人怖の覚書 地元浜松の心霊スポットにて
40後半の私が、他に観るものも特になく、心霊スポット動画をYoutubeで観ることにハマり始めたのは、コロナも終息に近づいた頃だった。毎晩寝る前に色々な心霊スポット探索の動画を観ていたが、怖かったのは最初の二ヶ月くらいで、その後は慣れてしまい怖くも無くなっていた。そんな時、ふと地元に帰る用事があり、浜松市を訪れた。地元の夜、特にやることもなく、酒を飲むにもタクシーで帰らなければ行けないし金がかかる。そこで私は思い立って、子供の時に有名だったラブホテル廃墟の心霊スポットを思い出して、そこに23時過ぎ、車を走らせて赴くこととなった。Youtuberの真似事だ。
浜松市の某坂の途中にあるラブホテル廃墟は、今でもそこにあった。かなり老朽化はしているものの、逆に雰囲気が凄まじいもので、気分は高揚した。私は一人だった。年齢も重ねて、心霊動画も飽きがくるほど観ている私は、怖さというよりも興奮でドキドキしながら、ラブホテルの探索を始めた。
二階建てのラブホテルは、車を止めて階段を上がっていくと部屋があるタイプのモーテルのような作りだった。私は101号室から順番に探索を始めた。心霊スポット巡りの若者がいるのか、どこのドアもこじ開けられていて、自由に入って探索することが可能だった。LEDの強力な光で照らされるラブホテルの部屋は、やはり念が残っているような、そんな感覚で徐々に一人で歩く私の足取りも重くなっていった。
5、6部屋を回った後、同じような間取りの部屋にも飽きてきて、管理人室を探すことにした。少し離れた離れにそれはあり、すぐに見つかった。そこで少し変なことが起きた。管理人室の中から、何かが壁を叩くような音が聞こえた。それも一度ではない、ドンドン、ドンドンと、少し意思を感じるような叩き方だった。一人でいた私もいよいよ怖くなってきた。しかし、幽霊がいても最悪びっくりするだけだろうと思い、そのまま進んでいって、管理人室に乗り込むことにした。
ドアの前に立つと気配がすごい。ドアを開ける瞬間も、誰かの生活空間に入る時に感じるような、テリトリーを侵す罪悪感のようなものを感じた。少しドアを開けて、中の音を聞いてみる。しかし、その際は先ほどのような音はせず、シーンと静まり返っていた。
中に入ると、人間の臭いがした。少しホームレスのような、糞尿が体についている人のような臭気が漂っていた。まさか、これは世捨て人でも住んでいたのかな?人怖とか一番怖いな、と思った。しかし、なぜか怖さというよりも懐かしさを感じて、部屋を隅までみたいと思い、進んで行った。
ドアを閉めて、管理人室の中を探索していると、奥の方に仮眠室のような狭い空間があった。そこに生きている人間の気配を感じた。これはいる。。。そう思った。一体、こんな廃墟に、どんな顔したやつが住み着いているんだろう。いたずら心を感じて、私は何かあったら逃げればなんとかなると思い、意を決して仮眠室に飛び込んで、そいつを確かめてやろうとした。
仮眠室に走り込む私。LEDで中を照らす。そしてそこにうずくまって、何かを食べているような男と目が合った。これは書くのもおぞましいのだが、なんとそこにいる男は「私」だった。
声を出すこともできずに、夢を観ているような感覚で、私はその部屋を出て、廃墟を後にして車に戻った。そしてそれを誰にもいうことが出来ずに、通常の生活に戻っていく私であった。初めてここにそれを記す。あれは一体なんだったのであろう。