世界史漫才再構築版20:教皇インノケンティウス3世とフランチェスコ会編
苦:今回はローマ教皇権絶頂期のインノケンティウス3世(在位1198~1216年)です。
微:つまり、没落の始まりとなったわけだ。
苦:嫌みなことを言うな! 本名はロタリオ・デイ・セニ。イタリアの名門貴族の家柄に生まれ、パリ大学で神学を、ボローニャ大学で法律を修めて聖職に就く素地を養いました。
微:私も声優の専門学校出て、それから代々木アニメ学院でセル塗りを覚え、オタクの素地を養いました。
苦:彼はその深い学識と人柄を見こまれ、叔父のクレメンス3世によって1189年に助祭枢機卿に叙任されます。クレメンス3世は皇帝ハインリヒ4世が擁立した教皇です。
微:私はこの濃い知識と外見を見込まれ、タイムマシーン3号と間違えられました。
苦:なんで平行して自分の黒歴史を言うの? 張り合ってどうするんだよ!
微:いや、そろそろここで自己紹介しておこうと。でもさすがにYouTuberコースは止めましたが。
苦:どんだけ情弱だよ! 話を戻しますと、1198年に前任の教皇ケレスティヌス3世が死去すると、枢機卿たちは満場一致で37歳で最年少の助祭枢機卿のロタリオを新教皇に選出しました。
微:満場一致で決まったら全然根比べじゃないじゃん。看板に偽りありだ。
苦:教皇選出選挙をイタリア語で「コンクラーベ」って言うんだよ。比喩じゃねえよ!
微:そうだったのか。でも一般人は知らないぞ。
苦:176代ローマ教皇となったインノケンティウス3世はグレゴリウス7世の改革と教権統治の思想を受け継ぎ、ローマ教皇庁の強化を図りました。
微:ペテロから数えて1000年ちょっとで176代って、教皇は小泉チルドレン並みの人気、いや任期しかないんだな。
苦:それこそ勝手に歴史から消えます。世襲じゃないので交代が速いんです。
微:まあ、暗殺とかもあるしな。
苦:さて、時代背景ですが、インノケンティウス3世が選出される百年少し前、1095年のクレルモン公会議でウルバヌス2世が十字軍派遣を提案し、以来3回の十字軍派遣が行われていました。
微:胸にでっかい十字架付けて中東まで罰として晒し者にされたんだな、素行の悪い貴族たちが。
苦:それは文化大革命で紅衛兵に糾弾された共産党幹部だよ! インノケンティウス3世の提唱で第4回十字軍派遣が決まるんですが、これは最初から資金難に陥る泥舟みたいな遠征でした。
微:カチカチ山だな。その前に背中を火傷してたというか、尻に火が付いてたんだな。
苦:どれくらい行き当たりばったりかというと、ヴェネツィア亡命中のビザンツ皇帝の復位計画に乗って行き先をコンスタンティノープルに変更します。
微:まあ、資金難だったんだろうけど、それでもカラかもしれない手形に乗るか?
苦:さらにスポンサーのヴェネツィアの意向で、商売敵のアドリア海の港湾都市ドヴロヴニークを攻略します。
微:補給のことを全く考えなかった南京虐殺事件の松井岩根が指揮する日本軍と同じだな。
苦:悪質さも同レベルかもしれません。第4回十字軍はギリシア正教会とは言え、同じキリスト教国ビザンツ帝国の首都コンスタンティノープルを占領して、ラテン帝国を建国しました。
微:野球で言うと代打を出して1安打2打点で優秀なんだがな。
苦:激怒した教皇は彼らを破門しますが、ラテン帝国を否定しませんでした。黙認です。
微:「やりすぎんなよ~」の滋賀県大津の教員みたいだな。
苦:破門も結局はうやむやです。まあ、十字軍開始時点で聖なる戦いにおける殺人や破壊は罪としてカウントしないことになってますから。
微:一人殺せば殺人犯だが百人殺せば英雄になるという戦争の根本矛盾。
苦:インノケンティウス3世は神聖ローマ皇帝フィリップの1208年の急死に伴うドイツ国王選挙にも介入します。
微:忙しいやつだな。
苦:そもそも発端は1208年にホーエンシュタウフェン家の皇帝フィリップをヴィッテルスバッハ家のバイエルン宮中伯オットーと謀ってフィリップを暗殺したことです。
微:知らぬ顔の半兵衛以上に厚かましいやつだな。
苦:そしてオットーに肩入れし、1209年にローマで皇帝オットー4世に戴冠します。
微:中世の山根会長「奈良判定」と呼ばれたそうです。
苦:「アジダス」ですか、懐かしいですね。でもオットー4世が約束に反してイタリア南部領を要求すると、即座に破門し、オットーは廃帝となりました。
微:「月に代わってお仕置きよ!!」って叫んだそうです。
苦:お前は太陽を名乗るんだよ!! そして素知らぬ顔で自分が暗殺した前帝フィリップの甥のフリードリヒ2世を帝位に就けました。
微:それでフリードリヒ2世は安全なシチリアのパレルモに宮廷を営んだのか。
苦:関係ないです(きっぱり)。ついでに言っておくと、「少年十字軍」の悲劇が起こったのも、このインノケンティウス3世の時代です。
微:しかし、ドイツ王というか皇帝になりたい人間っていたのか不思議に思えてくるな。
苦:退任後に不幸しかない韓国大統領も選挙で決まるんですから、なりたい人はなりたいんです。
微:でも50年しないうちに「大空位時代」に入るくらい、ドイツ王の力も弱かっただろうなあ。
苦:そうやってドイツをかき回しておきながら、ワルド派、アルビジョワ派の異端対策に努め、1209年にはアルビジョワ十字軍を派遣しました。
微:それはほとんどフランス王ルイ9世の個人プレーじゃないのか? チュニスで戦死までして。
苦:ルイ9世も地中海を領域に編入したかった、むしろレヴァント貿易に参入したかったからでしょうね。しかし、イスラーム世界ではなくヨーロッパ内に十字軍を送った意味は大きいです。
微:なるほど。むしろ、識字率の低い当時は異端かどうかの判定も難しかっただろうしな。
苦:これなくして、ドイツ騎士団の北の十字軍もないでしょう。というか十字軍は侵略を正当化する大義名分、もっと言えば「安全保障上の脅威」みたいな便利な言葉になったんです。
微:しかし社会主義の王道を行く将軍様は資本主義という異教徒の日本にテポドンを発射するのに、なぜ社会主義市場経済という異端の中国には十字軍を派遣しなかったんだ?
苦:微妙な所を突くな! また、後の回でも取り上げますが、第3回十字軍に参加したフランス王フィリップ2世の離婚問題に干渉しました。
微:フィリップ尊厳王にも口出しするのか!
苦:まあ、嫌がらせでしょう。さらにイングランド王ジョンを破門し、臣従を誓わせた後に赦免しました。発端はカンタベリ大司教の任命問題でしたが。
微:でも、イングランド全土を一旦は慰謝料として差し出させたんだろ?
苦:そうです、あくどいです。またジョンもイングランドを軽視していたんで、1215年にイングランド貴族がジョンにマグナ・カルタに署名させます。
微:これも中世の「和解の儀式としての詫び証文」だったんじゃねえのか? ロンドンで保管されずにベリー・セント・エドマンドにあったし。
苦:ですがジョンにマグナ・カルタを拒否するよう圧力をかけてますんで、イングランドでのインノケンティウス3世の評判はジョン王より悪いです。
微:マルコスより評判の悪いイメルダ夫人みたいだな。
苦:どんな譬えだよ! 彼は1216年に亡くなるんですが、直前は頑固耄碌老人だったかも知れません。1215年のラテラン公会議で「教皇は太陽、皇帝は月」と、超上から目線で発言してます。
微:まあ、あれだけ露骨に介入して引っかき回した後の発言と考えると、味わい深いものがある。
苦:日本では馴染みのないインノケンティウス3世ですが、彼の最大の実績はフランチェスコ会の認定かもしれません。
微:ギネスに代行させたんだろ?
苦:世界記録じゃねえよ!! 1210年にアッシジのフランチェスコとドミニクスに面会し、一切の財産を拒否してイエスの清貧を理想とした托鉢修道会の設立を口頭で認可しました。
微:定年延長法案の苦しい言い訳の根拠はこれだったのか!
苦:森まさこがこんなことを知っているわけねえよ!! こうして在俗修道会のフランチェスコ会と、異端審問で名を馳せるドミニコ会が公認です。
微:両方とも極端すぎてコメントというかボケようがないな。
苦:もう勢いでアッシジのフランチェスコに話を移します。
微:本当はネタがなくなったんだろ? 連載漫画なら読者投票で主役変更はあり得るけど。
苦:触れないで欲しかったですが、そうです。アッシジのフランチェスコ(1181~1226年)は、悔悛と神の国を説き、中世イタリアの最も著名な聖人の一人でです。
微:バカ王子トッティもフランチェスコだったよな。
苦:シエナのカタリナと共にイタリアの守護聖人であります。意味は「フランスから来た人」で、それまで人名としては少なかったんです。
微:GHQの占領まで「譲次」「健」がなかったようなもんだな。
苦:アッシジのフランチェスコはイタリア映画の題材になり、1972年の映画『ブラザーサン・シスタームーン』は彼と弟子たちの青春群像的な映画です。
微:途中で後ろ向きのアキラ100%が登場するやつだな。
苦:「一切の富を拒否します」っていう理想を両親の前で示すクライマックスだよ! 織物業を営む裕福な家庭に生まれたフランチェスコは対ペルージャ戦争に意気揚々と参加します。
微:まあ、若い頃は憧れるだよな。
苦:ですが捕虜になり、病気にかかります。1206年頃から回心が始まり、家を出てハンセン病患者に奉仕し始めました。
微:本当はスタン・ハンセンのファンだったそうです。
苦:映画でも再現されてますが、荒れ果てた聖ダミアノ聖堂の修復を行いました。フランチェスコ会則は当時の主流であるベネディクト会則とは異なり、会士は従順・清貧・貞潔に生きました。
微:ううっ、まさに将軍様を除いた北朝鮮の人たちじゃないか。あそこは教団国家だったのか。
苦:コミュニティを基盤に小さな修道会が異端の誕生と拡大の温床となります。多くの信仰覚醒運動が弾圧されますが、フランチェスコ会は例外的に発展しました。
微:巨額の献金が効果を発揮したそうです。
苦:旅行業界と"Go To トラベル"かよ!! しばしば“清貧”が強調されますが、それは後代の再解釈で、彼本人は種々の徳の一つとして清貧を愛したに過ぎません。
微:実は風呂嫌いで、不潔な状態の方が好きだったそうです。
苦:浮浪者かよ!! 財産を否定するあまり、金持ちを全員焼き殺そうとした同時代のドルティーノ派は異端として撲滅されました。理想と狂信は紙一重なのです。
微:郵政民営化が理想で、靖国神社公式参拝が狂信だった小泉を思い出したぜ。
苦:フランチェスコの普遍的精神をよく表しているのは、有名な「太陽の歌」で、そこでは太陽・月・風・水・火・空気・大地を「兄弟姉妹」として主への賛美に参加させています。
微:それが映画のタイトルの由来だな。
苦:彼は自然を人間が利用すべきものと理解するキリスト教徒には珍しいほど自然と一体化した聖人として国や教派を超えて世界中の人から愛されています。
微:小鳥相手に説教もしてるしな。今の日本にフランチェスコが現れたら、間違いなく通報だな。自作詩集を公園で売ってるオジサンとか、犬としか会話できないネエチャンとかと紙一重だよな。
苦:なお、フランチェスコ会は男子修道者の会である第1会(フランチェスコ会)、女子修道者の第2会(クララ会)、在俗者の第3会(在世会など)に分類されます。
微:第14会で破滅する予定だったそうです。
苦:エヴァはもういいよ!! さらにこれらもそれぞれが複数の会に分かれます。1223年の認可から20年ほどで、ドミニコ会に倣った各管区に大幅な裁量を認める分権的な組織が採用されたためです。
微:怒られるかもしれないけど、クララ会って、足の不自由な女子の団体みたいだな。
苦:アニメの見過ぎです。フランチェスコ会の活動の中心は説教活動でしたが、異端との対決から神学的知識が必要とされ、会では書物の収集も行われました。
微:と言いつつ、古代ギリシアの文献はアラビア語からのラテン語訳だからな。異教には目をつむるが、異端という少しずれた仲間には厳しいという変な関係。
苦:教皇庁も異端撲滅への貢献を同会に期待しており、ドミニコ会同様に次第に聖書研究や神学教育が盛んになり、会士の中には神学を超えた領域の学問まで修める者もいました。
微:ロジャー=ベーコン路線だな。
苦:おお、久々のタメになる返し! しかし神学研究がアリストテレス哲学のカテゴリー論に及ぶと「原罪」の観念が否定されてしまいますし、「笑い」をまじめに扱うと威厳ある教会が動揺します。
微:オレたちは「世界史業界の異端」と呼ばれているが、そういうことだったのか!
苦:色物だよ。一度異端審問で死にかけた学求派のフランチェスコ会士を主人公にし、中世における信仰と理性の相克を描いたのが、さっきのウンベルト=エーコ原作『薔薇の名前』です。
微:ああ、完読率5%と言われた2巻本だな。
苦:出てくる人名、地名の含意を理解するのには莫大な知識が必要です。
微:バスカヴィルくらいは、すぐ分かるけどな。
苦:理解できる人は、知に淫するグノーシス主義という名の異端と紙一重になる、という重層的な構造の小説です。しかも骨格は『アラビアンナイト』の中の話。さすが記号論の人。
微:そういう話は箱根の寄せ木細工起源のロシアのマトリョーシカを置いてやってくれ。
苦:余計に混乱するだけだよ!(ペシッ!!)