データ保護制度の研究を政府の役割に繋げていくために
※このインタビューは2024年7月16日に収録されました
AIとデータ保護に関する制度設計はラテンアメリカの国々でも積極的に議論が進みつつあります。
今回はブラジリア大学 (UnB) とブリュッセル自由大学(VUB)の共同博士課程プログラムに在籍されながら、ブラジルデータ保護監督局でも活動されているチアゴさんに、ラテンアメリカ地域でのデータ保護トレンドとAI関連の政策動向についてお伺いしました。
Kohei: 本日もPrivacy Talkにお越し頂きありがとうございます。ブラジルからチアゴさんにお越し頂いています。チアゴさんは素晴らしい調査を行っています。今日はチアゴさんの活動やミッションについてお伺いしたいと思います。本日は宜しくお願いします。
Thiago: ご招待いただきありがとうございます。宏平さん。
Kohei: ありがとうございます。まずは彼のプロフィールを紹介したいと思います。チアゴさんはブラジリア大学 (UnB) とブリュッセル自由大学(VUB)の共同博士課程プログラムに在籍されている研究者です。
彼はオランダのティルブルフ大学で法学修士を納め、ブラジリア大学では情報科学で修士、法とネットワークエンジニアリングで学士を納めています。
ブラジルデータ保護監督局(ANPD)ではイノベーションコーディネーターと調査員として活動し、データ保護責任者も務めています。彼は、公共政策とインターネット研究所(LAPIN)の共同創業者で、国際プライバシー専門家協会のメンバーとしてCIPP/E、CIPM、CIPTとCDPO.br.を取得されています。
本日はチアゴさんと色々お話しできることを楽しみにしています。
Thiago: こちらこそ楽しみです。
Kohei: ありがとうございます。では早速本日のアジェンダに移っていきたいと思います。まずはチアゴさんの活動についてお伺いしたいと思います。現在はデータ保護の分野で活動されていると思いますが、この分野で働き始めた理由についてお伺いしても良いでしょうか?
データ保護分野で活動を始めた理由
Thiago: わかりました。重要な質問をありがとうございます。私がデータ保護に関わるようになったのは、これまでのアカデミックのキャリアが影響しています。先程ご紹介いただいた通り、私はネットワークエンジニアリングで学士を納めています。
その後、修士課程では情報科学を専攻することになるのですが、丁度そのタイミングでテクノロジーを通して人と人が繋がり社会へどのような影響を与えるのかについて興味を持ち始めるようになりました。
そういった背景もあって、私が人間性について考えるようになったのはとても自然な流れでした。学士で法律を専攻した際には、法律と技術の接続点について継続して学ぶようになり、最終的には修士を取ることができました。
元々は学士で法律を専攻していた際に、知的財産に関する法を学んでいたので私にとってはテクノロジーと法が非常に身近であると感じていました。
ただ、当時から知的財産の分野にはあまり魅力を感じなかったため、徐々に人や個人の権利に直接関わっているデータ保護について(企業資産としてのデータだけではなく)関心を持つようになりました。
そういった背景もあって、オランダに移り修士を新たに専攻することになりました。二つ目の修士課程ではデータ保護に注力した研究活動を行っています。
この判断は今でも正しかったと思っています。私が修士課程に通い始めた時期は、丁度ブラジル国内でデータ保護についての議論が始まるタイミングでした。先行して色々なテーマについて話し合いを持ちましたが、当時はデータ保護政策が最終的に承認されることはありませんでした。
最終的に承認されたのは私が海外で学んでいたタイミングでした。ただ、私の修士課程が終了するタイミングでもあったため、データ保護監督局(ANPD)が設立されるのを待って帰国した後にANPDに参加し、現在の私の活動につながっています。
Kohei: とても興味深いお話しですね。チアゴさんは様々な調査プロジェクトに関わっていると思います。現在の博士課程ではどういった調査に関わっているか概要をお伺いしても良いですか?
博士課程で研究するAIとデータ保護制度の関連性
Thiago: わかりました。私は昨年から博士課程に進んでいます。これはデータ保護監督局での最後の活動実績になります。私がデータ保護監督局で働き始めてからは、特に人工知能に関わることが多くありました。
人工知能とデータ保護制度には関連する部分が多々あります。全ての人工知能がデータ保護に該当するわけではありませんが、AIシステムを通して個人データを処理する場合はリスクが非常に高いケースについて欧州のAI法のような規制が該当することになります。例えば対象として、要配慮が必要なセンシティブ情報がわかりやすいと思います。
このリスクが高いAIシステムへの懸念は地域によって文脈が異なります。こういった地域ごとの差異があるため、個人や市民の権利を保護することを前提にしたAIの設計を検討することが必要になります。
AIに関連したプロダクト開発において、質の高いものを生み出し続けることがイノベーションには重要だと考えています。イノベーションを阻害するのではなく、バランスをとりながら特定の規制に関連したツールを上手く利用していくことです。
初期に金融分野で始まった規制のサンドボックス制度も、分野を横断して応用するケースが少しづつ増えてきています。端的にいうと、私が研究している分野では規制のサンドボックスを通して責任あるAIをどのように育てていくのかが鍵になるだろうと想定して取り組んでいます。
Kohei: とても興味深い内容ですね。規制のサンドボックスについては、とても重要なお話しなので別のトピックでも触れたいと思います。チアゴさんはブラジルのデータ保護監督局(ANPD)でも活動されていると聞いています。現在の研究内容がデータ保護監督局での活動とどのようにつながっているのか教えていただけませんか?
データ保護制度の研究を政府の役割に繋げていくために
Thiago: わかりました。とても大切な質問ですね。私の場合には博士課程だけに注力して研究をしているわけではないので、データ保護監督局で働きながら博士課程を取得するような枠組みで研究をしていることになります。実際にやってみるととても難しい部分もあります。
私が現在取り組んでいることは、研究活動と政府の仕事がそれぞれに上手く連携していくような動きに繋げていくことです。ブラジルのデータ保護監督局ではAIに関する規制のサンドボックス制度のデザインを始めていて、データ保護についても検討材料として議論を行っています。
現在はデザインフェーズではありますが、この構想が上手くいけばペーパーとして形になってくると思います。実装に向けて、適切なリソースと法制度の設計を議論しています。
この取り組みが纏まれば、私の良い研究材料になると思っています。勿論、規制のサンドボックス以外にも博士課程で様々な研究に取り組んでいます。例えば、サンドボックスやそれ以外の制度のもとでアルゴリズムを通したデータ移転が行われた際の研究がわかりやすいと思います。この研究も政府での活動に持ち込みながら取り組みたいと思っています。
こういったプロジェクトはブラジル政府と調整して進めるだけでなく、私の研究分野ともつながっているので、各国の動向については注意深く見るようにしています。
Kohei: ご紹介頂きありがとうございます。チアゴさんがなぜ現在の活動に関わっているのかも含めて非常にわかりやすいお話しでした。ここからは、チアゴさんの研究分野について深ぼってお伺いしたいと思います。
ラテンアメリカ地域のデータ保護文化については、欧州の制度設計に少なからず影響を受けているのではないかと考えています。
チアゴさんが関わっていたペーパーの中でも、ラテンアメリカ地域のデータ保護動向について触れていました。次の質問は、ラテンアメリカのデータ保護文化について欧州のデータ保護制度にどのような影響を受けているのでしょうか?チアゴさんのご意見をお伺いできると嬉しいです。
〈最後までご覧いただき、ありがとうございました。続きの中編前半は、次回お届けします。〉
Interviewer, Translation and Edit 栗原宏平
Headline Image template author 山下夏姫