小豆餅80's - 猫ミーム
息子が猫ミーム(定番動画ネタみたなやつ)にハマっている。InstaやYoutubeのショートで流れてくる可愛かったり可笑しな猫たちの動画を見て、腐った公共教育からの現実逃避をしている。
80年代の小豆餅、私たちの家は借家で、大気汚染で煤けた空にマッチしたような茶色い建物だった。当然猫は飼ってはいけないんだと思うが、3人兄弟だった私たちは、理由は忘れたがきっと現代と同じように腐った公共教育からの現実逃避を求めていたんだろう、猫ミームではなく生きた猫ちゃんを実際に家で飼いたいと心から願っていた。
その頃、猫が飼いたい場合、大抵の子供たちはまず外に出て、歩いている野良猫を適当に見繕って家に連れて帰るところから始めていた。小さかった弟と妹たちもそれに漏れず、小豆餅の家から50メートル四方をホッツら歩いていた猫をとりあえず家に連れて帰ってきた。
黄土色の所謂ドラ猫を弟か妹が抱きしめて、玄関からただいましてきた日を今でも覚えている。家に初めて猫がやってきたあの夕方だ。ドラ猫は結構デカかった。立派に成長し切った猫で、外で遊んでいた時は可愛く見えたが、一歩玄関に入ると異様に大きく感じた。そして、ドラ猫の野太い声に恐怖さえ覚えた。猫ミームのようなミューウという可愛い声ではない。ギューやビューみたいな喉の奥から聞こえる媚びていない野生の鳴き声だ。人間で言うと酒焼けしたヤクザみたいな声。
そして何より臭かった。家中がウンチの臭いで充満してしまって、お母さんが作りかけていた夕食の匂いと混ざって、というかそれを上書きするような悪臭だった。弟は明日からの猫ライフを夢見て、ドラ猫をお風呂で洗おうとした。でも嫌がって洗えなかったと思う。
お母さんに言われて夕飯前には外に出すことになった。「バイバイまたねー」と言いながら、ドラ猫はダミ声でゆっくりと歩きながら、特にやることがなさそうにして、家からゆっくりと去ろうとしていた。その時弟が、やはり猫ライフが諦めきれずに追いかけて、自分の体ほどの猫を抱きしめて、再度家の中に連れて行くと言い張り、家に入ろうとした。ダラーんと伸びたドラ猫、弟の姿、心配するお母さん、そして暗くなりかけた夕方の光、いまでも忘れられない。
そしてその直後、猫は弟の体に掛かる勢いで思いっきり大量のウンチを漏らした。僕たちは猫を飼うのを諦めた。猫ミームの猫を愛でる息子を見て、その夕方を思い出す時、どこかからあの臭いがかすかに漂うような気がしてくる。
(その後無事25年も生きる黒猫のミスティを飼いました。)