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友情の最終駅

中学校のとき、英語の授業で工藤先生が僕たちにこう言ったんだ。「友達は英語でfriends、単語の中にENDが含まれている。いつか終わるのが友達なのさ」と。でも、僕は「親友との付き合いは一生おわらない。工藤先生は嘘つきだ」と思ったね。

その時に僕にはユータという親友がいた。彼は小学校6年生のときに東京から転校してきた、すごい奴だった。脚は速いし、計算も早い、文字もきれいで欠点は顔がちょっとカマキリに似ているぐらいだったな。

そんなユータと僕はなぜか気が合い、小学校のときは毎日のように遊び、誰がどう言おうが僕らは親友だった。ユータは面白く、運動神経も良いので中学校に入学後に女子から人気があったし、たぶん校庭にいたメスのカマキリもユータを食べようと思ってたな。

ユータは陸上部で市の大会でガンガン入賞し、定期試験の成績はいつも学年で4~5位で同級生も教師も「コイツはすごい大人になるぞ」とみんなが期待していた。僕はバスケ部だったけど、試合のときはベンチをお尻で温め、練習のときは体育館の裏でバッタを追いかけて大活躍さ。

ただ、ユータは学校で段々とイケてる奴らとつるむようになり、僕のようなイケてない奴らとは距離を取るようになった。でも、僕と2人といるときはいつものユータで、エロ本がよく落ちているところも教えてくれた。やはりいい奴だった。

僕とユータが疎遠になったのは中学校卒業後だった。ユータは県で1番優秀な奴らが集まる高校に進学し、僕はその真逆の奴らが集まる高校に行くことになったからだ。たまに会うときにもイケてる奴か、女の子と一緒だから話しかけにくくなり、僕らは少しずつ離れていったね。

不良のエリート校に行った僕は勉強をしなかったことを後悔したな。挨拶で飛び蹴りをしてくる奴、カップ麺の汁を廊下に捨てる奴、シンナーを吸ってハッピーな奴、ブランドものばっかり持ってる奴だった。最近では母校はtiktokの強豪校として有名さ。

僕は「これじゃやばいな」と思って、人生を変えるために高校生活の全てを受験勉強に捧げていたな。留年しない日数を計算し、学校をサボって図書館で勉強し、授業は全て寝ていたけど、定期テストは簡単すぎて10分でおわったね。わからなくても咳払いで教師が答えを教えてくれたしね。

でも、担任の先生や進路指導の先生に「地元の国立大学に行きたいです」と言ったら、みんなとても優しくて「大人になるんだから現実を見ような。ここの私立大学なら名前書ければ受かるよ」とアドバイスしてくれたね。状況としては東京でアイドルを目指す女の子と一緒だな。

でも僕の心は変わらず、受験したよ。3教科の試験だけで受かる学部だったけど僕は絶望した。わからない問題が多すぎたからだ。「これは無理だ...」と思っていたら、なぜか合格した。その年は問題が難しすぎて、解けない奴らばかりだったからね。

一方のユータは「ケーオー大学」に推薦で合格し、後輩の女の子に花束をもらって高校と童貞を卒業したと聞いたよ。僕は卒業式後に「キミは我が校始まって以来の天才だ!」と校長先生に握手されたけど、貞操は守りきったよ。

卒業式後の春休みにたまたま近所の公園で一人でタバコを吸っているユータに出会った。僕は声をかけ、大学に進学することを伝えた。すると「おめでとう。あそこは3教科だろ、狙い目の国立なんだよ」とノラネコを見ながら祝ってくれたね。

僕は無事に大学生になったが、周りの人たちの賢さに圧倒された。僕はこの大学に入ったことが誇りだったが、「この大学にしか受からなかった」と恥に思っている人たちも多かった。そして、底辺高校で天才と言われた僕は、その大学で落ちこぼれの王冠を手に入れたんだ。

その頃はちょうどSNSが登場した頃で、僕はユータの活躍を投稿という形でよく見ていた。彼の投稿は「この大学の奴ら大したことない」「最初の試験も上位に食い込めた」などの投稿が多く「やっぱユータはすごいやつだ」と思ったんだ。例えるならポルシェを眺める軽トラの気分さ。

一方の僕は大学に行きつつも、TOEICや資格の勉強に励んでいた。飲み会に行く友達も、パチンコをするお金も、彼女を作る度胸もない、真面目な奴らがたどり着くのが勉強だからね。もちろんSegare de Masukakiも毎日やった。これも真面目な奴らがやることだからな。

ユータの投稿は進級するにつれて、どんどんレベルアップしていった。「最高の人生を突っ走れ!」「勉強よりも人生の経験値を増やしたい」「大学は無意味!」と熱い想いが語られていた。写真の中のユータは茶髪で色黒になり、昔よりもさらにカマキリ似ていたけど、楽しそうだったな。

大学時代も暗い顔して勉強をしていた僕だったけど、就職活動では公務員試験を受け、これまた運とハッタリで県庁に採用をされたんだ。僕を採用するような役所なんか、そろそろ財政破綻する気がしたね。

県庁に採用されたことを聞きつけた高校時代の校長が実家にやってきたんだ。「キミのような努力家に出会えて本当によかった」と言って、巨大な芋羊羹をくれたのは忘れられないね。校長が幼馴染の美少女だったら最高だったのにな。

周りの人たちも「勝ち組!」「すごすぎる!」とかいってたけど、アイツらは何もわかっちゃいないな、と思ったね。しがない公務員のどこが勝ち組なんだよ。本当の勝ち組はユータさ。オレみたいなポンコツ公務員じゃなく、ビジネス界に進むアイツなんだ。

SNSの投稿によるとユータは就職せずに、ビジネス界で活躍する師匠の指導のもと、起業するとのことだった。もう、僕の頭には2人の美女と一緒に札束の風呂に入っているユータが浮かんでいたよ。「勝ちまくりモテまくり」ってね。

僕は大学卒業後にそのまま県庁に行き、研修が終わったあとは税務課に配属になったんだ。まー、世の中の汚いところが見える仕事だったな。税金をちょろまかす金持ちだらけだったからね。その人たちに電話をするとキレまくり、怒鳴りまくりで楽しかったよ。

SNSのユータは相変わらず、羽振りが良さそうだったし、楽しそうだったね。昼間はビジネス仲間とパワーランチ、夜はホテルでフェラーリレースという感じさ。でも、トゲトゲの靴はやめたほうがいいなと思ったけどな。

そんな感じで働いてから1年経ったときに、ユータからラインで連絡があったんだ。「いま地元にいるよ!久しぶりに会わないか?お互いに仕事の話でもしようぜ」ときて、僕は「もちろん」と返信した。大好きなちいかわスタンプの「OK」と一緒にね。

ユータが待ち合わせに指定した場所は、地元駅近くのルノアールだった。僕としては磯丸水産でハマグリを焼きたかったけど、ビジネスパーソンはそんなとこ行かないもんな。ユータはコーヒーを頼み終えるとこう語り出した。

「公務員?つまらない生き方だな。ずっと嫌な仕事ばっかりだろ。人生がすり減っちゃうよ。思い出せよ、俺たちがガキの頃、公園でジャングルジムの王者だったころを最高だったろ。エロ本を拾って楽しかったろ!」と。

僕はやっぱりユータは最高だ、と思ったね。こんなにワクワクする話をする奴はなかなかいないし、県庁の働かないオッサンどもに聞かせてやりたい、とも思った。そしてユータは続けて語った。

「もし365日夏休みだったら、最高だろ。好きなこと100個あって、全部達成できる生き方があるんだ。それは権利収入さ」と目をキラキラしながら言ったね。僕も東京のビジネスパーソンはすげえなと心底思ったね。

そして、ユータは真剣な目をして、僕にこう言ったんだ。「また、一緒に夢を追いかけないか?俺たちは最強の親友だろ」と僕も「そうだな。俺たちは親友だもんな」と返した。でも、ユータの次の言葉で全てが終わっちまった。

「よし。じゃあ、これを手に入れないか?これは本当にいい浄水器だ。俺は大切な友達にしか売らないと決めている」これを聞いて、僕の脳内ではWindows98のスクリーンセーバーのようにENDの文字で回転を始め、あぁ、ここが友情の最終駅だったのか、としみじみ思ったね。

ただ、ユータには本当に感謝をしている。アイツは僕を大人にしてくれたんだ。大人は「事実を淡々と見ればいい」ってことに気がつかせてくれたんだ。自分を下手に下げる必要なんてないし、誰かを上げる必要もない。それをアイツから学んだんだ。

そして、「友達は英語でfriends、単語の中にENDが含まれている。いつか終わるのが友達なのさ」ということは本当だったんだ。実際に僕とユータは終わっちまったわけだしね。

大切なことを教えてくれた英語教師の工藤先生に僕は心の中でちゃんと謝ったよ。「工藤先生、ごめんなさい。先生の弁当を勝手に食べた犯人は私です。ノライヌではありません」ってね。

おしまい


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