プログラムと電子工作・ラジコンカー(1)電子回路設計・製作
第1段階は、ハードウェアの設計・製作です。
車体キットは、左右の車輪をそれぞれ独立したモーターで駆動する構造です。左右同じ回転数で駆動すれば直進し、差をつければ右や左に旋回します。
今回の設計では後退はできません。前進・後退の切替えは今後の課題とします。
ジャンプワイヤやリード線を切断したり、被膜を剥がしたり、ハンダ付けしたり、電気配線特有の技能が必要となります。ハンダゴテは 300℃以上の温度になります。溶けたハンダが眼に入れば視力低下や失明のリスクがあります。ケガや火傷に充分に注意しながら作業してください。
ハンダ付けによって部品が過熱すると故障する虞があります。必要最短の作業が望ましいです。また電子部品は人体の静電気によって破損することがあります。部品の金属部分には触れないように注意しましょう。
目標
車体を組立て、モーター、電池ボックス、電源スイッチをハンダ付けで配線します。
ブレッドボード上に MOS-FET を外付けする回路を配線します。
車体とブレッドボードを配線し、電源スイッチONで、車体を前進させます。
部品・機材
使用する部品は次のとおりです。[]内は商品の例です。秋月電子通商の番号は「通販コード」です。
抵抗器は様々な値のもの、リード線は数種類の線色がセットになっている商品を買っておくと、今後の電子工作のときに便利でしょう。
熱収縮チューブは、その名のとおり熱をかけると縮むチューブです。リード線の導体がむき出しの部分に被せ、短絡を防ぎます。太さの異なるものを数種類持っておくと便利でしょう。
機材は、電気配線用の工具が必要です。
ニッパーとワイヤストリッパーはカッターナイフで代用できますが、今後電子工作するなら買う方がいいでしょう。保護メガネはハンダが飛んで目に入る事故を防止します。また視力によってはルーペなども必要かもしれません。ハンダ付けに失敗したときのため、ハンダ吸い取り線もあった方がいいかも。
電子部品
IOT 2WD Car Kit 1台[例:Amazon PHOENIX-IOT IOT-DIY ロボットカー]
Nch MOSーFET 2個、2SK2231、2SK4017など[例:秋月電子通商 107597]
抵抗器 2個[例:Amazon OSOYOO 金属皮膜抵抗器 抵抗セット]
ジャンプワイヤ 複数本[例:秋月電子通商 105159]
ブレッドボード 1台[例:秋月電子通商 105294]
リード線[例:秋月電子通商 106756]
熱収縮チューブ[例:秋月電子通商 108635、108636]
単3乾電池 4本
両面テープ(厚手)
開発用機材
ドライバ+No.1[例:ホーザン D-550-100]
ミニチュアニッパー[例:ホーザン N-32]
ワイヤストリッパー[例:ホーザン P-967]
ハンダゴテ 15W[例:ホーザン H-270]
ハンダコテ台[例:ホーザン H-6]
ハンダ 1mm 100g[例:ホーザン HS-304]
保護メガネ
ラジオペンチ、ピンセットがあれば便利
開発手順
回路設計
車体キットに付属する電池ボックス(単3電池×4本直列)が電源となります。モーターと M5StickC Plus の両方に 6Vを供給します。
M5StickC Plus の電源は 5V←端子です。M5StickC Plus の回路図によれば、電源管理IC AXP192 の ACINピンに接続されているようです(VBUS_VIN?)。AXP192 のデータシートでは、ACINの最大定格は 11V、電気特性は 3.8~6.3Vです。単3電池×4本を M5StickC Plus の 5V←に接続しても問題ないと判断しました。
M5StickC Plus2 の 5V←端子へ電池ボックス(6V)を接続するのは避けてください。M5StickC Plus2 の電源回路の DC-DC変換IC SY7088、SY8089の最大定格を超えてしまいます。
モーターの回転数は、M5StickC Plus の Pulse Width Modulation(PWM)で変えます。M5StickC Plus の出力ピンでモーターを直接駆動するには電流不足ですので、出力ピンとモーターの間にトランジスタ(MOS-FET)を入れて、駆動電流を増やします。初期状態でトランジスタが OFFになるように R1、R2を入れてゲートを GNDにプルダウンします。手元にあった 2SK2231と 150kΩを使いましたが、この辺は適当です。
車体キットの組立て
シャーシ板(アクリル板)の保護紙を剥がします。保護紙が破れないように端からゆっくりと丁寧に剥がしていきます。乱暴に剥がすより丁寧に作業する方が早いです。
電池ボックスはネジ止めしないで両面テープで貼ります。電池ボックスの底が凹になっているので、厚手の両面テープが適しています。
端子が内側を向くように、モーターをシャーシ板にビスとナットで固定します。モーター本体をシャーシ板に密着させるように押し付けてナットを締め、できるだけガタツキがないよう固定します。
前輪、後輪を取り付けます。
電源スイッチを嵌め込みます。
車体の配線
全体回路図(図1)にしたがってリード線とジャンプワイヤを配線します。
モーターの端子を間違えると、車輪の回転方向が反対になります。
電池ボックスの+のリード線(赤)とモーターからのリード線 2本とジャンプワイヤ(赤)の計 4本を束ねてハンダ付けします。ハンダ付け箇所は、熱収縮チューブを被せて絶縁します。
ブレッドボードに接続するジャンプワイヤ 3本と、M5StickC Plus 5V←に接続するジャンプワイヤ 1本の長さは、車体配線の完成図(写真4)を参考にして適当に決めます。
シャーシ板の穴を通して上面へ出すジャンプワイヤ 4本のそれぞれに接続先のラベルを貼っておくと誤配線を防止できます。車体配線の完成図(写真4)では、5V←(赤)、GND(黒)、L-MT(青)、R-MT(橙)としています。
車体配線のテスト
ここまで製作できたら、車体キットの配線が正しいかをテストしましょう。
電源スイッチを OFFします。写真5上のように「○」を押した状態。
単3乾電池 4本をセットします。
ブレッドボード上で、5V←(赤)がどこにも接続されないようにし、L-MT(青)、R-MT(橙)と GND(黒)を同じ列に接続します。
電源スイッチを ONします。
左右の車輪が回って前進したら配線は正しいです。
電源スイッチを OFFします。
ブレッドボードの組立て・配線
全体回路図(図1)の破線四角内の回路をブレッドボード上に作ります。
MOSーFET 2個と抵抗器 2個をブレッドボードに挿します。無理に押し込むと足が曲がるので、ピンセットやラジオペンチなどを使うと堅実です。
ジャンプワイヤで部品間を配線します。MOS-FETは型番によってピン配置が異なりますので、間違えないようにソースを GNDへ接続してください。
M5StickC Plus へ接続するジャンプワイヤに接続先のラベルを貼っておくと誤配線を防止できます。ブレッドボードの配線(写真5)では、G25(青)、G26(橙)、GND(黒)としています。
ブレッドボード配線のテスト
ここまで製作できたら、ブレッドボードの配線が正しいかをテストしましょう。
電源スイッチを OFFします。写真5上のように「○」を押した状態。
単3乾電池 4本をセットします。
ブレッドボード上で、L-MT(青)、R-MT(橙)をそれぞれ MOS-FETのドレインに接続します。
5V←(赤)、G25(青)、G26(橙)をブレッドボードの同じ列に接続します。
GND(黒)はどこにも接触しないようにブレッドボード上の GNDラインに接続します。
電源スイッチを ONします。
左右の車輪が回って前進したら配線は正しいです。
電源スイッチを OFFします。
M5StickC Plus の配線
M5StickC Plus の電源を OFFします。
ブレッドボード配線のテストの手順 4. 5.で接続した 5V←(赤)、G25(青)、G26(橙)、GND(黒)をブレッドボードから抜き、
M5StickC Plus に接続します。
これでラジコンカーの配線が完成です。
車体の電源スイッチが OFFの状態では、ラジコンカーが動くことはありません。M5StickC Plus に別のスケッチが書き込まれていても、特に問題になりません。
参考
M5StickC Plus 回路図、AXP192データシート(中文)
2SK2231データシート
Nch MOS-FET 2SK2231 は(株)東芝の製品です。
ライセンス
このページの回路図は、複製・改変・配布が自由です。営利目的にも使用してかまいませんが、何ら責任を負いません。
謝辞
福武教育文化振興財団から 2023年度助成をいただき製作しました。