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LEONE #1 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第1話 1/2

この作品は、韓国の小説投稿サイト「JOARA」で2015〜16年に掲載され、TS(トランスセクシャル)のジャンルで名作と評価されている作品です。今回、原作者のCHYANGさんの許可を得て日本語に翻訳し、ここに掲載することになりました。女性義体の中に閉じ込められた犯罪組職のボス「セロン・レオネ」と、その正体が分からないまま一攫千金を夢見る賞金稼ぎ。 危険なコンビの宇宙活劇が始まります。お楽しみください!

登場人物
セロン・レオネ 主人公。犯罪組織『アニキラシオン』のボス
ビル・クライド フリーの賞金稼ぎ
ボッシ・ルチアーノ 犯罪組織『アニキラシオン』のNo.2
タリア・ジャンカーナ セロンの亡き父の妾
レンスキー・モレッティ レオネ家の執事長
ドクター・ボスコノビッチ 義体移植手術を担当した医者
エリオット・ギルマーティン SISの捜査官

序章:Running On Empty

第1話  セロンとルチアーノ


ボスは眠っていた。

高級な椅子にもたれかかり、ボスは眠っていた。机の上では、立体映像機の光が作った画面が点滅を繰り返し、まだ終わってない仕事を早く終わらせようと動き回っていた。

無駄なことだった。ラパドン恒星系製の最高級立体映像機にも、不可能なことは存在した。堅く閉じられている瞼をひねり上げてボスを起こすこともそのうちの一つだった。

人類が足を踏み入れた銀河はすでに50を超えようとしている時代にも、未だ機械に出来ないことは多かった。人工知能とアンドロイドを好まない若いボスを目覚めさせることもその中の一つだ。

そしてそれが今、この男がこの部屋にいる理由だった。

椅子に座ったまま眠っているこの部屋の主を見つめながら、頭をポリポリと掻いているその男の姿はある種あどけなかった。だが彼の正体を知っている者なら、名を一度でも聞いたことがある者なら、男の前でそのような感想は口が裂けても言えないはずだ。

ボッシ・“ラッキー”・ルチアーノ。

ルチアーノといえば犯罪組織『アニキラシオン』のNo.2。

ボスであり謎のベールに包まれているこの部屋の主よりもはるかに凶悪なことで有名で、48の銀河系の捜査局すべてが震えあがる名であった。

彼の下で働いている組員たちの間では、彼があらゆる種類の薬物を使って筋肉を鋼のようにしたという噂が広がっていた。

彼らはその薬物が彼の脳みそを破壊してるに違いないと陰口を叩いていた。そのせいで彼は短気なボンクラになってしまったんだろう、か弱いボスの忠犬になってしまったんだろうと、声をひそめて陰口を叩いていた。

幸いそんな話まではルチアーノの耳には入ってないようだった。もしそうだとしたらルチアーノは片手で彼らの首をへし折っていたはずだ。

そんなルチアーノだが、今の彼の仕事は目の前のボスを目覚めさせることだった。彼は大きく深呼吸をして小さくて低い声で囁いた。
 
「ボス」

……

……

……

「クソっ」

ルチアーノはブツブツとボヤキながら腰を伸ばした。

時間はあまり残されてなかった。

いつもなら犯罪組織『アニキラシオン』にとって、ボスとNo.2に約束の時間などさほど重要な問題ではなかったが、今日だけは話が違った。かなり前から計画されていて、熟考の末決まったことだった。

どれほど説得したか。

その心を動かすために、どれほどの努力をしてきたか。

すべての準備は整った。その分多くの時間と費用を費やし、多くの物が関連している。だからこそルチアーノ自身が直接ボスを起こしにきたのだ。

「やってられないな」

ルチアーノは自分のボスを、この部屋の主を渋い顔で見つめた。

椅子に座ったまま眠っているルチアーノのボスは、お世辞にも男らしいとはいえなかった。目鼻立ちははっきりしているが、顔の線は細く、体は痩せているというよりもか細かった。机の上においてある腕も、襟からのぞく首も、真っ白で細くて今にも折れそうだった。

濃い茶色の髪も、大きな紫の瞳も、高い鼻も、彼はこの組織の先代のボスより、有名な歌手だった彼の母親によく似ていた。

かつて先代ボスが12歳の子供だった彼をルチアーノに初めて紹介した時、ルチアーノは彼が女の子だと思っていた。

男だと知ってからも、最初はその外見のせいで彼に服従する気にならなかったことも事実だった。

しかしボスの外見は母親譲りであっても、その中身は間違いなく父親のものを受け継ぎ、生まれながらのカリスマ性と犯罪者の資質をすぐに発揮した。

内面の才能と威光が加わってからは小娘にしか見えなかった美しい外見も違って見えてきた。やがてルチアーノは自分のボスを崇拝するようになった。

数年前、敵対組織のボスが彼の外見を見て男娼云々といったとき、真っ先にそいつの頭をぶん殴ったのはルチアーノ自身だった。

そしてこのボスはそんなルチアーノを早くから見抜いていた。だからこそ彼は他の誰でもないルチアーノに、誰よりも自分に献身的なルチアーノに、この頼みをしてきたのだ。

間違いなく……

「おーい、ルチアーノ」

突然の声にルチアーノはハッとし頭を上げた。目の前でボスが大きなあくびをしながら伸びをしていた。

ルチアーノは頭を振り、邪念を振り払った。しっかりするんだ。今はそれだけだ。

……

「ボス、お目覚めですか?」

「見ての通り」

首を左右に振りながら彼が答えた。ルチアーノはその姿を見て思わず微笑んだ。

「もっと楽な姿勢で寝たらどうですか」

ルチアーノの言葉に、ボスは不機嫌そうな顔で答えた。

「三日分の仕事を一気にやり遂げないといけない状況ではなかったら当然そうしたはずだ。君が直接起こしに来たのか?」

「そうです。もう時間なので」

「あぁ、そうか。ついに」
若いボスの口元には作り笑いが浮かんでいたが、その瞳には不安の色がみなぎっていた。ルチアーノはそれを見逃さなかった。

ルチアーノは彼の大きな手をボスの肩にトンと乗せた。

「医者が待ってますよ、ボス」

「わかってる」

ボスはめんどくさそうに彼の手を軽くはらった。

ルチアーノはまるで自分が目の前の若者の父親でもなったような気分で、凶悪な犯罪者らしくない笑顔を浮かべた。そして彼はボスに優しい声で話しかけた。

「心配ないですよ。無事に終わるはずです」

ボスは自分の服をポンポンとはらいながら、ルチアーノを見てニヤリと笑った。そして彼はわざと高慢な声でこう言った。

「当然だ」

ルチアーノはうなずきながら、心の中で答えた。

(計画通り終わりますよ。ボス)

ふたりは部屋を出た。

「信用できる医者なのか?」

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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」

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