見出し画像

G7で議論された広島AIプロセスとその後の進展

※このインタビューは2024年9月3日に収録されました。

AI政策は国を越えて、各国で議論が広がりつつあります。

今回は非営利団体Center for AI & Digital Policy (CAIDP)で代表を務めながらさ、AIと倫理についてのコンサルティングもされているマーブさんに、欧米のAI政策動向とプライバシーとの関連性についてもお伺いしました。

前回の記事より

これまでのご経験から、米国ではAI政策とガバナンスについてどのような議論が交わされているのでしょうか?

米国で議論が進むAI政策とガバナンスについての議論とは?

Merve: 今まさに色々な議論が生まれているところで、非常に関心が高まっていますね。私が数年前に活動を始めた頃には、AI政策やガバナンスについて議論する人たちは少なく、大学や市民社会で活動する限られた人たちのグループだけで議論を進めていました。

議論にはホワイトハウス科学技術政策局、アメリカ国立標準技術研究所や手弁当で政策立案に関わる人たちが集まっていました。私たちもCAIDPとしてOECDや欧州業議会が世界的に初めて成立を目指すAI条約ドラフトに関わっていました。 

AI条約については、今週署名されることになると思います。とてもワクワクしますね。ユネスコや欧州議会でのAI法の議論、米国ではまだ小さな動きではありますが、よりこの流れが広がっていくことになると思います。

米国で起きている大きな変化は、プライバシーについての理解や、バイアスを始めとした説明責任の重要性、ブラックボックスについての問題です。こういった問題に対して、多くの有識者が声を上げ始めています。

政策の現場でも多くの方々がより深い議論を始めているので、今後も広くレポートが公開されていくことになると思います。初歩的な議論は既に数多く積み重ねられてきているので、より深い議論が今後は交わされていくことになると思います。生成AIの誕生によって、よくも悪くも異なるレベルでの政策議論が進んできたことになります。

議会でもこの議論は注目され始めています。政策を作る人たちも、この議論に遅れを取らないように動き始めています。これまでにソーシャルメディア規制を実現できなかったことを繰り返さないためにも、より深い議論を進めていくような動きが見られます。

ソーシャルメディアについての議論が気になる方は、議会での証言やヒアリングをチェックしてみてください。また、AIに関する議論に関しては、これまでのソーシャルメディアでのについての言及とは異なるレベルで意見が交わされています。

私もありがたいことに2023年3月の始めに議会に呼んでいただき、証言の時間をいただくことができました。そして、3月8日にはChatGPTのGPT4がリリースされることになりました。

(動画:GPT-4 Developer Livestream)

私の証言が議会で初めてのヒアリングだったのです。ヒアリングのタイトルにあるように、米国ではAI革命が盛んに取り上げられていて、規制をすべきか否かについて話し合いが行われています。

こういったテーマに対して、私は「政府は規制するために十分な準備ができていないので、公教育や政府内でのAIについての理解を深めていくことが必要である」と話をしました。

私の発言については、他にパネルとして同席されていた人たちからも幾らかの賛同がありました。それ以来、上院の間ではAI政策に対して様々なテーマでのヒアリングが実施されるようになり、ホワイトハウスやアメリカ国立標準技術研究所等への関わりも増えていくことになりました。

最近では、大統領令の下で連邦政府機関や政府組織はAIについての議論を実施することが求められるようになりました。これまでの政府のスタンスとは大きく異なり、時間はかかりましたが政府の動きも徐々に変化してきています。これは、ソーシャルメディアについての政策を議論した時とは、異なる展開に広がってきています。

Kohei: これまでの経緯や米国内での議論について共有いただきありがとうございます。次に、プライバシーとデータに関するテーマへ移りたいと思います。マーブさんの団体では、米国に限らず欧州の政策についても関わっていて、プロフィールで紹介したように欧州委員会やユネスコを始めとした国際機関とも連携されていると思います。

欧米の国々では様々な議論が生まれていて、AIの信頼性についても広く取り扱い始めていると思います。現在欧米諸国でどういった規制についての議論は進んでいて、今後どういった動きがありそうかお伺いしてもよろしいでしょうか?

G7で議論された広島AIプロセスとその後の進展

Merve: 勿論です。少し議論を俯瞰して見るために、2023年末から進んでいる内容についてお話しできればと思います。G7参加国の間では、日本の広島AIフレームワークをもとに、AIシステムの導入について、どういったレベルでのガバナンス原則が必要であるか議論が進められてきました。その中には企業レベルで最先端のシステムに対応した原則設定も含まれます。

G7会議が日本で開催された際に、広島プロセスのグループ内で行われた議論が、今のAI政策にも広く影響しています。50カ国のレビューを経て、フレームワークが採用されることになりました。

(動画:G7「広島AIプロセス」始動 チャットGPTなどAIの国際ルール作りへ|TBS NEWS DIG)

この議論はG7に加盟する7カ国とEUだけでなく、多くの国が参加し国際的な協力と連携を経て、相互に理解した上での原則として公表されたのです。

ドラフトが公表されて以来、3年半の月日を経て欧州では今年の初めより欧州AI法案についての合意がありました。欧州では現在AIオフィスの設立を進めています。欧州全体で運用される組織として機能することになります。

欧州のAI法は欧州各国の法律に適用される形で、国ごとの違いが今後重要になっていきます。欧州の全ての国ではAI法に関する審議が進んでいて、欧州全体ではコードオブコンダクトを定めるような動きが進められています

なぜなら、欧州域内のいくつかの国に至っては自発的にコードオブコンダクトに適用していくことが必要であり、その調整作業を進めているからです。

米国では、議会での政策議論に加えて、米国連邦取引委員会、米国連邦通信委員会、米国証券取引委員会等の政府機関、また各州ではAIに関する制度が通過している地域もあります。

コロラド州コネチカッド州、そしてカリフォルニア州でも制度化が進んでいます。また、議会内では偽情報やディープフェイクに関する限定された制度についても検討が始まっています。

(動画:California Passes Controversial AI Safety Bill)

国際的なAIの議論についてもお話しできればと思います。先程紹介したように欧州評議会でAI条約についての議論が提案され、9月5日に署名される予定です。

欧州評議会のAI安全条約に米、英、EUが署名

市民社会の専門家を代表して、各国の政府組織やオブザーバーの方々と製品安全法や責任法とも比較しつつ(欧州AI法は製造物責任・安全法に類似)、人権や国際関係、法の規範や民主主義に注力しつつ内容を固めていきました。

最後にアフリカ諸国が最近発表した大陸全体でのAI戦略についてもお話しできればと思います。アフリカ諸国では、大陸横断的な戦略を採用していて、今後はアフリカ各国が協力してさらなる連携を進めていくと思います。

Kohei: ありがとうございます。米国と欧州の動向にはとても注目しています。AI戦略を考えても、どちらの地域でも採用している方法は異なると思います。マーブさんの考えでは、米国と欧州の間で政治的にどのような違いがあるのでしょうか?

日本人から見ると、欧州ではより厳しい規制を採用し、米国はAIと新しいテクノロジーのイノベーションに寛容な雰囲気があると感じています。

AI政策の観点から両地域の中で違いがあれば教えてもらえませんか?

〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの後編は、次回お届けします。〉

データプライバシーに関するトレンドや今後の動きが気になる方は、Facebookで気軽にメッセージ頂ければお答えさせて頂きます!
プライバシーについて語るコミュニティを運営しています。
ご興味ある方はぜひご参加ください。

Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author  山下夏姫

いいなと思ったら応援しよう!