世の中をつかむ編【社会人シリーズ】〜経済のことよくわからないまま社会人へなってしまった人へ〜池上彰
⬛︎不景気の原因は銀行だ
銀行は顧客から集めたお金を企業に貸している
つまり、銀行が企業に貸す金を私たちが銀行に貸しているということ
銀行は顧客から顧客へお金を貸すという仲介役をすることで、社会的役割を果たしている
⬛︎銀行は企業育てのプロフェッショナル
・銀行に求められる能力
貸す相手が信用、成功できるか、利益を上げ返済できるか見極める
見込んだ企業を資金で応援することで様々な企業を育てていく重要な役割を果たしている
⬛︎恐慌は突然やってくる
2008年、アメリカの大手証券会社リーマン・ブラザーズの経営破綻
金融崩壊が始まる
世界経済、日本経済への影響は凄まじく日本の製造業は壊滅状態となった
なぜ、世界金融危機が起こってしまったのか
始まりはサブプライムローンの破綻だった
⬛︎サブプライムローンとは"消費者金融の住宅ローン版"
・サブプライムローンとは
直訳で「格下のローン」
定職がない、収入が非常に少ないなど信用がない人にまで住宅ローンを組んでお金を貸す仕組み
サブプライムローンは、消費者金融の住宅ローンのようなもので金利を高く設定している
住宅ローンの返済が止まれば、貸した側は担保の土地と住宅を取り上げて競売かける
借りる側も担保を取り上げられたらおしまい、専門用語で「ノンリコース(非遡及)ローン」ともいう
この時、住宅ローン会社は債権、つまり貸したお金を返してもらう権利を持つことになる、この債権には、返してもらえないというリスクがある
そこで登場するのがアメリカの金融業界の大原則、よくいえばリスク管理だが、その内実はリスクを他人に押し付けるというもの
これで住宅ローン会社は、債権を投資銀行に売りつけた
投資銀行側も積極的に債権を買い集めた
⬛︎住宅バブルの発生と崩壊
投資銀行は、客から預金を集めることはできず、企業が資金集めをする際に社債の発行を手伝ったり、自社で証券や社債を発行して資金を集め、様々な分野な投資する業務を行う
リーマンブラザーズも投資銀行だった
住宅ローン会社は投資銀行に債権を売ることによって、現金を手に入れる
その現金でサブプライムローンを借りたい人に貸す
貸すと債権が得られるから、その権利を売る
このサイクルを続けた結果、住宅バブルが発生した
2007年、サブプライムローンを返済できない人が増え、住宅バブルがはじけてしまった
この問題の厄介な点は、住宅ローン会社から債権を購入した投資銀行が、債権を証券化し小分けにして売ってしまったこと
しかし、返済されない危険性のある債権は、単体では買ってもらえない可能性がある
それで、リスク分散の発想から一つの住宅ローン会社から買ったサブプライムローン債権だけではなく、他社サブプライムローン債権やごく普通の住宅ローン債権などをごちゃ混ぜにしてパッケージで売るという手法を取った
そうしてリスクを軽くしたことで、そのパッケージ商品は格付け会社から「トリプルA(最高の安全度)」のお墨付きを得て、更には保険会社が元本保証をして安心度をアップ
世界中の銀行をはじめとする金融機関やヘッジファンドにどんどん売れた
そこで住宅バブルが弾けたらどうなるか
サブプライムローンをもとにした証券は価格が暴落し値段がつかなくなった
同時にパッケージ商品も紙くず同然になった
用語:格付け会社
金融商品が安全がどうかを格付けする会社
スタンダード&プアーズ、ムーディーズ、フィッチなどがある
⬛︎サブプライムローン問題が経済の「血液」の流れを止めた
「あそこの銀行はサブプライムで大損しているかもしれない」
そんな不安から銀行同士のお金の貸し借りが止まった
お金の流れが止まるというのは人間の体に例えると血液が止まるのと同じ
加えて、ヘッジファンドは多くの人からお金を預かり運用しているため、返金を求められた場合に備えて現金を持っている必要がある
そこで、現金化の為に持っていた大量の日本の株を売却した
その影響で日本の株式市場で株価が大暴落した
⬛︎原油価格が暴騰した
日本の株式市場から逃げ出した投機資金が向かった先はニューヨーク原油先物市場だった
ここは将来石油を買う権利を売買する市場
これによって原油価格が暴騰した
同時に起こった中東情勢も相まっていた
⬛︎穀物価格が暴騰した
原油価格の暴騰によって、別の問題も起きた
ガソリンの値段が上がるのは困るということから、代替エネルギーを確保しはじめる
そこで注目されたのがバイオエタノール
これは北米ではトウモロコシ、南米ではサトウキビから製造される燃料で次世代のガソリンと目されている
しかし、トウモロコシをバイオエタノールとして利用すれば、食用や家畜用の飼料のトウモロコシ価格が高騰し、トウモロコシから作る加工食品や牛、豚、鶏の肉の値段も暴騰した
トウモロコシが儲かると目をつけた、小麦や大豆農家は転作をした
その結果、小麦や大豆も値段が高騰した
国際的な投機資金がここに目をつけて、穀物の先物市場にも流れ込んでいった
結果全ての食料価格が高騰した
⬛︎リーマン・ブラザーズの破綻で世界金融危機は第二幕へ
第二幕は2008年のリーマンブラザーズの経営破綻に始まる
・経営破綻の原因
小さな資金を元にして大きな資金を動かすレバレッジという手法を使ったこと
具体的には、サブプライムローン債権が組み込まれたパッケージ商品を買い込み、それを担保にして再びパッケージを購入これを繰り返した
この方法なら元の資金を何倍にも増やして運用することができる
しかし、ここで金融不安が広がるとどうなるか
例えば元手100万円でレバレッジを繰り返し購入した1,000万円のパッケージ商品があったとする
これが売れなくなり、200万円まで値下がり
元手は100万円なのに、800万円もの損失が出ることになる、残るのは700万円の借金だけ
こうしてリーマンブラザーズは経営破綻し、
世界金融危機の第二幕が始まった
用語:ヘッジファンド
ヘッジとは危険を避けるという意味、ファンドは基金
他人の資金を預かり、リスクを避けながら増やすのが仕事
⬛︎円安から一転して円高へ
サブプライムローン問題をきっかけにヘッジファンドも投資している資産を現金化し始めた
これが日本経済にも大きな影響を及ぼした
なぜなら、多くのヘッジファンドが金利の安い場所でお金を借りて、金利が高いところに投資をしていたから
ヘッジファンドだけでなく、投資銀行や金融機関も、円をドルに、ユーロにというように運用をしていた
そのため円の価値が下がり、ずっと円安が続いていた
これは日本経済にとってはプラス、自動車などの輸出産業は大儲けだった
しかし、ヘッジファンドが投資活動を止めると日本の銀行がら借りていた投資の資金を返す必要が出てくる
そこでドルを円に替える動きが加速し、一気に円高になった
結果、輸出産業が大打撃を受けた
⬛︎自動車産業を直撃
日本の自動車産業はリーマンショックによってもう一つの大打撃を受けた
その大きな原因は、アメリカの銀行が自動車ローンを貸し渋るようになり、自動車が売れなくなったこと
これにより自動車メーカーだけでなく、産業界全体の苦境へと発展した
⬛︎日本の経済界は相対的に健全
日本では金融の自由化が進んでいなかったことから、サブプライムならびにリーマン関連の損失額は相対的に少なく済んでいる
実際、貸し渋りが起きた
銀行がお金を貸さないと、企業は事業を拡大できず、結果経済の規模が小さくなり発展しなくなる
これを専門用語で「信用収縮」という
銀行の役割である「企業育て」を放棄することで、経済が悪化するということになった
・悪循環に対する対策
日本のメガバンクと呼ばれる大手銀行が、自己資本を増やすという方向で動き出している
新規株を発行し、買ってもらうことで自己資本を増やし新規融資を拡大しようとしている
用語:貸し渋り
企業にお金を貸すことを控えること
貸し剥がし
企業に貸したお金が返済期限が来る前に無理矢理回収しようとする
国債:国の借金
⬛︎世界の金融は目下リハビリ中
・公的資金の注入
銀行の新規株を国が購入すれば、その分銀行の自己資本が増えるため、銀行は企業にお金を貸すことができる
つまり、貸し渋りを少しでも減らして、企業の事業活動を縮小しなくて済むようサポートしている
⬛︎日本では金融のセーフティネットが整備されている
・ペイオフ
銀行に預けたお金は、その銀行が破綻しても1,000万円とその利子が必ず戻ってくる
・大手生命保険会社
潰れたとしても掛け金が保証される
⬛︎円高になっていいこともある
・原油の値段はドル建てなため、円高になるとその分だけ下がる
・輸送費も安くなる
結果、輸入品の値段が下がる
輸入品の売り上げが伸びるという
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