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【投資ノウハウ】エネルギー価格の高騰続く 今後の見通しは?

 車を走らせていると、毎週上がるガソリン価格に驚きを覚えている方も多いのではないでしょうか。石油情報センターが11月10日に発表した11月8日時点のレギュラーガソリン店頭現金小売価格(全国平均)は、169.0円/L、これで10週連続の値上がりです。10週間前の8月30日は157.8円/Lですので、この間の上昇率は7%です。今年最初の調査日となった1月4日時点では、136.1円/Lでしたので、この10カ月でリッター当たり32.9円(24%)の上昇になります。

 ガソリン価格上昇の背景には、原油価格の上昇があります。ただ、いまの原油価格の上昇は、単に原油の需給関係によるものだけでなく、脱炭素社会を急速に推し進めることによって生じた歪みも加わり、複合的な要因も見え隠れします。今回は、インフレの高進懸念が強まる中、冬を控えて、気になるエネルギー事情をみていきましょう。

OPECプラスの減産

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 まず、原油価格ですが、年初、国際的な原油指標価格のWTI原油は47ドル台で取引されていました。しかし、10月25日には85ドルまで上昇しました。その後も、80ドル超での取引が中心になっており、100ドル台に乗せる可能性も出てきています。
 この背景には、コロナ禍から経済が徐々に回復し、原油需要が高まる中、OPECプラス(石油輸出国機構加盟国13カ国に、ロシアやメキシコなど10カ国を加えた組織)が協調減産の縮小規模の拡大を渋っていることが挙げられます。
 米国や日本、インドなどの主要消費国から、供給拡大を申し入れる動きがあったことから、OPECプラスは11月の総会で減産幅を縮小するとみられていましたが、これに応じませんでした。これは、OPECプラスが、再びコロナの感染が拡大した際、原油は供給過剰になり、価格が下落すると予想しているためです。

 また、うがった見方をすれば、バイデン米大統領からの供給増の要請を蹴ったことで、OPECプラス、とりわけサウジアラビアとロシアのプレゼンスの高さを示す形にもなりました。米国は、オバマ政権あたりから中東に対する関与を徐々に縮小しており、同地域への影響力が薄れていることは否めません。このことも原油価格の上昇を抑え込むことを難しくしています。

天然ガス価格の急騰

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 また、原油価格上昇の要因として、天然ガス価格の急騰も挙げられます。天然ガスの価格は、今年の3月以降、上値を試す展開となり、10月には原油価格に換算すると200ドルを超える水準まで上昇しました。

 この背景にあるのが、欧州の天然ガス不足です。欧州では、コロナ禍から経済回復を迎える際、脱炭素の動きを加速させ、発電に使う燃料を石炭や石油から二酸化炭素の排出量の少ない天然ガスにシフトしていきました。
 欧州は、かねてより風力など再生可能エネルギーへの依存を高めています。しかし、今年の欧州は、例年より風況が芳しくなく、風力発電では十分な発電ができませんでした。また、欧州諸国の天然ガスの多くは、ロシアからの輸入により賄われていますが、そのロシアと需要を満たすだけの契約をしていませんでした

 そんな中、アジアで脱炭素の動きが強まったことで、発電用の天然ガス需要が高まり、今年10月の液化天然ガス(LNG)の価格は、昨年の10倍以上の水準となり、過去最高値を記録しました。この事態を受けて、脱炭素のため化石燃料の利用を控えていた欧州が、発電用の燃料として、石油を購入せざるを得ない状況に追い込まれ、原油価格上昇の要因の一つとなっています。

米国のシェールオイルは?

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 ところで世界最大の産油国は米国ですから、米国は自前で石油を調達すればいいのですが、こちらも思うようには進みません。これまでは、原油価格が上昇すると、シェールオイルが増産され、価格を抑制してきました。しかし、現在、米国の原油生産量は、日量1130万バレルと、コロナ前の2019年の水準に比べ200万バレル程度少なくなっています

 この背景には、米国でも脱炭素の動きが強まり、シェールオイルの増産にはネガティブイメージが付きまとうため、なかなかと増産に投資できない状況があります。また、現在、米国は民主党が政権を握っており、脱炭素社会の旗を大きく振っていることも影響しています。

まとめ

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 脱炭素社会を目指すことは人類が進むべき道でしょうが、そのロードマップをしっかりと描かずに動き出してしまったことが、現在のエネルギー価格の急騰をもたらしているようです。構造的な転換期なので、一朝一夕には進まず、まだしばらくエネルギー価格の高騰は続くでしょうし、インフレ圧力も強まるとみます。

 このような時期は、投資という面から考えれば、原材料の上昇をすぐに価格転嫁することが許される分野の企業が強みを発揮します。毎週ガソリン価格が上昇しているのでわかるように、エクソンモービル(XOM)、シェブロン(CVX)、出光興産(5019)、ENEOSホールディングス(5020)などの石油関連株、資源関連としては、伊藤忠商事(8001)、三菱商事(8058)、三井物産(8031)、住友商事(8053)などの商社株も妙味がありそうです。

記事作成:2021年11月16日

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佐藤隆司(ライタープロフィール)

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佐藤 隆司(さとう りゅうじ)
 米大卒業後、金融・投資全般の情報ベンダー、株式会社ゼネックス(のちの株式会社オーバルネクスト)入社。原油、貴金属、天然ゴムなど工業品を中心としたアナリスト活動を経て、金融市場全般の分析を担当。
 2010年、エイチスクエア株式会社を設立し、セミナー講師、アナリストリポートを執筆する。また、「FOREX NOTE 為替手帳」、「チャートの鬼・改」などの企画・出版も行う傍ら、ラジオ日経「ザ・マネー」の月曜キャスターも務める。

資格
「国際テクニカルアナリスト連盟 認定テクニカルアナリスト」

メディア情報
・「ザ・マネー」(ラジオ日経)月曜日キャスター
・「夜トレ」(ラジオ日経)、「昼エキスプレス」(日経CNBC)など出演

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