家庭医療のコア #12複雑困難事例のケア

※本記事は20201年2月23日に配信されたメルマガの転記となります。

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今回のテーマは「複雑困難事例のケア」です。新・家庭医療専門医では「統合されたケア」 との選択性になっています。総合診療専門医2020/総合診療専門医2019タイプBでは「多様 な診療の場に対応する能力」がこれに類似する項目に該当します。

2022年度受験者用の新家庭医療専門医ポートフォリオのルーブリックを読むと、学習目標 には「問題の複雑度がかなり高い患者において、複数の専門職が関わり、ケアを最適化する ことができる」と記載されています。また「優」の条件として「クネビンフレークワーク等 を用い、問題の複雑度がかなり高い患者において、複数の専門職を巻き込んで議論し、最適 なケアを長期的視点で行い、評価できている」と記載されています。

まずは、クネビンフレームワーク(文献1)の復習をしましょう。クネビンフレームワークは 複雑性を
Simple, complicated, complex, chaosの4つに分類するフレームワークで、以下のように示さ れています。

Simple : プロトコルに従って対処するように、基本的な技術や専門用語の問題が あっても、いったんそれを十分習得すれば、コツをつかみ、うまく解決できる

Complicated : Simpleな問題の組み合わせであり、個別の問題に還元できる。開胸手 術のような問題そのものの複雑さだけでなく、専門領域の協同に関連する問題も含 む。その解決策は一般化できるが、単に個々のsimpleな問題の解決策の寄せ集めと いうわけではない

Complex : Complicatedな問題やSimpleな問題からなるが、個人的な問題や特定の状 況に関する理解を必要とし、どちらにも還元できない、解決策には固有の歴史的な 観点からの検討や、社会の秩序や個人-集団関係の考慮を要し、予測も一般化もできない

Chaotic : コントロールの範疇を超えており、どういう順番で対処すればいいのかも 判別できないが、Chaosに分類される問題は、それまでの制限の多い関連性を打ち 砕き、新たな秩序の生まれる余地を作り出す。どのようにそれに対処し利用したか を後から振り返って分析すれば、その複雑な要素からなる複数のシステムを理解す る上で、重要な根拠が得られる

また、複雑性を評価するフレームワークに関しては、MCAM : Minesota Complexity Assessment Method があります(文献2)。これは、「Illness : 生物学的問題」「 Readiness : 心理的問題」「Social : 社会的問題」「Health System : 医療とのかかわり方」 「Resources for Care : 言語・経済的問題」の5つの要因にわけ、0点(複雑性はない)~3 点(とても複雑)で点数化をしていきます。

このエントリーでは、ルーブリック内で「クネビンフレームワーク等」という指定があるの で、上記の分類方法を用いることが推奨されます。「問題の複雑度がかなり高い患者」を対 象に書かなくてはいけないので、できればChaotic, 最低でもComplex以上の複雑性が求めら れると言ってもよいと思います。

逆にいえば、複雑困難な症例であればどんな症例でもこのポートフォリオに適応できるとい うことが言えます。普段の診療で陰性感情を抱いた症例、モヤモヤを感じた症例などが当て はまると思います。ポリドクター、ポリファーマシー、マルチモビディティな患者さんや、 社会経済的問題が多い症例などがよい適応になるかと思います。 そして、複雑困難な症例を「複数の専門職を巻き込んで議論し、最適なケアを長期的視点で 行い、評価」することが必要になります。多職種での話し合いに役立つツールとしては「 Jonsenの4分割表」が便利です。これは、患者の情報を「医学的適応」「患者の意向」「 QOL」「周囲の状況」の四項目にわけて列挙するフレームワークです。医師である我々は どうしても「医学的適応」に目がいきがちですが、「患者の意向」「QOL」「周囲の状 況」に関しては、看護師やソーシャルワーカー、医療事務などが、たくさんの情報をもって いることが多々あります。多職種の人とディスカッションをしながら、「最適なケア」を探 していくことが大切です。

文献1)Martin CM, Sturmberg JP. General practice-chaos, complexity and innovation, Med J Aust. 2005 : 183(2) : 106-109
文献2)Peek CJ, Baird MA, Coleman E. Primary care for patient complexity, not only disease. Fam Syst Health 2009; 27: 287-302.

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文責:岡本雄太郎(専攻医部会 総務部門)
2022/05/11転記

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