「舞妓さん家のまかないさん」で芸達者の醍醐味を楽しむ
Netflixで「舞妓さん家のまかないさん」が配信された。
「万引き家族」の是枝監督が総演出や脚本を担当しているので、とても楽しみにしていた作品だった。
でも、配信の前に元舞妓の暴露記事が巷で話題になり、華やかな舞妓や芸妓の世界も、なかなか暗く重い非常識なところがあると、知ってしまった。まあ、水と芸の世界だから、品行方正じゃないことは分かっていてても、世の中に出てしまうと、それなりに意気消沈してしまう。
だから、是枝監督らしい、誰一人意地の悪い悪人が居ない夢心地の世界を、見てるこちらも暖かく夢見がちにうとうと眺めることが完全にできなかった。
それでも、そんなことを知っていても、かなりの割合で暖かな夢の世界に没入できたのは、脚本の確かさか、演出の妙味か。はたまた、音楽の美しさか。そう言えば音楽はかの、菅野よう子だったから、びっくり。品のある落ち着いた音楽が物語の背後でゆったりと流れ、支えていて好感。
面白かったのが、驚くほど淡々と感情が流れる、別れのシーンで涙が累々と流れ落ち、悲観の声を高らかになんてことは全くなく、別れようが何しようが、静かに確かに感情が流れる。
でも、その代わりと言ってはなんだけど、ささやかな表情や言葉の端々で、饒舌な感情の吐露を見せる。下品じゃない品があり粋である。普通は、言葉で叫びで、表情で満面の感情を表すのに、ここまで抑える演出をするのは、新鮮だった。
舞台は京都。と、言うことは京都弁を使わなあかん。
これが、ほんまに心配やった。確かに、京都以外の地方出身者が舞妓になるけど、主となるのは京都の祇園。ある程度はしゃべって当たり前の世界。変な関西弁、京都弁をしゃべられた日にゃ、気持ちがヘナヘナ萎えてまう。
で、主人公の若い二人はぎこちない京都弁なのだ。それどころか、主人公のまかないさんの方は京都弁は話さなくなった早々に。だけど許せるというか、だからこそ若さが感じられて役が立つ。
そこで、彼女らを補うために脇を固める、役者たちがいる。関西以外の人びとも多数無数おる。ここが、ほんのちょっぴりでも、関東京都弁を話したら、もう、物語が瓦解する。
だけれどもかなりの芸達者を集め、抜かりが無いというか感心させられる。
今や、風格漂うおばあさん役者となった松坂慶子。しっかり中堅となった常盤貴子。それから、えらい風格がついたなあと感心した橋本愛。繊細で儚い綺麗な女の子と思っていたら、すごいやりての舞妓さんになっていた。
そして、何よりもびっくりこいたのが、松尾茉優。
正直、最後の最後まで、わからなかった。というか信じなかった。どっかで見たことがある女優さんやなあと、最後の最後まで見て、後から調べてみたらやっぱりそうだった。
完全なおばさん演技で、がさつでおもろい。今後の女優生命が危ぶまれるほどの、はっちゃけた演技。いやぁ〜恐るべしだ。彼女、上手いといつもおもんやけど、なんだか、余計なことをやって、ちょっと気になるのだけど、この作品はそのやりすぎがちょうど良かったんじゃないかなと思えた。
ついこの間、マッドドックで妙に妖艶な女性を演じていたので、余計に感じたのかもしれない。
本当に、たいしたこともなく、全てがすんなり、はんなり、幸せが詰まった面白い作品だった。実際は芸の世界だから、こんなには幸せなはずはないが、一つの異世界ファンタジーとして、本当とは違うと喚くような野暮なことは言わずに、ただただ、楽しめば良いんじゃないかなと、諦めさせられる良き作品でした。
ただ、最後にちょっと、みんな上手くて、すごい芸達者なんだけど、関西のリズムとはちょっと違うような気がしたような。贅沢なのかもしれないけれど。
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