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LEONE #17 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第8話 2/2



それから20分後、セロン・レオネとクライドは旗艦の廊下を嵐のように疾走していた。

「どけ、どけ! この野郎ども!」

「ひ、ひいいいいっ?!」

前に走っているのはクライドだった。両手に拳銃を握ったまま、目を光らせながら走ってる彼の姿は、鬼のようだった。その気勢がどれだけ恐ろしかったか、隣から彼を見ているセロンの心が落ち着かないくらいだった。

どれだけ凶暴で、疲れもせずにつっ走るのか……。

(こいつ、正気ではないな)

セロンは内心呆れたようにつぶやいた。はっきり懐柔するために4億GDという金を約束したが、まさかここまではしゃいで、暴れてくれるとは思わなかった。

この男、ビル・クライドはセロンと合うようなタイプではなかった。セロンはいつも金より品格を重視した。

ただ……。

この男の実力だけは、本物だ。

それだけは否定できなかった。

自分の実力に対して、「それなりに使える」と表現したクライドの言葉は、少なくともセロンからみれば謙遜しすぎのように思えた。今クライドは片手に一つずつ、二つの拳銃を持ち全力で走りながら射撃していた。

普通の場合は、その条件のうち一つだけでもまともな射撃はできないはずだ。しかしクライドは、狙った目標を完璧に倒していた。

「おい、テメエ、何者……?」

「黙って消えろ!」

パン!

パパン!

遠く前を突っ走っているクライドを追いながら、セロンは倒れた組織員をぴょんと飛び越えた。その組織員は、貫通した足を掴んで呻いていたが命に別状はないようだった。

セロンは彼との距離を縮めて、口を開いた。

「おい、クライド」

走ってる足を止めずに、クライドはセロンに顔を向けた。

「はいっ、お嬢様!」

「なぜ足を撃った?」

「はい?」

「なぜ足を撃ったんだ。頭ではなく」

セロンの質問にクライドは面食らった顔をした。

「あぁ、私はただ荷物だけ持って逃げればよいのかと……あいつら全部殺さないといけないんですか? そしたら頭を打ちます」

「……いや、いい。今は荷物の方が先だ」

「はい」

クライドはうなずいてからまた前を向いた。セロンは自分の判断を確信した。この男はかなりの実力者だった。なぜ自分がその名を一度も聞いたことがないか不思議に思うくらいだ。

ビル・クライドは徹底的な計算のもとで、自分とセロンが通る道の邪魔にならない程度に敵を倒していた。足を撃ったり、手を撃ったり、威嚇射撃で追い込んだあと、そのまま素通りしながら。もちろん反応の早い連中は瞬時に射殺することもあった。

ほぼ百発百中の射撃の腕に、鋭い判断力までそろえた実力者。自分の組織にもこれほどの実力者は少なかった。

「あの、お嬢様」

「うん?」

セロンは顔を上げクライドを見つめた。今度話しかけてきたのはクライドの方だった。

「荷物があるのは、次の次のフロアで合ってますか?」

「そう、手術室のような部屋があるはずだ。俺のから……荷物はその中にある」

「え、あの、それじゃ……」

クライドは少し迷ってから話をつづけた。

「おそらく、もうそろそろ『SIS』の連中とも鉢合わせになると思いますが、そいつらも撃たなきゃいけないんですか?」

「……」

セロンは口を閉じた。

クライドが言いたいことはわかっていた。とにかくクライドの本業は賞金狩りだし、犯罪者の首に対して懸賞金を支払うのは『SIS』だ。彼としてはいくら4億GDがかかっていても、後のことを考えたら『SIS』に銃を向けることは避けたいはずだ。

それにセロン自身も、『SIS』に目をつけられることは避けたかった。せっかく彼らの包囲網を抜け出すチャンスが来たんだ。せめて自分が元の体を取り戻すまでは彼らと絡むことは遠慮したい。

そしたら……。

「半分だけ、正直に行こう」

「はい?」

「おい、ビル・クライド」

相変わらず走りながら、セロンは冷静に話をつづけた。

「いいか? お前は我が一族の依頼を受けて、個人的に俺を救出しに来た。最初からお前は俺の救出が目的だったんだ」

「あ……あ、はい」

クライドは慌てている表情をしたが、やがてセロンの言葉を理解した。セロンはうなずきながら説明をつづけた。

「たぶん、こういえば『SIS』のやつらも無理矢理連れて行こうとはしないはずだ。だからその次は適当な話でごまかしてから抜け出せば……」

その時だった。

「ビイイイイルクライドオオオオ!」

廊下全体が割れそうな女の叫び声が響いた。

余りにも大きな声で、クライドとセロンは危うくそのままこけて床に転がるところだった。幸い二人ともバランスを失ったくらいでかろうじて危機を避け、そのまま止まった。同時に、二人は声が聞こえてきたほうを確認した。

そのとんでもない騒音の震源地であり、彼らの前をふさいだ張本人は、白いアーマーで重武装した一連の兵士たち、そしてその一番前で息巻いているスーツを着た黒髪の美女だった。

「テメエ、ぶっ殺してやるぅぅっ!」

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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」


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