僕たちの失敗
あなたは、タイムマシンがあったら何をしますか?
過去に戻って、あの日の出来事をやり直しますか?
未来へ行って、科学の進歩を目に焼き付けますか?
僕がタイムマシンを手にしたなら、、、
幼い頃の自分に、ムシキングを辞めさせます。
辞めてもらいます。
ムシキングとは。
SEGAが開発した、カブトムシ・クワガタを戦わせるアーケードカードゲーム。ジャンケンを元にしたルールになっており、当時の5〜10歳の男子に爆発的な人気を博した。
それが、「甲虫王者ムシキング」である。
当時4〜5歳だった僕も例に漏れず、
ムシキングに熱中しました。
家の近くの本屋さんに、ムシキングの筐体が置いてあって、本も買わずに虫を戦わせていました。
友達との会話もムシキングの話題が中心で、
強さ200の「ヘラクレスリッキーブルー」を持っていた友人は英雄扱いだったことを覚えています。
あの時、僕たちの生活の中心にいたのは、
間違いなくムシキングでした。
ただ、そんなムシキング一色の青春の日々は、
今思い返してみると、
失敗という他ありません。
何故か。
冷静になって考えてみてください。
当時、女子たちが夢中になっていたのは、
間違いなく、
ラブandベリーです。
ラブandベリーとは。
これまたSEGAが開発した、ファッションを題材にしたアーケードカードゲーム。ラブとベリーという2人の魔女(途中からミーシャみたいな人もいた)を、TPOに合わせてコーディネートするゲームで、その人気っぷりは社会現象にもなったほど。
それが、「オシャレ魔女❤︎ラブandベリー」である。
そう。
幼稚園の多感な時期から、
女子はこの、ラブandベリーをやっていたのです。
このゲーム、ファッションアイテムがカードになっていて、ゲームのためにカード集めれば集めるほど、ファッションへの知識が深まっていきます。
ゲームの性質上、指定された色とステージに合わせてコーディネートを組み立てるので、TPOに合わせたファッションを考えるきっかけにもなります。
ゲーム内のファッションアイテムのデザインもしっかりしており、なんと服飾関係の専門学生向けにコンペを開き、採用したデザインもあるとか。
こうして、女子たちは、
大人になってからも活きる「ファッション」という分野に、小さい頃から触れてきたのです。
一方その頃、僕たちは、
虫のジャンケンをしてました。
なんて残酷なことでしょう。
こんなの大人になってどう活かしたら良いんだよ。
オオゴンオニクワガタやニジイロクワガタは
ギリファッションに活かせますか?
てか「甲虫王者」だったのかよ。
ずっと「昆虫王者」だと思ってたわ。
かたや、ラブandベリーというゲーム。
音ゲーの要素もあります。
カードを用いてコーディネートをまとめた後は、
その時々のステージBGMにあわせてタンバリンを叩き、高得点を目指します。
「ストリートコート」のように、アップテンポの曲が流れるステージもあれば、「舞踏会」のように優雅な曲が流れるステージも。
こうして、女子は、
様々なBGMに合わせタンバリンを叩くことによって
「リズム感」を養いました。
一方その頃、僕たちは、
虫のジャンケンをしてました。
目を覆いたくなる事実です。
これで何を養えと。
ジャンケンの強さでしょうか。
相手のアダー博士は、
「ここで必殺技だ!」
みたいな感じで、こちらが聞きたくなくても
出す手をバラしてくるのに?
ちなみにステージは「森」固定です。
僕たちも「ファッションストリート」や
「ディスコ」で戦いたかった。
てか、クワガタの必殺技はみんなチョキ固定で良いだろ。
かたや、ラブandベリーというゲーム、
道徳的感性にも好影響を与えます。
ゲーム中に流れるBGMの歌詞が素敵なものばかりなのです。
うろ覚えですが、たしかどこかのステージの曲には
「大切なのは 見た目じゃなくて中身」
という一節があったような気がします。
このゲームの重要なキーワードである「見た目」を否定してまで、人間の本質は心である、と、
このゲームは説いているのです。
こうして、女子は、
素晴らしい人間性までもを身につけていきました。
一方その頃、僕たちは、
虫のジャンケンをしていました。
誠に遺憾でございます。
ゲーム中に流れていたBGM、
たしか虫の鳴き声とかでした。
ストイック過ぎるだろ。
あとは、シャキーンとかバコーンとかいう、
頭の悪そうな効果音。
男子向け過ぎるだろ。
このように、
当時の男子と女子が送ってきた青春には、
大人になって残るものが圧倒的に異なるのです。
そりゃ今になって考えてみれば、
中学校に入った時、
男子よりも女子の方がどこか大人びているのも、
男子よりも女子の方が絵が上手いのも、
男子よりも女子の方が合唱が得意なのも、
男子よりも女子の方が板書が綺麗なのも、
全部分かるような気がします。
男子がムシキングによって享受できるメリットは、
Kiroroに早いうちから触れることが出来るくらいです。(結構デカいが)
だから、もしタイムマシンがあれば、
ムシキングを辞めさせるために、
過去に向かっていると思います。
でも、タイムマシンなんかないから。
せめて、手紙を書くことにしました。
拝啓、5の君へ
元気か?
お前に言いたいことがあるぞ。
虫のジャンケンやめろ。
きっと後悔することになる。
だから虫のジャンケンやめろ。
大切にしている、「スーパーカワセミハッグ」のカードは捨てなさい。
お前がそうこうしている間にも、
同い年の女子は「マジカルタイムプラス」で時間の大切さを学んでいるぞ。
「恐竜キング」に鞍替えしても無駄だぞ。
あれは、爬虫類のジャンケンだ。
結局、同じ末路を辿るんだぞ。
頼んだぞ、お兄さんとの約束だぞ。
あとお前、
色鉛筆で人形ごっこみたいに遊ぶのやめろ。
友達が引いてるぞ。
休み時間に花壇の壁面のコンクリ部分がひんやりしてるからといって、そこで昼寝するのやめろ。
先生が引いてるぞ。
模様として好きだからって、自由帳にトーナメント表ばっか書くのもやめろ。
親が引いてるぞ。
もしそれらをやめて、
生きる楽しみが無くなるというのなら、
それなら、
ムシキングやってもいいぞ。
ムシキング、楽しいもんな。
じゃあ、今のうちに楽しく過ごせよ。
敬具