LEONE #48 〜どうかレオネとお呼びください〜 一章 第11話 1/3
1章:The Good, The Bad and The Ugly
第11話 『アーマード』ルチアーノ
光の中で数多くの人々のうめき声と罵声が沸き起こった。大半は、カウボーイたちの下品な声だったが、だった一人、少女の高い声もひとつ混じっていた。
「ビル・クライド!」
「不満は後で聞きますから、とりあえず走りましょう、お嬢様!」
クライドは少女の手首を握って走った。いや、走ろうとした。少女は必死に首を振りながら、クライドを自分の方へ引っ張った。四方から湧き出るうめき声の中で、どうしても自分の声を広めるために声を荒げた。
「ビル・クライド!」
「クソ、いいから! お嬢様! あとで説明するから……」
「ビル・クライド、このボケが! あいつはサングラスをかけているんだ!」
セロン・レオネの叫び声が響いた。遅かったが、ビル・クライドはカルビンの方に振り向いた。サングラスの向こうから、カルビンの目つきが凄まじく光っていた。
しまった。
彼は息を止め、地面に体を飛ばした。
タン、タン、タン!
ぎりぎり、ビル・クライドはカルビンの弾丸から逃れることができた。代わりにセロンと一緒に地面を転がってしまった。セロンは悲鳴を上げたが、クライドには悲鳴を上げる余裕すらなかった。
クライドは急いで体を起こし、同時にピストルを抜いた。結局全員が倒れた中で、半ば身を起こしたクライドと険しい顔をしたカルビンだけが、互いを銃で狙っていた。
沈黙の中で先に口を開いたのはクライドだった。
「…………予想してサングラスをかけたのか」
「そう。その手はエルカンで見た」
カルビンの声は乾燥していて無感情だった。クライドは困った顔で、フムと言いながら後頭部をかいた。
「クソったれ。『エルカン』にいたのか? お前、軍人出身なのか?」
「軍人ではなかった。しかし、それ以上は言いたくないな。それより、今すぐ銃を捨てて投降しろ」
「何のうわごとを」
クライドはにやりと笑って横に手を伸ばした。地面にぶつかった額をさすりながらくよくよしていたセロンを、彼は荒く自分の方へ引き寄せた。そのせいで驚いたセロン・レオネが一言悲鳴を上げたが、彼は気にしなかった。片方の腕は少女を抱いて、もう片手ではカルバンを狙ったまま、クライドは笑いながら言い出した。
「俺様は今20億GDのビジネス中なんだ。お前こそ家に帰ってトゥナイトショーでも観賞したらどうだ?」
「…………20億GD?」
「そう、20億…………いててててっ!」
カルバンはやや驚いた目で少女を、今ちょうどクライドの腕に強烈な歯の跡を残してその懐から飛び出したその少女を眺めた。
クライドが泣き顔になって自分の腕を見ている間、少女は2億GDが入っているカバンを拾ってきた。カルビンのことがまるで見えないような態度だった。さらに少女は怒りながらクライドに足蹴をしていた。
「この野郎! 20億だと? そのお金なら村を一つ買うよ! わかってんのか? お前こうなると知ってわざとやったでしょう?! アアン!」
クライドはいまだに歯の跡が鮮明な腕を振り回し、必死で彼女の足蹴りを防いだ。そうしながら一言も負けないと、少女に向かって言葉を投げた。
「いやぁ、お、お嬢様! 今あいつのことが見えませんか?! 銃を向けてるんですよ!銃!」
「黙れ! 僕は捕まって20億GDを惜しむつもりだ! そのままお前はくたばれ!」
「契約書は一度書いたら決まりでしょう! 俺が死んだらその金、そのまま俺の墓に入れてくださいよ!」
「このクソやろうが本当に…………!」
なるほど。
カルビンは失笑と共に頷いた。もうその紙の正体がわかったような気がした。
「……契約書は契約書だけど……20億GDの“再”契約書だったということか」
「そう! あんた、信じられるか? こいつさっき、あの状況で20億GDの再契約書を突きつけたんよ!」
興奮しすぎたセロンは、思いっきり首の血管を立てながらカルビンに聞いた。
彼女はちょうど金の入ったバッグでクライドの頭を殴ろうとしていたところだった。カルビンはただ肩をすくめることで返事をした。
「残念だが、そいつはもともとそういうやつだ、お嬢さん。しかし、今はそいつを頼るほかにお嬢さんが助かる道は見当たらないな」
「……何……?」
その話を聞いてようやく、セロン・レオネの目にも周辺の状況が目に入ってきた。かすかな笑みを浮かべているカルビンの背後に、首を振りながら体を起こすカウボーイたちが見えた。彼らは瞼を思いっきり動かせながら、なんとか目を覚まそうとしていた。そして間違えなく、そう長く経たないうち完全に視力を回復するはずだった。
セロンは持ち上げたカバンをゆっくりおろした。クライドもため息をついて席から立ち上がった。
「とにかくお嬢様。20億が大切ですか、それともお嬢様の命……いあ、まあ。ただ捕まれるだけだから命までは取らないかもしれない。それでは20億が大切ですか、お嬢様の処女が大切ですか?」
「ボケが。お願いだから、その口ちょっと」
「あれ?もしかして処女ではなかったのですか?」
「……黙れと言った」
セロン・レオネは相変らず口では罵声を浴びせていたが、だからといってこの状態にまでクライドとケンカをするほど愚かではなかった。彼女は足を運び、クライドの後ろに身を隠した。クライドは再び深いため息を吐き出し、銃を持ち上げた。
カルビンが首を横に振った。
「あきらめろ。お前たちはもう時間切れだ」
「そんな水臭いこと言うなよ。カルビン」
クライドはあえて笑い返した。しかし、クライドもカルビンと同じことを考えていたところだった。
ここが平凡な裏通りだったら、そして相手がここのカウボーイたちだけだったら、それでもまだ希望はあったはずだ。しかし、ここは賞金稼ぎの惑星で、相手は彼らの他にも数百人は軽く超える賞金稼ぎの群れがいるんだった。
状況はますます厳しくなっていくな。
クライドは背後の少女を細目でちらっと見た。この少女を連れて、最悪の場合には抱えて走ると仮定して、なんとかここから抜け出して空港まで行くのは可能だろうか。
さらに空港まで何とか到着したとしても、そこから制止されずにこの惑星から無事離れることはできるだろうか。
「……不可能だ。ビル・クライド」
その答えを代わりに出してくれたのは、カルビン・マックラファーティだった。クライドはくるりと向きを変えてカルビンを見つめた。カルビンは平気な顔で言葉を続けた。
「すでに空港からここに至るまで、数百人の賞金稼ぎが包囲網を組んでいる。いくらお前でも、荷物まで連れて抜け出すことは不可能だろう」
「……だから?」
「まあ、あきらめないのはお前の自由だが」
カルビンは冷たい笑い声で、ビル・クライドをからかっていた。
「もしかしたら、あの昔『エルカン』でそうだったように、こんな状況から逃れる奇跡が起こるかも知れない」
カルビンの言葉は最後までつながらなかった。なぜなら、その場の誰も予想できなかったことが彼の話を切ったからだ。
ドカン!
彼らの後ろから押し寄せてきた巨大な爆発音と、激しい震動がその場の人々を押しのけた。
カルビンも、クライドも、セロンも、だった今立ち上がろうとしたカウボーイたちも、やはり四方八方へ飛び倒れた。中でも特に遠くまで飛んで行ったのは、カルバンだった。彼がじたばたしながら床に叩かれる直前、最後に目に見えたのは……。
そう遠くない都心から噴き上がった、巨大な火柱だった。
著者プロフィール チャン(CHYANG)。1990年、韓国、ソウル生まれ。大学在学中にこの作品を執筆。韓国ネット小説界で話題になる。
「公演、展示、フォーラムなど…忙しい人生を送りながら、暇を見つけて書いたのが『LEONE 〜どうか、レオネとお呼びください〜』です。私好みの想像の世界がこの中に込められています。読んでいただける皆様にも、どうか楽しい旅の時間にできたら嬉しいです。ありがとうございます」
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