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インターネットビジネスの聖地で広がる信頼の再定義

プライバシーを重視した米国発の新しいサービスも立ち上がってきています。

インタビュー後半は、シリコンバレーでデータプライバシー問題に初期から取り組んできたMichaelさんに米国のテック企業のトレンドを聞いていきたいと思います。

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プライバシーを守るブラウザBraveから考える新たなビジネスモデル

Kohei: 投資家としてのMichaelさんにお伺いしたいことがあります。ユーザーがプライバシーを守るために自身のデータをサービスに渡すのをためらうと、インターネットが本来目指していたオープンな世界とは矛盾した世界へ変化すると思います。

Facebook のような大手インターネット企業が私たちのデータを大量に集めて、ユーザーに断りなく活用することはないと言っていますが、実際に Facebook は私たちのデータで儲けています。インターネットのサービスの成長には、ターゲットユーザーがサービスを利用することが必要です。もし、ターゲットユーザーがプライバシーを懸念してデータをサービスに提供しなければ、インターネットビジネスは成り立たないと思います。

図 プライバシー対策をしていないサービスにデータを渡さない懸念

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投資家の立場から見て、サービス提供者はユーザーからどのようにデータを集めるのがよいでしょうか?私の疑問をぶつけてみました。

Michael: そうですね。良い質問です。Kohei さんの質問は、多くの企業が現在直面している悩みだと思います。

私は Brave browser を展開している Brave という会社に初期から投資しています。Brave のビジネスモデルは、従来の広告モデルではない新たなモデルです。

従来のブラウザと異なるのは、パブリシャー(制作者)がユーザー(閲覧者)から仮想通貨(BAT)を獲得できる点です。記憶が曖昧ですが、たしか他の仮想通貨も選ぶことができます。たとえば、パブリシャーの記事やページを気に入ったユーザーがパブリシャーを支援したいと思ったときにそうできる仕組みを準備しています。私は Bに少額を投資し、少額のBATsを持っています。

Kohei さんの質問の答えの一つが、Brave のようなモデルの設計にあるでしょう。新たなモデルを考えて実装することは、イノベーションを生みます。

Brave が実装した機能では不必要な広告を掲載することがありません。よって、ブラウザを円滑に利用することができます。今多くの人が利用しているブラウザはクッキー等のトラッキング技術をブロックしていないので、重たい広告も合わせて掲載される仕組みになっています。

図 ユーザーをターゲティングしない新しいブラウザ

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Brave が素晴らしいのは、ブラウザの利用速度が速くなることに加えて、ユーザーが自らの時間(広告を見るか否か)をコントロールできることです。Brave は従来のインターネット広告モデルとは異なる手法を提供しています。ユーザーが見たい情報をコントロールできるブラウザです。まだサービスは始まったばかりです。ユーザーがコントロールできることは素晴らしいです。

さらに、ユーザーは見たい情報をコントロールするだけでなく、自身のデータをお金に変えることもコントロールすることができます。ユーザーがこれまでにどういった軌跡をたどったのか、つまりどのサイトを辿ったかなどのデータを Brave は他のブラウザよりもデータを取得しない方法を設計しています。

Brave のほかに、Data Vault モデリング(データの貯蔵庫と言う意味)を採用しているサービスがお勧めです。

図 Data Vault モデリング図:データを保存、目的に合わせて書き換え記録、保存、ローデータ化、目的に合わせて書き換える

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画像:Data Vault — An Overview

Data Vault モデリングはユーザーが認証したウェブサイトを通じてユーザーに必要なデータだけを取得するモデルです。ビジネスをしたり、音楽を視聴したり、ピザを購入したり、Zoomで話したりした内容を(ユーザーが認証したウェブサイトに)記録します。認証したウェブサイトでユーザーは必要最低限の情報を活用できます。ユーザーは安い価格でデータを取引することができます。もしくは提供するデータを最低限に抑える代わりに、高い金額を支払う設計も選択できます。とても理に適った設計ですね。

このモデルは、複数のサービス間でユーザーのデータが共有される際のシンプルな契約フォーマットとして機能するでしょう。私たちはこれまでサービスを無料で利用していましたが、実際には自分たちのデータを引き換えに渡していました。

加えて、ユーザーは自分のデータの価格を決めてデータ取引ができるようになります。これまで無料で提供されていたサービスを有料化する代わりに、ユーザーがサービスに提供するデータを最小限にすることができます。

Facebook のプライバシー問題

Micahel: これまでのサービスは分かりづらい契約設計(利用規約が読みづらいなど)で無料でサービスを提供する代わりにユーザーからデータを集めていました。

サービスが有料化されれば契約設計も分かりやすくなるでしょうし、利用者を騙すような契約はユーザーが選択しなくなると思います。

今日のインターネットが依存しているシステムは、公正ではありません。私は今のインターネットシステムとは異なる方法を他の選択肢から選ぶのが良いと思います。新しい方法を選ぶ企業が増えることを期待しています。ただ、実際はプラットフォーム企業や大手テクノロジー企業が壁のように立ちはだかっています。

Apple のような大手テクノロジー企業がプライバシーを重視し始めているのは素晴らしいです。Apple の動きは Microsoft や Amazon に波及するでしょうし、税に関するソフトウェア提供企業 Intuit のような(ユーザーのライフスタイルに合わせたサブスクモデルの)企業も追随するのではと思います。広告モデルを主な収益源としない企業は変化ができるからです。

Google や Facebook は広告モデルを収益源としない企業と比較すると、失うものが大きいでしょうが、時代の流れに合わせて変化する必要があります。法律の規制が厳しくなることに加えて、ユーザーからの信頼を徐々に失いつつあるためです。

これまでの Facebook の事業判断を踏まえると、CEOのZuckerberg 氏を以前のように信用する人は減っています。Facebook 自体に対する信頼も低下しています。米国議会があるキャピタル・ヒルで「Facebookはデータを販売していない」と Zuckerberg 氏は言い続けていました。私の記憶が正しければそう主張していましたが、最終的にはデータを販売した事実を認めざるを得なくなりました。

Facebook はユーザーデータを自分たちのビジネスの価値に変えていたのです。データを直接お金に交換していなくても、テキストやワードでターゲティングできる形にして販売していました。これは販売取引と言いますね。この取引を通じて経済的な利益を得ていました。販売するだけでなく、データ分析してユーザーを欺くようにデータを集めていました。ユーザーはその事実に気づいたのだと思います。Facebook に対する様々な批判の全てに賛同しませんが、Facebook に対するプライバシーや信頼の問題は賛同します。Facebook という企業がプライバシーや信頼に重きを置いているようには見えません。

プライバシーや信頼が重視されれば、新たなビジネスの機会に繋がると思います。インターネットの誕生期と比較すると、多くの人がインターネットのサービスへ対価を支払い始めています。これはインターネットサービスが価値を持ち始めたということだと思います。

これまで無料で提供して注目を集めて対価を支払ってきたモデルとは異なる価値提供が次世代のインターネットには必要になるでしょう。Uber は利用分に応じて支払われるモデルです。Salesforce はクラウドサービスへの対価をお金でもらっています。Apple はペイメントサービスを提供しますが、ペイメントサービスと広告モデルを融合させているわけではありません。

図 広告とは異なるインターネット収益モデル

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私はプロプライバシー・ビジネスモデル(プライバシーに配慮したビジネスモデル)が数多く誕生すると思います。そうしたモデルはすでに未来に向けて広がりつつあります。

カリフォルニアのプライバシー法CCPAも変化を迫られている

Kohei: なるほど。Michael さんのお話から、昨年カリフォルニアで可決したCPRA(カリフォルニアプライバシー権法)を思い出しました。民主的なプロセスで可決していましたね。2020年1月1日に施行されたCCPA(カリフォルニア州消費者プライバシー法)を厳しくした内容だと理解しています。こうして起きているプライバシーの動きはこの先十年のシリコンバレーのエコシステムにどういう影響があるでしょうか?

Michael さんがテレビのインタビューで、シリコンバレーにはヒエラルキーがあって Google や Facebook に売却することがゴールになっていると話しているのを拝見しました。プライバシー規制が強くなることでそこにどう変化が生まれるでしょうか?

Michael: そうですね。CCPAはこれまで以上にプライバシーを規制すると思います。

ただ、まだプライバシー違反に当たるケースを調査している段階です。Facebookに対する裁定を終えたFTCの議長に、馬小屋から馬が逃げたあとに、馬小屋のドアを閉めても意味がないと伝えました。みなさんも分かりますよね。問題が解決できなくなってから、問題を解決しようとするようなものです。

(編集部)プライバシーの問題が解決できないものになってから、、法律のつぎはぎで対処するのは難しいと主張しています。

つまり、この法律(CCPA)は困難を乗り越える力と資金を持つ大手企業を保護し、Facebook などと競合する企業を殺すかもしれないという問題があります。なにかに着手しなければなりませんし、CCPAは欧州のデータ保護に追随しており、理にかなっていると思います。

加えて米国通信品位法230条の見直しも必要です。この法律は偽りの出版社を長い間保護して、陰謀論や嘘を宣伝してお金を稼いでいるFacebook よりも雑誌に重い負担を負わせています。

私たちが生み出したプライバシー法は1990年代に生まれたものなので、時代に合わせて変えるべき時が来ていると思います。

本質的な議論から目を逸らそうとするパワー

Kohei: そうですね。私はシリコンバレーに行ったことがありませんが、友人は多くいます。友人の中には今のテクノロジーのエコシステムに問題があると考えている人がいます。特に富の偏在を問題視していますね。これは、テクノロジーのエコシステムにとっても大きな課題であり、大企業にとっては転換点になると思っています。

富の偏在を是正するような動きは、シリコンバレーのエコシステムのターニングポイントになるでしょうか?今シリコンバレーで起きている動き、特にテクノロジー界隈の今後十年についてお伺いできると嬉しいです。

MIchael: そうですね。富の集中は多くの人が気にしていることで、稼いだ企業のお金の使い道に疑問があがっていることも理解しています。ただ、お金を持つ人を罰するのは、お金のない人を罰するよりもすべきでないと思います。成功を恐れてはいけないですし、新しいことに取り組んで成功した人を非難する環境はよくありません。

しかし、プライバシーなど、私たちが大切にしている価値観との衝突が少ない方法で、ルールやエコシステムを作るべきだと思います。残念ながら、プライバシーにような問題はセンシティブに取り上げられやすく、重要なトピックが抜け落ちます。

何年か前には、リベンジポルノの事例がわかりやすいと思います。これはインターネットの嫌な部分で、昔の恋人のプライベートな動画をインターネットに公開してしまうものです。とても嫌なことですね。擁護できる余地がありません。多くの人の関心を集めましたが、セックスやスキャンダルが注目を集めただけでした。(本質的な議論になりませんでした。)実際にリベンジポルノの被害を受けたのは、世界でもごく少数の人たちです。

(編集部)リベンジポルノが問題ではないのではなく、リベンジポルノを解決する問題よりも表面的な問題が取り上げられることを問題視しています)
 
プライバシーは全ての人に影響します。だからこそ、あなたのデータを経済合理性のために利用したい企業がいて、リベンジポルノは個人のプライバシー問題として議論されるべきであるにも関わらず、スキャンダルという小さなカテゴリーとして見られ、エネルギーと注意がそこに向くようにしたのです。そして、リベンジポルノは法律の規制の対象になりました。

そうですよね。周囲の関心を部分的なテーマに向かわせた結果です。例えると、怒ったライオンが恐ろしいのに、ライオンの尖った爪を見て危険だと騒ぐのと同じです。誰もライオンの口を見なくなります。実は私たち全員にとって恐ろしいにも関わらず議論がすり替わってしまうのです。

図 議論すべきは目の前に迫った本質的な議論

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リスクを取る挑戦者資本主義の勝者と敗者の格差にスタートアップはどう向き合うか


本質的な議論をするために、これからも戦います。イノベーションや富を創造する機会はまだたくさんあるはずです。裕福だからと言って彼らを懐疑的に見るわけではありません。ただ、本質的な議論を逸らしてお金を儲ける人たちに対して疑問があります。

また、リスクを取ることを賞賛すべきだと思います。リスクを取れば失敗もします。それはたくさん起こります。リスクを取れば、大きく成功する機会でもあります。それは小さな機会だったとしても、私たちが大切にしたいものはすべてそうした小さな可能性から生まれるものです。

成功の定義は人それぞれです。金銭的な成功、精神的なもの、もしくは名声を手に入れることかもしれません。困難なリスクを負っている多くの人にとっては金銭的な話が多いかと思います。成功したからという理由で金銭や風評で罰されるならば、リスクを取って成功に向かう人が減ります。そうすると、新しい医薬や機器、技術のイノベーションが停滞します。

すべてとは言いませんが、これらの多くは私たちの生活を助けてくれます。もし挑戦者がいなくなれば、私たちの未来の最も良いことを奪うことになりかねません。

左派の人たちは言うでしょう。「この人は1億ドル稼いだのだから、十分だ。これ以上稼ぐ必要はない」などと。そうですよね。彼のような人一人に対して、なにも生み出さない人が500人、1000人、1万人はいると思います。彼は宝くじに当たったわけではありません。

重要なのはリスクを取って挑戦したことで、傍観していた人が彼を批判することには疑問に思います。

現状のエコシステムが完璧なものだとは思いません。ただ、私たちが見つけた他のシステムよりも機能しています。Kohei さんのようにリスクを冒してプライバシーに取り組む企業を設立するのです。成功する可能性を信じているからやるのであって、金銭の報酬だけでなく、名声や達成したい目的ももたらすでしょう。

挑戦者が成功しても失敗しても批判されるなら、巨大な銀行で働いて枯れ木のように窓際に座り50年間過ごしていればいいでしょう。米国には挑戦者を応援するエコシステムがあります。米国には欧州になってほしくありません。日本と欧州は、米国のエコシステムを取り入れるのはどうでしょう。そして米国もまた自分たちらしさを確かめていくことを望んでいます。

Kohei: 挑戦する想いを感じました。私自身も一人の挑戦者として物事に取り組んでいきます。次世代に引き継いでいくことが社会における私の役割だと思っているんです。

Michael: いいですね。

Kohei: 残念ながらそろそろ時間です。視聴者のみなさんにこれからのプライバシーの未来にも関連して、Michael さんの経験からメッセージを頂けませんか?

Michael: もちろんです。視聴者の方は日本人がメインですよね。

Kohei: そうですね。あと外国人の視聴者の方もいらっしゃいます。

Michael: わかりました。

まず伝えたいのは、日本の文化を楽しみ、愛し、尊敬しているということです。日本でビジネスをしたり、日本を訪れる嬉しい機会に恵まれました。とてもよかったです。このインタビューで日本のみなさんの物語の一部を担うことができたのは光栄です。ご一緒くださったみなさんには、大きな自信をもって未来のプライバシー分野で活動されることを願っています。

このプライバシーの戦いは、ある意味私が始めたものです。もちろん私が挑戦する前にも他の人がいましたが。いずれにせよ、数年前は私たちの数は少なかったですが、今では遥かに大きくなっています。Kohei さんのように多くの人がプライバシーを大切だと主張することを嬉しく思っています。

これは単にコストや税金、規制を生み出すための戦いではなく、富と価値を生み出す機会のために必要です。プライバシーを考えることは決してマイナスではなくプラスになります。プライバシーを大切にすると、これまでと全く異なる、魅力的なインターネットサービスが生まれ、多くの富とイノベーションをもたらす可能性があります。

このプライバシーを大切にする戦いを前進させるのは、若い世代の起業家だと思います。投稿が期限を過ぎると消える Snapchat や、情報を暗号化できる Telegram 、Confide などコミュニケーションを秘密にできるサービスを見れば、これらの市場があることが分かります。

このようなイノベーションは続くべきですし、ブロックチェーンの秘密契約も継続できると思います。政治の視点を持つことなく、経済価値のある機会として純粋に理解できます。今はエキサイティングな時代です。次の20年は、過去の20年よりもプライバシーが重要な取り組みになるでしょう。

みなさんの大きな成功を祈っています。

Kohei; ありがとうございます。プライバシー領域で取り組みを新しく始める人たちに届くことを願います。Michaelさんとお話しできて良かったです。ありがとうございました。

MIchael: ありがとうございました。

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Interviewer, Translator 栗原宏平
Editor 今村桃子
Headline Image template author  山下夏姫

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