テクノロジーによる産業創出の生態系に融合するNew Yorkの都市開発
都市とともにテクノロジーが発達するためには、新産業としてテクノロジー育成に取り組む必要があります。
インタビュー第二弾は、ニューヨーク市で都市開発に関わるKarenさんに都市開発とテクノロジーの融合に関する話を聞いていきたいと思います。
Stanford Startups New Yorkが寄与する、産業創出の生態系
Kohei: ここから次のテーマに移りたいと思います。KarenさんはStanford Startups New Yorkという取り組みもしていますね。新たなテクノロジーと都市開発が融合するために重要な取り組みだと思います。この取り組みは、具体的になにをしていますか?都市開発にどのような影響が生まれているのでしょうか?
Karen: Stanford Startups New Yorkは、卒業生のアルムナイグループです。スタンフォード大学を中心に複数大学から人が集まるコミュニティです。現役大学生も参加していますし、NYの場合は州に拠点を構えるコロンビア大学やクーパー・ユニオンなど州立大学と連携もしています。
西海岸に拠点をもつスタンフォード大学は、東海岸のNYと対極に位置しますが、多くの卒業生がNYで活躍しています。私の他に電子工学の卒業生とMBA卒業生が関わり、NYの投資家や起業家コミュニティが活発になるよう取り組んでいます。
都市の一つのエコシステムとして機能するように、コミュニティではネットワーキングの機会を提供しています。コミュニティを大きくするよりも、コミュニティの中で助け合える関係性を広げたいと思っています。
NYの都市開発にテクノロジーを導入する上で、Stanford Startups New Yorkのようなコミュニティは大切です。
約十年前、ブルームバーグ市長時代に金融産業を中心に多様な産業の育成を発表しました。以来、(NYは)テクノロジー開発に積極的に取り組んでいます。当時、NYの中心戦略に多様性とテクノロジーを添えたことは(今に)大きく影響しています。結果として今、都市のエコシステム全体に産業クラスターがあり、それぞれが横断的に情報やアイデアを出し合い、協力して取り組みを進めています。
業界を横断して新たな取り組みを進めるには、アルムナイネットワークが役立ちます。投資家や起業家、プロジェクトマネージャー、ビジネスパーソン、法律専門家がアルムナイネットワークに集まって、業界を横断した新たなビジネスのプロジェクトが進むようになりました。
図 別々の業界の人たちが集まり横断してプロジェクトが生まれる様子
Stanford Startups New Yorkは、十年以上前から新領域のプロジェクト開発のためにコミュニティ育成に力を入れ、NYの都市開発と連携しています。
NYはここ数年、スタートアップ連携都市として世界2位にランクインしています。これは、過去の積み重ねによる成果だと思います。スタートアップのコミュニティが活性化すると投資家に便益があり、資金が集まると開発者が働く環境が整います。
新たなプロジェクトが生まれる環境を用意すれば、スタートアップが成長し、様々な領域で新産業が生まれます。
Kohei: これまでの取り組みが興味深いですね。都市開発とテクノロジーコミュニティが連動しているお話は参考になります。
集積するスタートアップは、多様性をアイデンティティにもつNYの原動力でもある
Kohei: テクノロジーコミュニティが形成され、事業開発が進むことが分かりました。ここに至るまで、NYの都市開発はどのような変遷を辿ったのでしょうか?そして、NYの都市開発はこれから先どのようなロードマップを進むのでしょうか?
Karen: そうですね。
(先ほどは)NYの都市開発の中でも、特にテクノロジーの話を紹介しました。少し触れましたが、2008年、09年の金融危機以降、産業の多様性を軸に都市開発しています。以後十年で、テクノロジーを中心に産業が少しずつ育ちました。
今では、NYに多くの開発エンジニアが移り住んでいます。都市開発の考え方に科学を取り入れるプログラムの検討も進むようになりました。
コーネル大学とイスラエル工科大学がルーズベルト島に拠点を構えたのは、そのためです。共同でサイエンスプログラムを始めています。プロジェクトが始まると素質のある人々が(地方から)集まり、彼らの活躍により都市が活性化します。テクノロジー開発のエコシステムの成長は、投資家にとって魅力的なことです。そして他の機関やコミュニティにも便益があります。
現在、NYに集まる多くスタートアップが、都市全体の原動力として機能し始めています。およそ九千以上のスタートアップがNYに拠点を持っています。日々ミートアップや Stanford Startups New York のようなコミュニティが生まれ、必要なリソースを循環させています。
テクノロジーの動きがNYで活発になることに加え、その動きの中心はNYに住むニューヨーカーであるべきだと私は思っています。
現在、860万人のニューヨーカーがいます。一人ひとりが、地域に誇りを持てるような環境を整えていきたいです。860万人のうち40%以上が全く異なる地域で生まれ、(NYに)移り住んでいます。第一世代の移民が育った環境や宗教の文化が、今のNYを形作っています。多様性のある環境は、彼らの誇りの一つであり、新たな取り組みを生む原動力になっているでしょう。
NYでは、多様性を軸にしたクリエイティブ活動も活発です。クリエイティブをイノベーションに繋げる流れも少しあります。テクノロジーの発展の背景には、こうした多様性の土壌があることも関係していると思います。
多様性の土壌以外にも、NY(の人々)特有の野心があります。(アメリカンドリームに近しいかもしれません。)産業を問わず、その地域だからこそ実現できることがあります。NYでは、そうした野心的な人々が数々のプロジェクトに取り組んでいます。
Kohei: ありがとうございます。これまでの背景や土壌の話は興味深いですね。Karenさんは主にテクノロジーと都市開発の分野の責任者としてプロジェクトを進めていると思います。都市開発におけるコミュニティと土壌の重要性について、改めて理解が深まりました。
拡張技術で産業振興を目指すニューヨークの都市開発
Kohei: 歴史を振り返ると、これから先どのように都市開発が進むか見える気がします。次は、現在始めている都市開発のプロジェクトについてお伺いできればと思います。
Rlab(VRとARの市立研究機関)を設立したと、2018年のAdweekの記事で拝見しました。Karenさんが関わっているプロジェクトだと思いますが、都市開発を進める上でVR/AR技術はどのような便益を住民にもたらしますか?
Karen: まず、世界全体で技術への期待が高まっている話をして、その後に私たちの都市の話をしますね。
年々、世界全体で技術イノベーションが重要になっています。プロダクトやサービスの開発が進み、働き方や起業家育成の環境変化も加速しています。
イノベーションは、イノベーターとその人が属するコミュニティが揃って初めて生まれます。私たちがテクノロジーに関心を持つ理由には、そうした背景があります。そしてテクノロジーの中でもVR/ARは、研究活動を通じて育てると位置づけました。
私たちがRlabで目指すのは、ミックスメディアやミックスリアリティの世界観をNYから発信することです。ファッションやメディア、不動産、ヘルスケアなどNYに根付いた産業がテクノロジーで活性化することを期待しています。
(動画:マイクロソフトのMR Introducing Microsoft Mesh)
産業界での新たなテクノロジーの活用に加えて、(Rlabにいる人々が)目的を持った取り組みも始めています。Rlabが始まってまだ数年ですが、徐々に方向性が見えてきました。
(Rlabには)スタートアップの活動でイノベーションを生み出す側面と、新しいテクノロジーで既存産業を進化させる側面があると思います。
新産業の創出と同時に、拡張現実技術はこれまで進化してこなかった仕事環境の開発や、住民であるニューヨーカーへのテクノロジー教育機会の開発に機能しています。
これまでの9ヶ月間、様々な取り組みを並行していますが、VRとARは住民にとってわかりやすい結果(産業の回復)を導くテクノロジーだと思います。
コロナの影響でエンターテインメント業界は大打撃を受けていますが、ミックスリアリティや拡張現実技術を使って産業を回復するきっかけにしたいです。 教育機会にシミュレーション環境を取り入れたり、シミュレーション環境で人々が関係性を育めたりできるようになりました。シミュレーション世界でできることを未来に向けて増やし、利用できる機会を様々な場面で作りたいと思います。
ここまで紹介した内容は、Rlabで進めるVR/ARのテクノロジー活用の一側面です。
他にもNYでは、ブロックチェーンや人工知能を使った都市戦略の構想も進めています。人工知能については、主に3つの目的を掲げて構想しています。
図 都市でテクノロジーを活用する際に掲げる3つの目的
第一の目的はイノベーションです。NYでスタートアップ企業を始めやすい環境整備と事業拡大を目指すための場作りをしています。
第二の目的は、住民のキャリアの一環にテクノロジー開発に関わる機会を増やすことです。スタートアップなどテクノロジー企業の仕事環境を整備することで、テクノロジー開発の現場で人々が働き、学んだ人々が働ける環境を広げることも進めています。
第三の目的は産業振興です。最先端の技術をどう使えば新産業が生まれるのか、そして既存産業を成長させられるのかを考えています。世界全体で見ても、新たな技術を組み合わせて既存産業を再興させる動きが始まっているので、既存産業の育成にも期待しています。
これら三つの目的のために人工知能の取り組みを進めています。先ほど質問してもらったNYの都市開発の未来に向けて、テクノロジーは重要な役割を持ちます。(都市開発のプロジェクトの中でも)Rlabやブロックチェーンセンター、シビックテックコンペティション、NYC Center for Responsible AIはその中心戦略ですね。
NYの都市開発は、今紹介した取り組みを中心に進んでいます。NY在住の起業家や新たな仕事に挑戦したい人々が全員活躍できるように、都市開発で後押しできればと思います。
住民全員が公平にサービスを受けられるような強い都市でありたい
Karen: 都市開発で重視しているのは、公平性の担保です。特に、公平な機会作りと機会提供は重要です。
ニューヨークの住民が便益を受けられる機会や環境作りは重要な戦略だと考えています。テクノロジーが浸透するために避けて通れないでしょう。都市開発の中心にテクノロジーを置いていますが、それを支えるのは公正な環境整備と全ての人にとってポジティブなインパクトだと思います。
公正な環境を整備するには、テクノロジー活用を倫理的に進める必要があります。また、誰もが使えるものでなくてはなりません。経済的な側面も十分に検討する必要があります。誰もが利用できるものであるべきです。
今まさに私たちが注力し始めたのは、利用者にとってストレスのない環境作りです。
パンデミックにより、インターネットにアクセスできる人とできない人では生活環境が大きく変わりました。都市を形作る上で、都市内の通信環境の不便さが顕になったのも事実です。
先ほど引き合いに出した、テクノロジーへの公正なアクセス環境を整えるにはインターネット通信のインフラ整備が重要です。通信環境が十分に整備されれば、テクノロジーを用いた都市開発が進むと考えています。
都市の基礎であるインフラ整備のために、様々な良さをもつ人たちとパートナー連携を進め、次のステージに進めるように計画しています。ニューヨークの住民全員にとって強い都市でありたいと思います。
Kohei: なるほど、理解できました。素晴らしいですね。テクノロジーに十分にアクセスできる環境を整えることは私も重要だと思います。人工知能などの自動化技術が都市活動(人の活動の集積)に織りなされることで、これまでにない新たな都市の未来図も描けると思います。
インタビューは第三弾に続きます。
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Interviewer, Translator 栗原宏平
Editor 今村桃子
Headline Image template author 山下夏姫