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【あとがき】「イラストレーターだけど農業始めてみた」反省会会場

2018年8月2日。
「cakes」に「イラストレーターだけど農業始めてみた」の第1話が掲載された。
それから約1年4ヶ月、2019年11月21日の更新で同漫画は最終回を迎えた。

通称「イラ農」は僕が漫画家として始めてお金をもらって描いた連載だった。爆発的にヒットしたわけでもないが、多くの人に読んでもらったり、励ましの言葉をいただけてすごく幸せな作品だった。
無事に終わった安堵感と、原稿を描き終えた興奮のままに、自分一人での反省や感想を書いていきたいと思う。
この作品を読んでくれた方も、そうでない方も、ひとつの作品を作り終えたクリエイターのイタ…もとい、あついテンションを感じてもらえれば幸いです。

●描き始めからクリエイターコンテスト受賞まで

cakesの作品ページの冒頭にも書いてあるが、もとは2018年に開催された「第2回cakesクリエイターコンテスト」で佳作を受賞したことがきっかけで連載させてもらうことになった。
もともと僕はinstagramで「天然素材の妻日記」という、妻との生活をテーマにしたエッセイ漫画を自分のアカウントで描いていた。それが2018年4月の引っ越しで岩手に住むことになった時に、その延長というか、派生として描き始めたのが「イラストレーターだけど農業始めてみた」であった。

その「イラ農」を描き始めてすぐに、上記のコンテストが開催されていることを知り、フリーランスになったばかりの僕としては是非、挑戦したいと思った。
とりあえず、cakesに会員登録をして、どんな記事が載っているか、第1回のコンテストの受賞作の傾向等を調べた結果、始めたばっかりの「イラ農」が一番可能性が高いなと思い、instagram用に描いた第1話をnoteにも更新し、応募した。
結果、本当に佳作をいただき、本格的にcakesでの連載が決まったのであった。

●受賞から連載まで

受賞の後、担当としてピースオブケイクスのEさんが担当としてついてくれることになり、連載に向けての構成やネタ出しがはじまった。
この時、僕がこっそり目標として掲げていたのが「受賞者の中で一番に連載を始める」だった。
今思えば、早く始めることは特にメリットはない気もするが、その時は「早く始めないと、他のすごい受賞者のみんなに埋もれて見てもらえなくなる!」という謎の焦燥感が僕の中にあった。
(結論から言うと、僕は確か2番目くらいだったと思う。一番は吉玉サキさんの『小屋ガール通信』なはずである。)

とにかく、早くネタ出しをしなくちゃ!と思ったが、その段階で2018年の6月末頃。岩手にきてまだ丸3ヶ月程度で、そもそもどんなことをするのかまだ完全にわかっていないのである。それでも、米作りの一連の流れを調べたうえで今後、自分が何をするかを想定して、だいたい50話分のネタ出しをした。「1年は続けられますよ」というアピールのつもりでそれくらいのボリュームは出さなきゃダメだ!と思い、これだけ出した。
その後、全体と1話単位の大枠の構成案をまとめてEさんにメールで送って、OKをもらうことができた。
当時作った構成案と54話分のネタを目次としてまとめた資料をついでに公開しておきます。なんの参考になるかはわかりませんが、興味のあるかたはどうぞご覧ください。


今見返してみると、たしかEさんから「こんな方向性で連載にしたい」という意見もいただいた上で、それを盛り込みつつ、自分が週一でできるであろう内容になるように構成案を作った気がする。
とにかくスムーズかつ、こちらのベースをたたき台にして打ち合わせを進めたいと思って特急で作った。この辺が自分のやらしいところだなあと思ったりもするが、短所だとは思っていない。

話は戻り、この構成案と目次で進めることになり、連載を始めるまでに「5話分のストック」を用意しましょうということになった。
それで、5話分のネームを進めるとともに、一度、Eさんに実際にお会いして挨拶したいと思って、打ち合わせも兼ねて上京することになった。
確か上京までに、僕は2話分のネームとキャラデザインを添えてEさんにメールしておき、上京して、打ち合わせまでの時間に3話のネームを紙の上でざっと書いて打ち合わせに臨んだ(だった気がする。もしくは1話のネームをメール、2話はiPadで、3話は紙で作って当日持ち込み)。

ピースオブケイクさんは(今は住所が変わったが)おしゃれな内装な上に、Eさんもおしゃれ女子で、人見知りに加えて結婚してるのに童貞感が消えない僕にとっては恐ろしい状況であった。変な汗をかくわ、緊張するわで臓器3個くらい吐きそうだったことは忘れない。

それでも臓器は出さずに打ち合わせを終えた。
確か1話はセリフの修正だけで済んだが、2話は結構直した方がいいという結論にいたり、全体の後半にまわして、他の話を1話ずつ繰上げようということになった、はず。
結局、この2話が日の目を見るのは1年以上たった55話。方言をテーマにした回である。

それ以外は順調に進み、岩手に帰った後に残りのネームを通し、さらに原稿を完成させ、7月中に5話分のストックができ、8月2日に連載がスタートしたのであった。

●連載開始後

連載が開始した時点であった5話分のストックはお盆休みも重なり、あっという間に消えてしまった。きづけば毎週、公開日の前日である水曜日の夕方に原稿をあげるというギリギリの日々になっていった。
担当のEさんが都合で水曜日は夜中まで動けないということだったので、インターンのKさんが入稿作業をしてくれていた。
その前段階のネームチェックはEさんにしてもらっていた。Eさんはいつも内容を褒めてくれてこちらのモチベーションを実にうまくあげてくれていた。Eさんからの修正指示はほとんどセリフのみ。誤字脱字や表記揺れ、長ったらしい言い回しを簡略にしてくれたり…。勢いで文を書いてしまう僕にとって、本当にありがたい存在であった。
(この文章も勢いで書いているので、さぞかし読みづらいと思います。今2400文字超えてます。ここまで読んでくれてありがとうございます。)

入稿してくれるKさんも「●●が面白かったです!」「ここ切ないですね!」と、忙しいにも関わらず毎回感想を添えてくれていた。おそらく、僕よりも10歳以上若いのに、僕の10倍はしっかりしている。若者怖いって、久々に感じました(本当に感謝しています)。

なにより嬉しかったのはTwitterに感想をあげてくれたり、instagramでもDMで感想を送ってもらえたり、「読んでくれている人がいる」という実感を得られる瞬間は本当に幸せでした。

一方で描くのは、毎回自分の未熟さを痛感させられていました。
毎回、必ずといっていいほど「これはどう描くんだ?」というものが出てきて、そのたびにググったり、本を読んだりと苦労の連続でした。最終回まで、これは治りませんでした。連載は終わっても、まだまだ修行は終わらないと痛感しております。
多分、連載の中で読みにくい部分も多々あったと思います。読んでくれたみなさんは本当に優しい…。

●最終回へ

そうやって連載を続けて行く中で最終回の話を伝えたのが、2019年7月。別のお仕事で打ち合わせの用事があり、上京することが決まっていたため、Eさんに連絡をとり、直接会って打ち合わせをすることになった。
そのために、ネタを最終回分まで追加した目次を用意して、当日の打ち合わせに臨んだ。

「ここらで終わらせてもらればな〜と思ってます。」

と提案したのは僕からである。
岩手の生活も2年目に入り、状況の変化(イラ農を読んでもらえればわかると思いますが)や、基本的には1年目と大きくやることが変わったわけではないので、新しいネタが現状難しいということがあり、僕からそれを伝えたのである。
Eさんは快く受け入れてくれて、11月で終わることが決定した。

この段階で、僕の心残りは、

①書籍化の夢が叶わなかったこと
②cakesのランキングで1位を獲れていないこと

の2点であった。
①はもしかしたら、まだあるのかもしれないけど、基本的には夢見ずに、上を向いて歩こうと思っている。
②に関しては、連載が終わるまでに一度は叶えたいと思っていた。佳作とはいえ、賞までもらって、連載させてもらっている以上、サイトのPV数に一度はわかりやすく貢献できればと思っており、それが一番わかる形がランキングの1位だと考えていた。でも、すでに最終回までのネタは決まっており、今更大きく構成を変えるのも嫌だなあと思い、明らかに閲覧数を稼ぐためのテコ入れ等は考えずに、決まったネタの中で少しでも楽しんでもらえることだけ考えて描き続けていた。
それを繰り返して、最終回の直前、66話ではじめてデイリーのランキングで1位をとることができた。

この話は今までとは明らかに違うトーンの話で不安もあったが、「これは読んでもらえる気がする」と、根拠のない自信があった。それくらい描く時に自然と力が入った回だった。
というか、「読んでもらわないと、いと(作中に出る牛の名前)に申し訳が立たない!」という気持ちがあり、どうしても力んでいた。
それが結果に現れたのか、いとのおかげか。終了前に初めて1位になることができた。
読んでくれた人たちからもアツい感想をいつも以上にいただけて、心からいとに感謝したことは記憶に新しい。

この勢いもあって、最終回も高いモチベーションを維持したまま、描くことができたし、勢いがつきすぎて、こんなあとがきまで書いてしまっている。
勢い怖い。

●ガチ反省

何よりも悔やむのは、最初のころ、noteで書いていた「イラ農」のライナーノーツである。毎回、自分で感想を書いていたのだが、漫画の内容まで触れたいがためにネタバレを恐れて「有料記事」にしたのが個人的には失敗だったなと思っている。
そもそも、こんなよくわからん新人のライナーノーツにお金を払いたい人はごく一部である(購入していただいた方、本当にありがとうございます)。
そこまでして読む人はおらず、ほとんど読んでもらえないという悔しさや悲しさで、途中で書くのをやめてしまった。
ここはもっとやりようがあったなあと個人的には残念に思っている箇所である。

●サブタイトル

上記のライナーノーツでは毎回触れていたが、「イラ農」のサブタイトルは全て実在する楽曲のタイトルをそのまま使わせていただくか、もしくはそのタイトルをもじったものになっている。ここはEさんも何も言わない箇所なので、自分の趣味を大いに全開にしたところであった。毎回iPhoneをぽちぽちして、「今回にあう曲ないかな〜?」って探すのは僕のささやかな楽しみであった。全67話のタイトルのうち、読んでくれた誰かが一人でも気になって、元の楽曲にたどり着いてくれる人がいたらいいな〜と陰謀を抱いていたが、結果は僕も知らない。

ちなみに、最終回のサブタイトルは「エンドロール」。これは「The Whoops」というインディーズバンドの楽曲から使わせてもらっている。近年、僕が大好きなバンドの一つで、メンバー3人の仲の良さ、TwitterやMCのふざけっぷり。なにより、センチメンタルさあふれる楽曲が心から大好きでひっそりと今年開催された、バンド初のワンマンにも参加していた。
人前ではしゃげるメンタリズムはもちあわせていないので、後ろでこっそりと。
その中でも最終回に使用した「エンドロール」は多幸感あふれる曲で、
大好きな人と結ばれて終わりではなく、その先の人生も共有して、最期を共に過ごしたい。そんな人に出会えた幸せをひしひしと感じる曲になっている(ちなみに、作詞作曲を手がけるギターボーカルの宮田さんは既婚である)。人生というか、物語は区切りを迎えたけど、その先もまだまだ続いていく、楽しいことも悲しいことも続いていくんだよっていう願いと、自分への言い聞かせも兼ねて、最終回にこの楽曲をタイトルにした。
The Whoopsは各サブスクでも聴けるので、一度試しに聞いてほしいと思っています。

●今後について

イラ農については、(多分ないと思いますが)書籍化とかなったらいいなあとかちょっとだけ思っています。なんともならなかったら自分で本にしてコミティアとかで頒布します。もし、今後も農業を続けていってネタがたまったら、またやる日がくるのかもしれません。
僕自身の活動に関しては、最終回の最後にお礼の言葉とともに書いていますが、「cakes」で新しい作品の連載の準備をEさんと進めています。また楽しいお話と考えています。早めに戻ってきたいなあと考えていますので、ちょっとの間お待ちいただければと思っています。
また、近いうちに他の漫画のお知らせもできそうなので、順次、Twitterやnoteでお知らせしますので、たまーにのぞいてみてください。

●さいごに

もう5000字を超えました。ここまで読んだ人はいないでしょう。逆に読んでくれた方、いらっしゃったら本当に嬉しいです。
「イラ農」は間違いなくみなさんに読んでもらえたことで、ここまで続いた作品です。
それは精神的な支えという意味はもちろんですが、現実的な金銭面でも大事な支えなのです。cakesの原稿料は記事のPV数に応じて変動します。正直、大きな額ではないので、僕と同じくらいの分量のページ数だと、いわゆる「コストパフォーマンス」はよくないと思います。
それでも、続けていくと、少しずつ記事の数も増えていくので、ちょっとずつですが、月の原稿料も増えていくのです。毎月の原稿料のうち、「どの話にいくら原稿料が発生したか」という内訳がでるのですが、今でも最初の頃の1話も含め、ほとんどの昔の回にもちょっとずつ、原稿料が出ています。これは、今でも誰かが、遡ってまで「イラ農」を読んでくれたという確かな証です。これはみなさんのおかげで続けてきたから得られる喜びです。

たいした特技や思想ももたない、30代の中年のレポ漫画を読み続けてくれて、本当にありがとうございます。
この作品がきっかけでできた縁は数え切れません。この縁を大事に繋げて、その輪を広げ、また新しい作品やSNSを通じて、みなさんと交流ができればと思っております。
乱文、長文に最後までお付き合いいただきましてありがとうございます。

最初から最後まで、感謝の気持ちでいっぱいです。
これからも、僕パウロとその家族をどうぞよろしくお願いします。

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