見出し画像

【昭和絵本語り・3】 ぶたぶたくんの おかいもの

『ぶたぶたくんの おかいもの』
土方久功/さく・え
福音館書店・刊(1970:昭和45)


ぱんやのおじさんは にこにこおじさん。
にこにこして
「ぶたぶたくん、きょうは ひとりで おつかいかい?
かんしんかんしん」とほめてくれました

『ぶたぶたくんの おかいもの』より

異国+和風? 

子どもの頃に夢中になった絵本です。
動物がお買い物に行く絵本、楽しいですよね。
でもこの絵本が強烈な印象に残っているのは、和風な絵の中にそこかしこに散りばめられている異国(?)感です。

特にこの“かおつきパン”。
パンを買いに行くって子どもにとって楽しい嬉しいもの。
でもこんな顔のついた大きなパン!みたことあります?
ちょっとこわい。
しかもパン屋のおじさんがとてもファンキー。脳裏にしみついて離れません。

『ぶたぶたくんの おかいもの』より

それもそのはず。
実はこの本の作者、土方久功(ひじかたひさかつ)さんは彫刻家ですが、パラオに約14年も住んでいた人。
そして帰国後もミクロネシアの人物や風景をテーマにした作品を作り続け、「日本のゴーギャン」とも呼ばれていたとか。

どうりで、このパンの顔もパン屋のおじさんも、日本人ぽくない。
この顔つきパンだって、ちょっと南洋のお面に似ていますよね。
モアイにも似てる?!

とはいえ、ぶたぶたくんがおかいものにいくおかしやさんのおばあさんは純和風。
こんなごちゃまぜのテイストも子どものころ読んだ時には不思議には思いませんでした。でも強烈な印象として、心に残っているんですよね。

子どもの心をワクワクさせる演出

パラオから戻ってきた土方さんは、自分の姪御さんのために絵を描いたり絵本を作ったりしたそうです。
この『ぶたぶたくんのおかいもの』もそうやって生まれた本。
そして、このお話は特に小さい姪御さんのお気に入りで、何度も読んでとせがまれたそうです。

それもそのはず、子どもの心をワクワクさせる演出がたっぷり。
おともだちのかあこちゃんと一緒に行ったやおやの元気なおねえさん、めちゃくちゃ早口なんですって。
もちろん絵本の読み手も早口で読みます。楽しいです。

そして次の、おかしやを営む純和風おばあさん、こちらは打って変わってゆーーーーっくり話すんですよ。

おかしやの おばあさんが びっくりして
ゆっくり ゆっくり、「お、や、お、や、め、ず、ら、し、い、ね。
か、あ、こ、ち、ゃ、ん、と、ぶ、た、ぶ、た、く、ん、が、
い、っ、し、ょ、な、の」

『ぶたぶたくんのおかいもの』より

こうやって一文字ずつ「、」で区切られていると、絵本の読み手もゆっくり読まずにはいられません。ああ楽しい。

最後には、ぶたぶたくんがあるいたみちが出てきます。
すみずみまで見て楽しかった1日をぶたぶたくんと一緒に思い返して。

子どもに媚びたかわいい絵だとは思わないけれど、どうしてこんなに子どもの心に響くんだろう、と思います。

ちなみにもう一つ、私が地味に好きだったのは、ぶたぶたくんとからすのかあこちゃんとこぐまくんのリボンです。
3人とも違う色で、しかも本文にきちんとリボンのことが書かれてあるのが
女の子心をくすぐられたんですよね!


いいなと思ったら応援しよう!