LEONE #28 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第3話 1/3
1章:The Good, The Bad and The Ugly
第3話 保安官vsビル・クライド
時間的には真昼だったが、建物内は非常に暗かった。窓は全部閉まり、鍵もかかっていた。照明もほとんど消えていた。当然、空気も熱くて蒸し暑く、息をするのも容易ではなかった。
さらにここは“赤い砂漠”で有名な『ペイV』。
暑さとほこりではどこにも負けないくらい悲しい町だった。この不快感は、どこかで誰かが苛立ち、誰かを怒鳴り付けているとしても不思議ではない状況だった。
しかし今この瞬間、建物の中を満たしているのは、重い沈黙と張り詰めた緊張感だった。
全ての人の視線が、唯一明るい照明の下に向いていた。照明は天井にぶら下がったまま、その下の小さなテーブルを照らしていた。六人の保安官が囲むそのテーブルには、ふたりの男が向かい合ってお互いをにらんでいた。
ひとりの男が先に口を開いた。
「良い。では最後にもう一度聞く」
「……おいおい、保安官の旦那」
その向こう座った男、ビル・クライドは、余裕があふれる態度で手を振った。
「俺を誰だと思ってるんだ。俺は“ハイエナ”ビル・クライドだぞ」
クライドは軽く指先に息を吐いた。そのせいで、照明の下で光を受けながら飛びまわっていたほこりが揺れ動いた。
「一度吐いた言葉は変えることがない。百回を聞いてみろ。俺の答えは同じだから」
「……そうか」
保安官は深いため息をした。彼は切ない感情がこもった目でクライドの顔を一度眺めた後、隣に立っている仲間に手を振りながら話した。
「仕方がない。留置場に入れろ」
「はい」
「待った!」
クライドは慌てて席を立ち上がった。しかし、いつの間にその後ろに戻ってきたふたりの保安官がクライドの両肩をしっかり掴んだ。クライドは何とか逃げ出そうと体をねじり、あせって口を開いた。
「おい俺の話をちゃんと聞いたのか? とりあえず、これを置いてから話しましょう! おい!」
「聞くもんは全部聞いたが」
保安官はそっけない声で答えた。
「“ハイエナ”ビル・クライド。駐車違反3回。無銭飲食6回。器物破損2回。飲酒による……まあ、とにかく、今お前は罰金を払えない。その話だ」
「払いたくても払うお金がねぇぇ!!」
クライドは悲しい声で叫んだ。
「一銭も! 一銭もねぇ! いや、払わないつもりではなくって、本当に一銭もありませんよ!」
「出せなくても出さなくても、結局同じだ。留置所へ連れて行け!」
「だから、今あんたらが俺を放して、少し時間をくれたら払うと言っているんじゃないか!」
ふたりの保安官が力強く引っ張り、留置所へ連れ出そうとするのを、クライドは一度かろうじて持ちこたえた。もう彼はほとんど涙ぐんでいた。
「あんたらも見たでしょう? あの高慢なふりをする小娘! その子がもう俺に2億GDを持ってくるんだから! それさえもらえば罰金なんかいくらでも払うよ!」
「イカレ野郎」
鼻をほじっていた保安官が、軽く鼻くそを飛ばした。隣で他の保安官がびっくりして席を外している間、彼は軽蔑する目つきでクライドを見た。
「そんなバカな話、誰が信じるか。その小娘が公爵家の娘とでも言うのか?」
保安官としては不意に投げかけた言葉だったが、クライドにはそれこそ待っていた質問だった。
クライドは首に青筋を立てて叫んだ。
「せいかあああい!正解! 正解! その小娘が貴族家のご令嬢だってよ!」
「……ほぉ」
保安官が再び手振りをすると、クライドをつかんでいた力が少し緩んだ。クライドは素早くふたりの保安官を押し出して、息を切らした。
そんなクライドを眺め、向かい側に座った保安官は指を組んで顎をついた。彼のまなざしはどこか陰険に光っていた。
「やるではないか。ビル・クライド。元々種馬のような奴とは知っていたが、まさか貴族のご令嬢まで手を出すなんて思わなかった」
「は……ははっ。そう、そうでしょう……?」
クライドは無理やりに微笑んだ。
厳密に言って、少女が彼に2億GDを与える経緯は、保安官の想像とかなりの差があったが、それでもとにかく彼が少女によって2億GDの金を稼げることになるのは事実だった。だからあえて細かい事情まで説明する必要はない。
重要なのは二つの事実だけだった。
少女が名門家のご令嬢だということ。そしてビル・クライドに2億GDという莫大な金額を持ってきてくれるっていうこと。
保安官は再びうなずいて話した。
「よし、ビル・クライド。とにかくお前も俺たちもカウボーイ同士だから、たとえ罪人でも代価さえ支払えばお互い必要以上に関係する理由はないだろう」
かろうじて息を落ち着かせたあと、クライドは肩をすくめた。
「……そう。やっと話が通じるではないか。なら俺を解放してくれ」
「まあ……お金さえもらえれば構わないが」
保安官が軽く眉をひそめた。
「しかし君が外に出なきゃいけない理由は何だ? その令嬢は赤ん坊でもないし。お金を持ってここに来るんだろ」
「おい」
クライドが頭を振った。彼はすでに平常心をある程度取り戻していた。前に座った保安官も、さっきよりはもう少しゆったりとした顔をしていた。
もう彼は安全だった。少女が無事にお金を持ってきてくれさえすれば……。
「この町の保安官であるあんたがそんな話をするのか? この町が、小娘が2億GDを持って歩き回っても何にも起こらない町だと? この凶悪なカウボーイタウンが?」
「は?」
保安官はにっこりと笑い出した。しかしクライドとしては、そのようにゆったりと笑う状況ではなかった。クライドは隣に立っている他の保安官を軽く押した。彼らの隊長の失笑を肯定の意味に受け入れたように、その保安官は黙々と道を開けた。
クライドはそのまま外に出ようとしたが、しばらく立ち止まった。保安官たちに背を向けて、彼は首だけを動かして後ろを振り向いた。
「それに、その小娘、間違いない。そんなに長く一緒にいたわけではないけど、間違いない」
「何がだ?」
保安官はゆったりした顔で問い返した。クライドは吐き出すように言った。
「世間知らずの箱入り娘だ。彼女は」
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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