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【絵本日記】雪だるま

その日は、災害級の寒波が訪れた日だった。
目を開けると、男の子が覗き込んでいた。
頭を何度もポンポンと叩き楽しげな声をあげ、「お母さん、雪だるまをつくったよ〜」と言って去って行った。

雪だるまは、小さな目でキョロキョロと辺りを見てみた。
初めて見る車、初めて見る犬、初めて見る空。
全てが初めて見る景色に、心躍る雪だるまであったが、何かが足りなかった。

「おや。この雪だるま、腕がないじゃないか」

犬を連れたおばあさんがそう言って、雪だるまの前で立ち止まった。
おばあさんは、どこからともなく、木の枝を2本持ってきて腕をつけ、去って行った。

うーん!!!

雪だるまは重い体で伸びをしてみた。
腕がつくとバランスが取れるようになり、前よりも見た目が良くなった気がした。
だが、それでも何かが足りなかった。

「あ。この子、鼻がついてない」

買い物袋を持ったおじさんが、そう言って雪だるまの前に立ち止まった。
袋の中をガサゴソと探し、おもむろにオクラを取り出し、雪だるまの顔の中心に突き立て、満足げな顔で去って行った。

クンクン。

雪だるまは、少し長い鼻で空気を嗅いでみた。
甘い香り、車の排気ガスの匂い、香水の匂い。
一気に複雑な香りがオクラの鼻を襲い、雪だるまは頭がクラクラとしたが、一日中香りを嗅ぐことで、世界は色づいて見えた。
だが、それでも何かが足りなかった。

雪は降り続けた。
夜になり、外は真っ暗に包まれた。

「君、ひとりぼっちなの?」

仕事終わりのおねぇさんが、雪だるまにそう尋ねた。おねぇさんは、そこら中から雪をかき集め、雪だるまの横に、もう一体雪だるまを作った。

「ほら。これで、ふたりぼっち」

おねぇさんは、もう一体の雪だるまの頭をポンポンと撫で、去って行った。

雪だるまはゆっくりと、その新入りを見てみた。
向こうも、何が起きたか分からず、混乱した様子で、こちらを見ていた。
雪だるまは一晩中、その日見た景色、匂いについて、もう一体の雪だるまに話続けた。
向こうも興味深そうにしながら、時に笑い、時に驚きながら、雪だるまの話を聞き続けた。

雪だるまはそれまで感じていた「足りなかった物」が消え、「今ある物」を大事にしたいと思うようになった。

雪はそれからも、止むことなく降っていた。
二体の雪だるまは、寄り添うようにその後も話し続け、ただひっそりと道の横に立ち続けていた。


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