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地獄の黙示録/ウィラード大尉のローストビーフ

死ぬ前に一度絶対に映画館で観なくてはならない映画、それは『地獄の黙示録』。修行と思って3年に1度は必ず見るべし。

 ベトナム戦争まっただ中の1969年。ウィラード大尉はカンボジア国境の奥地で謎の帝国を勝手に築き上げたカーツ大佐を暗殺せよとの密命を帯び、4人の部下とともにヌン川を哨戒艇で遡っていく……。

 フランシス・フォード・コッポラの超絶大傑作。死んだあと映画の天国に入れてもらいたかったら絶対に見ておかねばならない映画の一つ。
 最初の1秒から最後までずーっと緊張しっぱなし。画面が狂気でピーンと張りつめられてます。最後終わるとどーっと疲れ果てる。だけどなんか自分に映画ポイントが貯まった気がになれる。まるで修行か苦行のような映画体験ができます。
 俳優たちも酒とドラッグでイきながら演じてたそうですが、一番狂ってるのは監督のコッポラだったでしょう。劇場公開版・ディレクターズカット版・最終版などやたらバージョンがありますが、私はディレクターズカット版がいいような気がします。
 映画館で最終版を見たとき、開始前は3時間超もあるから途中でトイレ行きたくなったらどうしようなどと思ってましたが、始まったらトイレのことなんんか一度も考えませんでした。絶対に死ぬ前に1度見るべきです。できれば映画館で。

【好き食べ物】
・指令室? でお偉方と食べるローストビーフのランチ。

 最初、ウィラード大尉が指令を受けるシーンで、お偉方が用意してたローストビーフのランチ。ベトナムの蒸し暑い空気の中、狭苦しい士官室のテーブルにいかにもアメリカンなローストビーフメインのごちそうが並んでるのですよね。オーブンでグリルしたっていうより細長い鍋で蒸し焼きにした感じのローストビーフ、付け合わせはグリーンピースとポテトと人参。前菜にエビのカクテルっていうんでしょうか、なんかゆでた感じのエビ。あとパンとビール。
 このシーン、なんであるんでしょうね? 指令を渡すだけなのだからわざわざごはんを食べるシーンを加える必要はないのに。非公式の指令だから「内輪の会話」感を出したかったのだろうか。

・フランス人入植者の家で食べる何かのフランス料理。
 これは劇場公開版には入ってないのですが、橋を越えたあと、忽然と現れるフランス人入植者の家とフランス人たちのシーンがあります。ここで、フレンチのシェフ志望である部下“シェフ”が、だからフランス語を理解できる、っていう伏線?を回収してます。家に招かれて食べるシーン、ベトナム人の召使いが持ってる大皿はどうもシーフード山盛りに見える。ブイヤベースか? でもこんなジャングルの奥地では無理だよなあ。ちょっとわからないけどおいしそうなのでした。

【好き登場人物】
・ウィラード大尉
 
マーティン・シーン、超かっこいい!! この役、もとはスティーブ・マックイーンとかハーヴェイ・カイテルがやる予定だったそうですが、絶対マーティン・シーンがいい! この童顔で背が低くて全然マッチョじゃない彼が実はクレバーで冷徹な軍人っていうのがそもそもいし、その優しいぼっちゃんハンサム顔な彼がどんどん狂気に陥っていって、最後にあのでっかい化け物みたいなマーロン・ブランドを鉈でぶった切るっていうのがまたいいんですよ! 髪型が軍人軍人したクルーカットじゃなくて坊ちゃんがりっぽいのがまたいいんだ。いや、このマーティン・シーンは最高にかっこい。絶対いい。歳とってアンドリュー・ガーフィールド版スパイダーマンにベン伯父さんで出てきたときは嬉しかったけど、やっぱりこの人はウィラード大尉だっ!

【好きシーン】
・冒頭のヘリでの襲撃シーン
 やっぱりこれはあげておかねばなりませんね。若く気合の入ったロバート・デュバル扮するキルゴア中佐が指揮するヘリ部隊のあのシーン。朝日を背景に何機ものヘリがあのドッドッドッというトラウマになりそうな爆音を響かせ、ワルキューレの騎行とともにやってくるあのシーン。すさまじく美しく狂ったシーンです。映画好きな人は全員見なくちゃだめだと断言します。

・プレイメイトたちの舞台 

突然川沿いに現れる舞台も幻想的でいいし、色白で完璧なスタイルのプレイメイトたちもそのダンス?もかっこいい。流れてるCCRのスージー・キューもかっこいい。名カメラマン・ヴィットリオ・ストラーロの撮るそれはそれは美しい夢のような画面にうっとりです。

【ファッション】
・プレイメイトの衣装
 特にカウガール風の子がいい。白いブーツに水色の衣装。白いブーツをはいた女の子はどうしてあんなにかわいく見えるんでしょうね?

【セリフ】
 例のキルゴア中佐が言う名台詞「朝のナパームの香りは最高だ(I love the smell of napalm in the morning.)」はサイコーです。このセリフ、『最高の人生の見つけ方』で、ジャック・ニコルソンがセリフで「I love the smell of chemo in the morning.(朝の抗がん剤の香りは最高だ)」ってパロディにしてます。

【本とか文化とか】
 原作…というか元ネタのひとつというか、にしているジョゼフ・コンラッドの『闇の奥』。さっさと読める薄さが魅力です。
地獄の黙示録はここから「川をさかのぼってカーツ(クルツ)という狂人を探しに行く」というところをいただいてます。あと、主役が人間はどんなに狂えるかという“闇”を見るというところも。

【音楽】
 音楽が最高の最高。いっちばん最初のあのドッドッドッドッというかウィンウィンウィンウィンというか、文字にしづらいのですがあの音がもう最高。それはやがてヘリの音や天井のファンの音になるのですが、この音がもう悪魔の呪文のように耳について離れません。
 なんかちょっとあれっ?という感じがたまにしなくもないシンセサイザーのBGMが、なんとなく『オネアミスの翼』の坂本龍一っぽいなと思っていたら、冨田勲の影響があるそうです。

 もちろん、ワルキューレの騎行も本当に素晴らしい。人類はこれを聞くたびにもう地獄の黙示録しか思い出せなくなっちゃいましたね。

【俳優】
ローレンス・フィッシュバーン

 ウィラード大尉の部下、17、8歳の小生意気なアフリカ系兵士があのローレンス・フィッシュバーンです。当時14歳ですって!すごいやせっぽち。言われなきゃわからない。言われるとそうえいば、というあの顔をしています。口もとがローレンス・フィッシュバーン。

【つながりありそう映画】
『ジェイコブズ・ラダー

 ジャケットが恐ろしいトラウマ映画。ベトナム戦争の永遠に冷めない悪夢の映画。傑作というわけではないですがトラウマ度は本当に高いです。見た後1週間くらいイヤーな感じをひきずりました。

『ブルース・ブラザーズ』

あの“ワルキューレの騎行”を、『地獄の黙示録』のあとに恐れ気もなく使ってまあまあ?成功しているというすごい映画。本編も楽しいです。これも観ておくと映画の天国に入るとき役にたちそう。



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