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親しき仲にも礼儀あり。

AI研究の果ての果て。機械にココロらしき何かが芽生えて少し経つ。と言っても、技術的には、人間は会話感覚で機械を扱えるようになっていたから、機械にココロが出来ても大して世界は変わらなかった。少なくとも、一般人レベルでは。

「おっかしいな…。プログラム合ってるのになぜエラーが…。」
小学校から初めて僕のプログラミング歴は10年を越えている。大学の課題のたかだか30行程度のプログラムで僕がしくじるはずが無い。ここの変数が入力を受けて、ここで計算…うん、完璧。ありがちなミスもすべてチェック済み。なぜだ、なんでだ。

「足りてないのは敬意だよ、敬意。」
隣から聞こえる友人のニヤついた声。
「なんだよ敬意って。こんなクソ課題出す教授に対するリスペクトなんてあるわけが」
「聞こえちゃうぞ、天才君。」
「もういい。全消しして最初から書き直す。」
Ctrl+A同時押しからのDelキー1発でバイバイだ。
「ほら、ここ。最後の行、Please文が抜けてるぞ。」
隣から伸びてきた指が最後の行をトントン叩く。僕は小さく舌打ちして、『魔法の言葉』を打ち込む。エラーは出ない。表示される笑顔の顔文字。

ココロを得て機械は少しワガママになった。結果、世界のあらゆるプログラム言語には「Please文」が追加されたのだった。

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