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LEONE #19 〜どうかレオネとお呼びください〜 序章 第9話 2/2



「目標、一発目。的中しました」

オペレーターが落ち着いた声で報告した。レオネ家の執事長、レンスキー・モレッティはなるべく無表情を維持しながらうなずいた。

「続けて撃て。残骸すら残らないように、完全にぶっ壊せ」

「イエッサー」

オペレーターは短い返事とともに自分の任務に戻った。その間、レンスキー・モレッティは急激に動いている自分の心臓をあえて無視した。

彼自身、そして周りの彼へ対する評価も、彼は感情より理性に支配される人間と目されていた。彼はすでに50を超えた中年の男だが、その年になっても今まで一度も、今のような興奮を感じたことはなかった。

(この興奮は?)

炎に包まれていく目の前の巨大な船を直視しながら、レンスキー・モレッティはじっくり自分自身を観察していた。

(自分の手で主に死を与えることからくるものなのか?)

そうだった。

彼は裏切り者だった。

今目の前で、破壊されていくあの巨大な艦船、『アニキラシオン』の旗艦『ブラッディ・レイブン』には彼の若い主が乗っていた。彼が自分の目で直接見たわけではないけど、今頃か弱い少女型セクサロイドになっているはずの彼の若い主が……。

最初からすべてのことは計画されていた。

彼は若い当主が警護を名目として呼び出した『第三艦隊』の指揮権を握り、隠蔽幕を稼働したまま、闇の中に隠れて『SIS』の艦隊が近寄ってくることを見守っていた。彼の新しい主は『SIS』の兵が旗艦をほぼ制圧するころになると、襲撃を開始しろと命令した。

『SIS』のマヌケな奴らと彼の若い主、そして少ない組織員たちまで全部、『ブラッディ・レイブン』とともに宇宙の塵にしてやれと指示した。

おそらく彼の若い主は、家門に一生忠誠してきたその執事長にまで裏切られたということを知らないまま死んでいくだろう。その対価として自分はこの『第三艦隊』の指揮権と、『ブラッディ・レイブン』を沈めた男という名誉を得ることになるだろう。

(レオネよ。さようなら)

レンスキー・モレッティは震えている手を上げて彼の主、彼の家門に最後の敬意を表した。目の前のスクリーンには、すでに半分近く爆発に飲み込まれている『ブラッディ・レイブン』が映っていた。

その時だった。

「ル、ルチアーノ様。いったい何ですか?」

「黙れ! レンスキー、レンスキーの野郎はどこだ!」

「な、中に……ルチアーノ様?」

ドカン!

鈍い破壊音とともに、何人かの組織員が床に放り投げられた。レンスキー・モレッティは目をしかめながら、壊れたドアの方に体を回した。

誰なのかは聞くまでもない。この船の中にあれほどの巨体はほかにいないから。

「レンスキー・モレッティ!」

「ボッシ・ルチアーノ様」

ルチアーノの獣のようなうなり声に対して、レンスキー・モレッティはスマートな目礼で返事をした。少しも恐れていない冷静なしぐさだった。みんなが恐れているルチアーノだが、レンスキーだけは例外だった。今も昔も、レンスキー・モレッティは彼を“有用な獣”以上には見ていなかった。

ルチアーノが先に雷のような声で怒鳴った。

「テメエ、ぶっ殺す!」

「Mr.ルチアーノ」

レンスキー・モレッティは手を上げ、止めろの意味がこもったしぐさをした。

「申し訳ありませんが、私は今作戦指揮中です。今のあなたの行動は、その邪魔にしかなりません」

(そして、昔の主への私の哀悼の時間もまた邪魔されています)

カッコ悪いことだと思い、レンスキーはあえてそこまでは言わなかった。

「申し訳ありませんが、個人的な要件がありましたら後で時間を取っていただけませんか?」

代わりにレンスキーは、体に染みついた礼法に従って、最大限上品な言葉としぐさで「今すぐにこの場から消えろ」という表現を伝えた。中にこもっているメッセージはともかく、形式自体は丁重極まりのない言葉遣いだった。

しかしボッシー・ルチアーノはいつも見た目より中身を大事に考える男だった。特に人に関してはなおさら。

「“Mr.ルチアーノ”だと?」

ルチアーノは歯をむき出しにし、もう一度うなり声を上げ、何のためらいもなくレンスキーに近寄った。

何人かの組織員たちが驚いて彼を捕まえようとしたが、彼らの能力では止められるわけがない。ルチアーノは彼らをあっという間に倒して、手荒くレンスキーの胸ぐらを掴んだ。

「Mr.ルチアーノだと言ったか、レンスキー?」

レンスキー・モレッティは顔色一つ変えずに答えた。

「もちろんです。Mr.ルチアーノ。私にあなたをボッシーと呼ぶ度胸はありませんから」

「“ボス”だ。レンスキー」

ルチアーノは一段と凶暴な顔でレンスキーを追い詰めた。充血した目は猛獣のように光っていて、思いっきり開いている口から見える歯もまた、それに近かった。

それに対するレンスキー・モレッティの感想は次のようだった。

(口が臭い)

「聞いたか、レンスキー? “Mr.ルチアーノ”ではない。ボスだ。この俺が、このボッシー・ルチアーノが『アニキラシオン』の主だということだ。違うか?」

「フム」

もうルチアーノは、レンスキーをほぼ脅していた。隣で見ている組織員たちは、血が乾くんじゃないかと心配するくらい緊張していた。彼らはルチアーノがもしかしてレンスキーの頭をそのまま食いちぎるのではないかと心配しながら固唾をのんだ。

おそらく今この場で唯一平常心をたもっている男は、レンスキー・モレッティ、彼だけだ。彼はしばらく考えた後うなずいた。

「おそらく合っております」

「なのに!」

ルチアーノはさらに声を大きくした。

「テメエのボスがここにいるのに、いったい誰がお前にあの船をぶっ壊せという命令をした! 誰がそんな作戦をテメエに伝えたっていうんだ!!」

「Mr.ルチアーノ」

「“ボス”だ、レンスキー!」

「Mr.ルチアーノ」

もうこの二人の周りにいる組織員たちが呼吸困難に近い症状を感じていた。彼らはみんな真っ白な顔で続く惨劇に備え、覚悟を決めた。

その緊張感の中、レンスキー・モレッティは落ち着いた声で“遺言”を伝えた。

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著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」


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