術前
セロン・C・レオネ。
それが48の銀河系に悪名をはせている犯罪組織『アニキラシオン』のボスの名前だが、意外とそのフルネームを知っている者は多くなかった。
『SIS』の中でも『アニキラシオン』の追跡を担当しているチームたちだけがその名を知っているくらいだった。彼らもまた普通は彼のことを「リトルレオネ」もしくは「レオネジュニア」と通称していた。だからといって部下の中で彼のことを名前で呼ぶ者がいるわけでもない。両親はみんな他界し兄妹もいなかった。
タリア・ジャンカーナ。
彼のことを「セロン」と名前で呼ぶ者は、今彼の目の前にいるタリアが唯一だった。
「コンディションはどう。セロン」
タリアの手が優しくセロンの手の甲を撫で下ろした。30代になっても相変わらずの美貌を誇るタリアにそんなことをされたら、たぶん他の男たちは一瞬で体が硬直してしまうはずだ。しかしセロンはそんなタリアの手を慣れたように受け入れた。
彼はただ笑いながら首を振った。
「少し疲れてましてね」
「あら、そう? 今のあなたはそうは見え……まあ、あなたは普段でも肌が真っ白だから」
タリアが軽く首を傾げた。セロンは彼女の口調がやや芝居がかっていることに気付き、わざと大げさにため息をつきながら肩をすくめた。
「いくら僕でも心臓手術をすれば、数日間は休まないといけないじゃないですか。だから出来る限り仕事は先に処理しなきゃいけなかったのです」
「ずいぶん仕事が溜まっていたようね?」
「えぇ、かなり」
「どおりで……この数日全然会いに来てくれなかったのね。おかげで私も寂しい夜を過ごしたのよ」
「タリア様!」
結局ルチアーノがあきれた声で叫び、二人の会話を中断させた。
そんなルチアーノに背を向け、セロンとタリアは悪戯がバレた子供のようにキャッキャと笑いながら互いに見つめあった。こういう時の彼女の声としぐさにはいつも愉快なやんちゃ気があり、セロンはそんな彼女の行動が好きだった。しかしいつまでもじゃれあっているわけにはいかない。タリアはふぅっと深呼吸をして口元から笑みを消した。そしてルチアーノのほうに体を向けた。
「ごめんなさい。Mr.ルチアーノ。先に待機室に入って手術を見守るつもりだったけど、やっぱり手術の前にセロンに一目会いたくて…。あなたに伝えなきゃいけない話もあったし」
「私にですか?」
ルチアーノは驚いた顔で聞き返した。タリアはうなずきながら話を続けた。
「はい。『第三艦隊』から連絡がありました。ほぼ着いたようだけれど、どこで待機するかを聞いてきました。あなたが指揮をとって彼らに警護の配置場所を指定してあげほうがよさそうです」
「えっ……私がですか」
「はい、あなたが」
ルチアーノは困惑した表情でタリアとセロンを交互に見つめた。普通こういうことはいつもボスのセロンが、セロンが不在の時はタリアが指揮をとっていたからだ。しかし今、その二人はルチアーノを見ていなかった。二人はルチアーノがここに存在しないかのように、真剣な顔で互いを見つめあっていた。
ルチアーノには他に選択肢はなかった。彼はしばらく悩んだ挙句、二人に軽く頭を下げた。
「了解しました。ではボス、タリア様。お二人とも手術後にお会いしましょう」
「頼んだぞ。ルチアーノ」
「お願いしますね。Mr.ルチアーノ」
ルチアーノが退席するまで、二人は互いに見つめあっていた。
しばらくしてルチアーノの足音が遠のいたとき、セロンは力の抜けた笑みを浮かべ目をそらした。タリアも彼と同じく力の抜けた笑みを浮かべたのを見て、セロンは口を開いた。
「なんだか、僕にだけ言いたいことがおありのようですね?」
「そうなの」
タリアは軽くうなずきながら付け加えた。
「少し歩きましょうか、セロン」
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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