（心霊）霊が治した隙っ歯（スキッパ）

今年の夏休み、私は故郷の浜松に帰っていた。その時に69になる母に起きた怪現象である。

母の歯は覚えている限り隙っ歯だった。上の前歯2本が結構開いていて、あまり見栄えが良いものではないなと私は気づくたびに思っていた。息子の私の前歯には隙間は無いが、孫に遺伝しないか、実はちょっと心配だった。

今回ブランチでバタートーストを食べながら団欒中にふと歯の話になり、母はそんなすきっ歯が今年何も治療や矯正していないのに、勝手に治ったというのだ。実際に前歯を見てみると、きれいに隙間が塞がっていた。

その時、とても驚いた私は、ある出来事を思い出していた。2年ほど前に母のお姉さん（私のおばさん）が亡くなったのだが、そのおばさんが亡くなる少し前に老齢には珍しい矯正をして、歯並びを治したという話だ。若い頃から歯並びを治したくて、結局子育てに揉まれて、やっと矯正をやる気になったのは老齢になったからだった。でも亡くなる前に歯を治したくてやったという話は、なんとなく良い話で私の記憶に強めに残っていた。そのおばさんはとても妹想いで、私の母にも矯正を勧めていたようだった。

「もしかして死んだおばさんが霊力でお母さんの隙っ歯を治してくれたんじゃない？」
私は母にそう言った。
「そんなわけないじゃん。でもなんで治ったんだろうね。」
母は私の話に取り合うまでもなく、塞がった歯でバタートーストを噛みちぎった。

矯正もしないのに歯並びが大きく改善するなんて、しかも老齢の隙っ歯が塞がるなんて。陰ながら私は、亡くなったおばさんに感謝している。