LEONE #39 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第7話 3/3
「口座を追跡?」
半裸の体にコートをまとって、ルチアーノが問い返した。ランスキー・モレッティはうなずいた。
「もちろんです、Mr.ルチアーノ。数時間前にレオネ家の秘密口座から金が引き出されたことを確認しました。セロン・レオネ以外は不可能なことです」
「レオネ家の秘密口座か……なるほど。そういうがのあったんだ」
ルチアーノはちらっと顔を向き、今自分が出てきた部屋のドアをにらんだ。ランスキーは、それを見なかったフリをして話を続けた。
「とにかく、Mr.ルチアーノの言葉通り、セロン・レオネは生きていましたね」
ルチアーノがうなずいた。歯をむき出し、生臭く笑った。
「そう。そして今回は逃さない」
「Mr.ルチアーノ」
ランスキーは首を横に振った。
「すでに措置は取っている状態です。あらかじめ、一帯の銀行頭取に頼んでおいたおかげで、口座の使用が確認された後、すぐにCCTVの写真を受け取り、発信機をつけたカバンもターゲットに押しつけました。多額の懸賞金もかけておきましたから、このまま何もしなくてもすぐに捕まるはずです」
「さすがに、見事だ。ランスキー」
ルチアーノは鼻で笑いながらランスキーを押しのけた。彼は大またで廊下を歩いて行った。ランスキー・モレッティはしばらくその後ろ姿を見つめて、首を横に振りながら駆け足で彼に追いついた。
「Mr.ルチアーノ……」
「おい、ランスキー。言ったんじゃないか。実に素晴らしい罠だと」
ルチアーノも、もっと速く歩き始めた。もはやランスキーはほとんど走りっぱなしで歩調を合わせていた。ルチアーノはそんなランスキーに向かって、やじのように口を尖らせた。
「さすがに、素晴らしい。数十年間、レオネ家の雑務を身を張って修行してきた見事な執事だ。カルロの旦那もあんたを家族同様に思っていたんだって?」
「……」
「あの忠実なランスキー・モレッティが、その信頼に牙をむいて、自分の息子を裏切るとは、想像もしなかっただろうな」
「Mr.ルチアーノ」
ランスキーが立ち止まった。
前を走っていたルチアーノも足を止めた。ルチアーノはゆっくり、充血した目を光らせながらランスキー・モレッティへ向かった。誰でも怖がる光景だったが、ランスキー・モレッティは少しも気にしなかった。むしろ、彼らしくない、感情がこもった冷たい声で口を開いた。
「言ったように、たとえ『アニキラシオン』のボスでなくても、レオネ家に対する私の好意は、依然として変わりはない」
「……だから?」
「セロン・レオネに関しても、私はあなたに明確に言ったはずです。あなたが彼を連れてきて妾をさせることまでは構わない。しかし万が一でもあなたが彼の命に触れるとしたら……」
「はぁ」
ルチアーノが歯を見せて笑った。充血した目まで加わり、悪鬼羅刹のような笑いだった。
「バカなこと言うな。いったい女の体にするためにどれぐらいのお金がかかったと思うのか? 殺す? 壊す? そんなことをしようとする者がいたら、私が先にそいつを殺してやる」
「……」
「それに」
ルチアーノは鼻を鳴らして振り返った。
「まさにそんな事態が起きないように俺が直接行くのではないか。その賞金稼ぎたちがセロン・レオネを触らずに、こちらに渡すという保障がどこにあるんだ?」
ランスキー・モレッティはしばらく沈黙した。
実のところ、彼は悩んでいた。恐らくルチアーノは、嘘をついているわけではなかった。彼は貪欲な獣だけど、まさにそうだから自分の所有物が、自分の手に入る前に壊れることを決して許さないはずだった。
それに彼が指摘した部分もある意味では正しかった。
よりによって今セロン・レオネがいるところは、あのカウボーイの惑星。いつも懸賞金の猟師でにぎわっている険悪な場所だった。怪物と対敵する者は必ず怪物と似てくる……いつも犯罪者を追う、賞金稼ぎも違わないはずだった。
しかし、このままルチアーノを遅らせたら、きっと彼の主人が喜ぶことはないだろう。
ランスキー・モレッティは首を振ってルチアーノが出てきた部屋の方を眺めた。固い表情でドアを見つめる途中、再びルチアーノの方に視線を向けた。
ルチアーノはとっくに前を歩いていた。
仕方ない。
結局、ランスキー・モレッティは、現在の自分が思い浮かべる唯一の方法を選ぶことにした。彼はすばやく駆け抜けて、ようやくルチアーノに追いついた。
「いいでしょう、Mr.ルチアーノ」
普段通りの丁寧な口調で、しかし断固たる声でランスキーが言った。
「そこまでおっしゃるのでしたら、私も一緒について行かなければなりません」
「そうしろ」
ルチアーノは振り返ることもなく答えた。話し方がすでにそういうと思ったかのようだった。 ただ、ルチアーノはそこでさらに一つ但し書きをつけた。
「代わりについてくる時、ちょっと一緒に持ってきてもらおう」
ランスキーは眉をひそめた。
「何をですか?」
「『ホワイトスカール』、やつらを一緒に連れてくるよう」
その話を聞いたランスキーの顔が青くなったが、ルチアーノは彼を見ていなかった。その狂気たっぷりの笑みすら、すっかり消えていた。
重厚で固い表情で、ボッシー・ルチアーノはつぶやいた。
「奴らがセロン・レオネに手を出したなら……『アニキラシオン』のボスの所有物を 触った対価が何か、教えなければならないから」
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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