「放送作家松田好花」を見ての感想
今回は8月10日にテレビ東京で放送された「放送作家松田好花」の感想を書いていく。
この番組は日向坂46の松田好花が放送作家に挑戦するという内容。企画書作りや会議でのプレゼンも自分で行い、まさに番組を0から作り上げていく半分ドキュメンタリーのような要素も入った番組だ。
個人的には途中で出てきた“泣いたら即終了”の我慢企画とかも面白そうだし見てみたかったが、松田好花=涙はちょっと安直すぎるかなーとも思う。たぶん本人的にもそういった判断になったのだろう。
企画会議では3つの企画をプレゼンしていたが、どれもアイドル・松田好花ではなく人間・松田好花から湧き出てきた感じがしたのがよかった。単にアイドルが考えた企画の範囲内に収まることなく、ちゃんとイチ番組として面白いものを作ろうとしているあたりが凄くこのちゃんらしいと感じたし、普段このちゃんはこういうことを考えているんだなと少し頭の中を覗き見たような感じもした。
「マスコミが芸能人のプライベートに首をつっこみすぎている」というのはひらがな推しの初回から言っているフレーズも出てきて、ずっとブレてなくていいなーと感慨深くもなってしまった。(笑)
結果採用となった企画は「ウソをホントにするTV」。
ラジオのフリートークで話すエピソードを芸人さんに依頼し、収録から放送までの間にそのエピソードを本当にするためのロケを行うという内容だ。
オールナイトニッポンXのパーソナリティとして毎週ラジオをやっているこのちゃんだからこそ思いつく企画だと思った。
その後実際にこの企画のロケがOAされたのだが、まず第一に思った感想は、演者・松田好花のカロリー高すぎるだろ!だ。(笑)
正直放送作家パートが霞んでしまうくらいロケの方の印象が強く残ってしまったのだが、テレビの企画というのは演者を立てることも大事なので、ある意味放送作家としてはこれで正解なのかもしれない。
いわゆる遠隔操作系の企画(パシフィック・ヒムや人間インストール)とも若干似ているが、リアルタイムで指示が出せない分こちらの方がさらに難易度が高いと思う。周りがどういう状況になろうと既に決まったミッションをこなさないといけないため、本当に大変だったであろう。
個人的にこの番組を象徴するシーンだと感じたのはコロチキ・ナダルさんが出てきたジムでのロケだ。
悪者になりきれず結局企画を全てバラしてしまい堂々とヤラセをして最後に申し訳なさ過ぎて泣いてしまうという一連の流れには松田好花の全てが詰まっているように感じた。
ランジャタイのエピソード通りになかなか上手くいかずナダルさんがガチでイラついている時には、このままだとお互いに何の得にもならないという危機感や、自分が考えた企画を何としてでも成立させないとという使命感が伝わってきた。
その結果出たこの涙はまさに放送作家として0から番組を作ったからこそものであり、この番組のハイライトの1つであろう。
一方で最初の飲食店でのロケは、面白かったしめちゃくちゃ笑いはしたものの、どちらかと言えばドッキリや検証ロケのような雰囲気になってしまい、「ウソをホントにする」という本来の企画がちょっとブレてしまっているようにも感じた。
この企画の一番の目的はラジオでOAするための既成事実を作ってしまおうというものであり、変な行動をして周りの人を困惑させることは本筋とは外れていると思う。
ウソをホントにする上で全て自力でそれをする必要はないと思うし、むしろ周りの人を巻き込み、みんなで協力して既成事実を作ろうという方向に持っていくのも全然アリだったと思う。
このような遠隔操作系ないし隠密にミッションを遂行する系の企画では見ているこっちまで恥ずかしくなってくる、いわゆる共感性羞恥というものを感じる場合も多い。
そこで周りもみんな乗っかってしまえば集団コントのような感じになるため、共感性羞恥も無くなってもっと見やすくなったかもしれない...と思った。
実際2本目のロケではナダルさんを偽企画でジムまで呼び出しているため、この時点で既に偶然起きた出来事ではなくなっている。
ならばいっそ飲食店パートでもシェフや受験生の客を全員仕込みにしても問題なかったと思う。ただ、仕込みをやるからにはワイプから「そんな偶然あるわけないだろ!」とつっこんでもらえるくらいわかりやすくしないといけないだろうが。
といろいろ言ってしまったものの、全体的にはよかったと思うし、普通にイチ番組として面白かったというのが素直な感想だ。
繰り返しにはなるが、ナダルさんとのロケや最後のロケバスで見せた涙は放送作家として企画を0から作る裏方の苦労を知ったからこそ出たものだと思うし、それ以外のシーンも含めて自分で企画して出演もするというこの番組だからこそ見られた映像がたくさんあったと思う。
また、ロケの中でどんなにこのちゃんが追い込まれても、最終的にはいやいや自分で考えたんだから(笑)となるためあまり可哀想に見えなかったのも放送作家兼出演者という立場ならではの発見だったように感じる。
一方で「ウソをホントにするTV」という企画自体はこの番組を飛び出して他の人でやっても成立するのではないかと感じた。
放送作家の先輩として登場したサトミツこと佐藤満春さんの言葉を借りるなら、今回の「放送作家松田好花」という番組は人ありきで作った企画であるのに対して、このちゃんが企画した「ウソをホントにするTV」は箱から作った企画のように感じる。
今回は3本ともランジャタイだったが、他の芸人さんにトークを依頼したらまた全然違う形になっていたと思うし、ロケパートも他のタレント(ラジオパーソナリティ)でやっても面白いと思う。
もし今後独立した番組として放送する機会があるとしたら、いろんな人の組み合わせでやってみると違いが出てきてより面白いだろう。
この番組の演出を担当した町田拓哉さんは過去に「盛ラジオ」「真夜中のデパート自由に使えたら」「オズワルドの○○まで30秒です」といった個性的な番組を数多く手掛けているが、この番組もかなり町田さんのカラーが出ていると感じた。
エンディングでオードリーが「深夜にテレビをつけたらたまたまやってる変だけどなんか見ちゃう番組」といったような例えをしていたが、先に挙げた3つの番組もまさにそのような番組で、これこそが町田さんが作る番組の特徴だ。
今回このちゃんが挑戦した放送作家は主に番組の企画や構成に関わる職業だが、町田さんが務める演出やディレクターといった人が行う編集(カットやテロップ付けといった作業)も番組の中では欠かせない要素であり、これによって番組のカラーはかなり変わってくる。
企画が良くても編集がダメならつまらなく見えてしまうし、逆につまらない企画でも編集に助けられるといった場面もあるだろう。もちろんどちらも良いのが最高なのだが、改めて番組作りはチームプレーなのだと感じた。
今回の「放送作家松田好花」には人間・松田好花の全てが詰まっていたと感じる。これまで「日向坂で会いましょう」や「松田好花のオールナイトニッポンX」で見せてきたこのちゃんの様々な部分がこの番組の中にも存分に表れていたし、今回このちゃんが放送作家として企画を立案する中でその目的として掲げていた「殻を破る」「新たな一面を見せる」といった部分も完成したVTRの中で見ることができたと思う。
まさに松田好花の集大成であり、「じゃないとオードリー」ならぬ「じゃないと好花」と言える番組になったのではないだろうか。
そんな様々な表情を見せてくれたこのちゃんだが、その中でも最も印象的に映ったのはやはり“涙”ではないだろうか。
このちゃんは以前「ラヴィット!」のクイズにおいて一発で正解を出してしまい、芸人のボケしろを潰してしまったと涙を流したことがあった。この涙は番組の企画意図を深読みしているからこそ出たものであり、これこそまさにこのちゃんが「放送作家に向いてる」と言われる所以であろう。
また、クイズに正解してしまった時に周りの出演者がとても温かくフォローしてくれたことによって感謝の気持ちや申し訳なさがいろいろと混ざって泣いてしまったということも本人が語っている。
今回のOA中このちゃんは3回涙を流した。
1回目の涙は企画が無事通った場面で、ここに来るまでの苦労や不安な気持ちがどっと溢れて出てきたものだ。
2回目の涙は先にも挙げたナダルさんとのロケのシーンで、自分の不甲斐なさやナダルさんへの申し訳なさから出てしまった涙であろう。
そして3回目の涙は撮影終了後のロケバスにて出たもので、この涙には企画作成から撮影まで3ヶ月にも及んだ番組作りの大変さや、この番組を一緒に作ってくれたスタッフへの感謝など様々な気持ちが詰まっていると思う。
このちゃんが涙を流す時は不甲斐なさ、申し訳なさ、安堵、感謝など気持ちが溢れ出して抑えきれなくなった時だ。先ほどのラヴィット!やあちこちオードリーに出演した時に泣いたことで世間の人にはよく泣くイメージがついてしまったが、ちょっとしたことで簡単に泣く人ではないというのはこのちゃんをよく知っている人ならわかるだろう。
泣きキャラが定着した時にはきっと番組スタッフからも涙を期待されたこともあっただろうが、その時にも決して涙を安売りすることはしなかった。
そんなどこまでも自分の気持ちに正直なこのちゃんだからこそ思いついた企画が「ウソをホントにするTV」なのだ。
8月8日に放送された「松田好花のオールナイトニッポンX」内でこの番組と連動した嘘のフリートークが流されたのだが、その時にこのちゃんは「今日の放送には違和感がある」ということを釘を刺すように言っており、フリートークの終わりには「このトークは放送作家松田好花が絡んでいるんですけど...」とネタバラシまでしてしまった。
ここは変に「違和感がある」などとは言わず、いつものラジオと同じようにサラッとトークを流し、その後も特に違和感には言及することなくエンディングあたりで「今週の放送作家松田好花ぜひご覧ください」と一言だけ言う方がラジオとテレビが連動した伏線回収になって面白かったと思う。
もちろんできるだけ多くの人に番組を見てもらうためにこのようなやり方にしたのかもしれないが、きっとこれもまた嘘をつきたくないこのちゃんのまっすぐすぎる性格が表れた場面なのだと感じる。
器用なイメージが強いこのちゃんだが、こういった部分においては少し不器用なのかもしれないなと思う。
そんな所も含めて今後も人間・松田好花のことを応援していきたい。