世界史漫才再構築版42:中世・近世と市民革命
微苦:ども、微苦笑問題です。
苦:ここいらで、教科書に出てくる「市民革命」というものについて考えたいと思います。
微:市民にも芦屋市民から尼崎市民まで色々いるからな。
苦:それはほぼ住民です。中学校、あるいは高校でも公民では名誉革命、アメリカ独立革命、フランス革命を「市民革命」「ブルジョワ革命」と括っています。
微:イギリスが約100年ほど早いんで、「先進国の典型」みたいに説明する不勉強な先生が21世紀にもいるもんな。
苦:大塚史学の亡霊は、まだ駆除されていないんですね。歴史は国ごとのセパレートコースでの競争ではなく、どれも「グローバル・ヒストリー」の要素があります。
微:ピンハネというか収奪、パクリ、罵り合いまで含めて関係史・構造史だからな。
苦:ここで使われる「市民」というのが、本当に誤解を招きやすいんです。
微:今の日本では「プロ市民」という拡張用法まであるしな。
苦:まず政治的活動に参加できるだけの時間的・金銭的余裕があり、かつ政治的意見や問題意識を持ち、議論をすることができる能動的教養層です。
微:まさにプロ市民じゃねえか!
苦:あるべき姿です!! ヨーロッパでは「市民」は中世以来の自治都市の正式メンバーという含意があるんですが、都市を「町」と表記してきた江戸時代を経験した日本ではしっくりこない。
微:端的には戦国時代の博多、堺などの自治都市が該当するんだろうけど。
苦:その両者も戦国大名権力に屈服してしまいましたから。西欧のブルジョワジーにほぼ合致する実際に使用された適語がないんですね。
微:しかも江戸や大坂でも負担を回避するために大商人は都市に家を所有しない。
苦:そうです。幕府や奉行所は、町人に自治というか行政費用を負担させようとするんですが、逃げるんですね。
微:それでどの時代劇でも江戸町奉行の裁判では同じおっさんが立会人として登場しているのか。
苦:意味が違うよ!! それにそんなミクロなところに注目している視聴者はいないし! ただ京都の町衆は「祇園祭縛り」があるので土地も店を所有しますが。
微:もう特権というより罰ゲームに近いな、近世日本の場合。
苦:さっきヨーロッパの中世都市に言及しましたが、その自治権もあくまで特権なんですね。
微:なので一覧表というか、しんのすけの「ママとのお約束帳」のように列挙する必要があると。
苦:ただし、その自治の担い手となるには職人や製造業者には苦しいんですね。中世の都市自治を思い出してください。
微:ああ、ドイツの手工業者の親方たちが怒ったツンデレ闘争だな。
苦:予想してましたが、ツンフト闘争です。仕入れから仕込み、販売、清掃まで肉体労働が中心の手工業者には識字は無用というか、読み書きを勉強する暇がありません。
微:確かに。仕事のマニュアルすらないもんな。「見て覚えろ!」で終わり。
苦:だから読み書きができ、自治都市が発行する法令や布告を起草して管理でき、帳簿からお金の流れを読み取れ、かつ暇のある有力商人たちが都市自治を独占するのは自然な流れでした。
微:堺や博多は典型的だな。向こうではレヴァント貿易のイタリア都市が典型的だけど。
苦:時代のズレはあるんですが、日本とヨーロッパの都市の歩みはパラレルなんですね。
微:確かにイタリアとくればアパレルだな。
苦:無理してボケなくていいよ。ドイツの自治都市同盟=ハンザ同盟がありました。バルト海交易はイタリアに比べれば利益が少なかったですが、今も連邦議会選挙区「ハンザ枠」に残っています。
微:中世以来の特権が21世紀にも残っているとは、ドイツの自治都市恐るべし!
苦:その自治を変な形で持続可能なものにしたのが同職ギルドです。親方たちは大学法学部卒業生たちを役人としてお金を出し合って雇い、商人による政治独占を打破し、行政水準を保ったわけです。
微:出前まで代行させていたそうです。
苦:出前館じゃねえよ!! そうして自治業務を代行する組織と専用の建物までできます。
微:市役所の起源だな。それで"city hall"なのか。
苦:話を戻すと、貴族や聖職者以外の「都市・州代表」「第三身分」と呼ばれた階層が納税額に応じた政治的権利を求めたのが市民革命というかブルジョワ革命です。
微:中世都市に置き換えると、イタリアで都市共和政を実現しようとしたのと同型だと。
苦:中世ヨーロッパでは、帝国議会、三部会、イギリスの上院・下院などの身分制議会が設置され、例えば貴族でしたら貴族の利害はそこで調整され、身分を超えた対立は議会で解決されました。
微:京都市仏教会みたいなもんか。
苦:それは同業者団体です、信仰という外観は持っていますが、日本遊戯協会のようなもんです。
微:ああ、パチンコ店の業界団体と同じレベルね。
苦:自治権を持つということは、独自の慣習法に服すあるいは法を制定し、事件を裁定し、刑を執行できるということです。それと自分たちが作った法に進んで従える主体(subject)が不可欠です。
微:「村八分」に名残を残す「地下検断」をやっていた、つまり死刑の執行までやった惣村だな。
苦:逆に言うと、国内の住民が等しく服する一般法は近世国家には存在しませんでした。その意味で身分制議会は自治権をもつ「中間団体」でしたので、西欧も「社団国家」でした。
微:日本は業界の社団法人は経団連を筆頭に主権者以上に影響力を持っているぞ。
苦:戦時中の経済統制の名残が異常進化しましたね。話を戻すと、自治権を持つ団体があるということは、「国民意識」は存在しない、質の異なる社団が固まった「礫岩国家」だったことになります。
微:今の日本も上級国民と非正規労働者の身分制、各種業界団体の「礫岩国家」だな。
苦:中世に戻すと、中世の農民は封建法と慣習法に服したと表現されますが、これは領主の恣意と過去の合意に従ったということですが、慣習法は違った側面を持っていました。
微:文章化されていないから暗唱した人間が死ぬと消えるという問題か?
苦:違います。M.ブロックの指摘が有名ですが、慣習法は歪んだ鏡で、時代に合わせて変化していきました。F.ケルンも「古き良き法を発見する」形で新しい法を創造をしていたと指摘しています。
微:伝統は必ずしも過去の忠実な反復ではないと。
苦:失われた古き良き法を発見・復活するという形式こそ、社会契約論の骨法です。
微:全く新しいことだと不可能な感じがするけど、「昔もあったのならできるか」誘導。
苦:慢性的な戦争状態にあると直接民主政も盟約団体国家スイスのように可能ですがね。
微:しかし、フランス革命の初期はそこまで求めていなかったよな。
苦:人口・国土のサイズからして不可能です。本来は貴族などの特権であったものが次第に下の身分・階層、つまりブルジョワが代弁する平民に拡大していくことが民主化の基本路線です。
微:戦後日本の高校や大学進学で考えるとわかりやすい。オチも同じな感じ。
苦:当然ながら公民は男性に限られる訳です。政治的権利を持つにふさわしい財産を持ち、使用人を監督・保護して家政を成り立たせ、財産あるいは年収に見合う税金を納めている。
微:Go To キャンペーンに使われたら怒りたくもなるわな。
苦:工場経営者は帳簿を書き、理解できなければならないので能動的市民ですが、政治活動をする時間的余裕があるとは言えません。会社経営者、投資家、年金生活者なら時間的余裕はあります。
微:そう言ってもらうと、イギリスに教養市民層が多かった理由もわかるし、産業革命以後も産業資本家が政治的圧力を持ち得ても政治的影響力が持てなかったのも説明できるな。
苦:話が先に行きすぎですが、そのイギリス絶対王政と言えども、中間団体に介入することは内乱を誘発するだけなので、行政や増税のためには協力を求める対象でした。
微:マグナ・カルタ以来そういうものだ、ということになったもんな。
苦:革命前のフランスは「社団国家」と表現されますが、国家は近代の歴史的産物であり、それ以前にはわれわれがイメージする国家は存在しませんでした。オランダが近いところまで行きましたが。
微:オラニエ家が事実上の君主になったもんな。途中でイングランド王も兼任して。
苦:絶対主義フランスも、多様な自治的組織を持つ多種多様な人間集団=社団の複合体として成立し、国王権力=中央政府機構はこれら社団に特権を付与することで階層秩序を維持していました。
微:「絶対」も「縛られたくない」という願いだったしな。希望があれば縛るけど、オレ。
苦:日本の幕藩体制、「アンシャン・レジーム」と否定されたフランス絶対王政も典型的な社団国家です。逆に革命干渉戦争がなければフランス革命も国民国家化も分解していた可能性もあります。
微:江戸時代の日本は、参勤交代が三部会の代わりだったようなもんか。
苦:日本の幕藩体制も公家・寺社・武家という権門を前提に圧倒的軍事力を持つ幕府が御武威で外様大名を従わせていましたが、各藩は行政機構であると同時に独自の軍事機構を持っていました。
微:そうでなければ薩長連合軍もあり得ない。
苦:幕府による藩の内政への干渉権も大幅に制限されていたというか、自浄能力に期待していました。それは朝廷も、将軍家も同じで、誰も排他的支配権=主権を持っていませんでした。
微:でなければ「主君押し込め」や「慶喜を将軍にしよう運動」もあり得ない。
苦:幕府や大名領国の領主権力も惣村や町人の団体=町に身分特権と自治権を付与して民政を行い、また農村も町も幕府の命令という外部を持たないと自治を貫徹できませんでした。
微:システムは外部がないと内部を統一できないというか、内部が確定しないようなもんか。
苦:「いかなる排他的な主権者も見出せない社団国家に統一権力=主権を生み出す運動」を「革命」と定義し、その後革命権力を誰が握るかは別の問題としてはどうか、というのが今回の話の目的です。
微:これならピューリタン革命は確かに「革命」だな。
苦:暴走して君主制を廃止し、娯楽も弾圧するまで暴走するんですが、主役にブルジョワらしき存在はいません。そのためイギリスでは「内乱」扱いです。
微:まあ、クロムウェルという強烈なキャラクターがいたけど。
苦:ただ、内乱の進展の中で土地の均等配分や地主根絶を主張するディッガーズ(真正水平派)まで登場して過激化しました。ですが、ロンドンの貿易商と結んだ独立派の独裁になります。
微:呼ばれてもないのにイキりたつ連中はどんどん出てくるよな、日本各地の「草莽の志士」とか。
苦:新しい主権を構成する超法規的機関を期間限定でも生み出す必要があります。それを「革命権力」と名付けるなら、明治維新も「革命」なんですが、金貸しや商人はいてもブルジョワがいない。
微:日本は逆に育成したよな。内務省や払い下げを通して。
苦:名誉革命に到ると、これはもう議会がジェームズ2世を追放したことが重要視されていますが、オランダに軍事制圧されたことの方が大事です。これも憲法というか国制を超越した権力です。
微:いや、イギリスは外部に征服されて統一権力ができると考えた方がいいぞ。
苦:それでもスコットランドとは同君連合にオランダも加わったようなもんです。国制的には議会の既得権が「権利章典」で確認されたことですが、ある意味これも社団と国王との誓約でしょう。
微:確かにブルジョワ革命とは言いにくい。
苦:名誉革命が「保守的」革命と呼ばれる所以です。ここで明治維新に影響を与えた思想家、指導者は欧米の議会政治に儒学的理想を見出した話も思い出してください。
微:革命は復古の衣服を纏って遂行される、と。つまりコスプレだな。
苦:刀剣乱舞かよ!! 民衆が自らの意志で蜂起し、革命に参加することが市民革命の本質的部分ではありません。というか、貧民の参加した大衆暴動を伴う市民革命はフランス革命くらいです。
微:日本なら「一揆」や「打ち壊し」だもんな。中国の農民反乱はすごいけどな。
苦:ですから「ブルジョワ革命が国民国家を生み出す契機となる」ことはありますが、逆の「国民国家になるにはブルジョワ革命を経由しなければならない」は間違いです。特殊ケースでしょう。
微:日清戦争、日露戦争つまり外敵を想定することで日本も攻撃的だが国民国家になったもんな。
苦:当然、それはアイヌ民族、朝鮮半島や台湾出身者を二級国民として扱う差別とセットでした。その証拠とされたのが標準語を操れるかどうかだったという話も悲しいです。
微:フランスの中央集権的な教育体系が手本だもんな。
苦:アメリカ独立革命の指導者はワシントンに代表されるようにイギリス系タバコ・プランターたちで生活水準も教育水準も高かった。その下で小作人だったアイルランド系はどうだったのか。
微:いや、アメリカはそもそも特殊でしょ。あれだけ人権と人種に拘る国は珍しい。
苦:そもそもが「同意していない増税には協力しない運動」から始まり、ロックの理論を逆手に取ったのがアメリカ独立です。しかも独立後も先住民と黒人奴隷は人間扱いされませんでしたしね。
微:今でも隠微な形で分離居住とそれを悪用した投票権制限の動きも強い。
苦:「選ばれたクラブの会員」特権みたいなもんです、基本的人権も極論すれば。ただ、その後にクラブ会員を普通の人にも広げていったかどうかが問題です。
微:それを考えると、アメリカ建国の父たちは賢いな。憲法を制定・明文化し、大統領選挙の度に社会契約を更新し、與論の暴走もバカ大統領当選も想定した連邦国家設計ができている。
苦:そのアメリカも不都合なことをウソとして処理する與論の暴走に苦しんでいます。これも科学的そして政治的教養の有無という問題の大きさを気づかせてくれました。
微:いや、そんな連中でも生きていけることの方が凄いぞ。
苦:いえ、そんな奴が大統領にまで登り詰めたことの方が凄いんですよ。
微:ロシア革命はどうなんだ? フランス革命の一般意志の極限でもある。
苦:非合法路線を貫いた点は見事ですね。でもナポレオン以上に危険な指導者を生み出した。
微:レーニンに次いでスターリンだもんな。
苦:まあ、ブルジョワジー層が薄かった上に、命の値段が安い国でしたし。それとスターリン憲法が教えてくれますが、憲法ですら手段でしかない。憲法制定権力こそが革命の本質です。
微:逆にブルジョワを無視できるくらい貧しい国だったから、やりたい放題できたとも言える。
苦:労働者でさえ失う物がある豊かな国では革命は無理だし、誰も協力しないんです。
微:不文憲法で21世紀に対応するイギリスの知恵に学ぶべきだな、自民党も。
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