知的財産法の知識を使って本物の神戸牛を食べる方法
大阪梅田でフィラー特許事務所を経営している弁理士の中川真人です。今回は知的財産法の知識を使って本物の神戸牛を食べる方法を解説しようと思います。
ブランド牛「神戸牛」は知的財産法によって守られています。知的財産法の知識を使うと単に「神戸で売っている牛肉だから神戸牛!」と名を打っている、ブランド牛ではない「神戸で販売されている牛肉」ではなく、ブランド牛「神戸牛」をきちんと食べることができるようになります。
神戸牛は神戸肉流通推進協議会の会員以外からは絶対に入手できない
そもそも、ブランド牛「神戸牛」と神戸で販売されている牛肉だから「神戸牛」は何が違うのでしょうか。
簡単に言えば、ブランド牛「神戸牛」は神戸肉流通推進協議会の構成員(会員)でなければ商品やサービス名(営業表示と言います)として使うことができません。そして、ブランド牛「神戸牛」は必ず神戸肉流通推進協議会の会員でなければ販売・提供することができません。つまり、ブランド牛「神戸牛」は神戸肉流通推進協議会の会員以外からは絶対に入手できないのです。
ですから、神戸肉流通推進協議会の会員が営業しているお店で、「神戸牛」もしくは「神戸ビーフ」という名前を商品・サービス名として使っているお店を選べば、間違いなく本物のブランド牛「神戸牛」を食べることができます。
なお、神戸肉流通推進協議会の会員であれば、「神戸肉之証」という会員証・指定証・ブロンズ像の掲示をしているようです。
勝手に神戸牛を名乗ると犯罪になる?
では、神戸肉流通推進協議会の会員でないお店が単なる「神戸で販売されている牛肉」だから「神戸牛」と名を打って営業したらどうなるのでしょうか。
この場合、「神戸牛」は神戸肉流通推進協議会の登録商標(地域団体商標)ですから、神戸肉流通推進協議会は会員でないお店の「神戸牛」と名を打っての営業について営業表示「神戸牛」の使用を差止め、損害賠償請求を行うことができます。
とはいうものの、「神戸牛」では差止請求などの権利行使が若干やりにくいという商標法的な理由があり、神戸肉流通推進協議会ではもう一つの登録商標「神戸ビーフ」の方を積極的に使用をされているようです。
実は、「神戸牛」では産地・販売地と一般名称の組み合わせを普通に用いられる方法で表示しているに過ぎないという言い訳(抗弁と言います)も成立しうるのですが、「神戸ビーフ」であればさすがに「ビーフ」ってなんや?となりますから、権利行使をする上でも、お客さんが識別標識として目印にする分にも、「神戸牛」より「神戸ビーフ」の方が色々と便利なのでしょう。
商標で一番重要なのは「誰の商品か」の表示
このような産地・販売地と一般名称の組み合わせを普通に用いられる方法で表示している商標は、一般に自他商品識別力がない商標として商標登録を受けることができません。「あんぱん(この場合は餡とパンの単純な組み合わせ)」を買ってきてと言っても「あんぱん」という「あんぱん」がないように、それだけでは特定の商品を指し示すことができないという意味です。
一方、産地・販売地と一般名称の組み合わせは地域ブランドの構築と地域産業発展を目的に「将来的にはそれだけでも特定の商品を指し示すくらいに有名になれるのではないか」という期待に投資し、特別に登録を許したという制度です。これを地域団体商標制度と言います。
ですから、特に地域団体商標の商標権者は「〇〇と言えばあの△△」と言われるくらいに自分たちの登録商標を有名にする義務があると言えるでしょう。これを商標の適正な使用義務などと言います。
ここでいう「〇〇と言えばあの△△」とは、商標法的には「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎といえば神戸肉流通推進協議会の会員が提供しているあのブランド牛」という、特に「神戸肉流通推進協議会の会員が提供している」という出所表示の部分です。商標の基本は誰が提供しているかという「出所表示能力」だからです。
そして、神戸肉流通推進協議会の会員が提供しているのであれば、必然的に本物のブランド牛「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」を提供できる証となりますし、そもそも神戸肉流通推進協議会の会員でないのであれば、どんなに頑張ってもブランド牛「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」を提供できるはずがないからです。
ニセモノのブランド牛はなぜなくならないか?
神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎に限らず、ニセモノのブランド牛はどこの産地にも出没していると言われていますが、そもそも登録商標を無断で使用している販売者・提供者は商標法違反をしていることになります。
「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」を名乗って良いかどうかは(言い方は悪いですが)所詮民間の団体が任意に基準を設けているだけで、法的に「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」の成立要件が制定されているわけではありません。
しかし、「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」は登録商標なので、商標権者以外は問答無用で商標権者に無断で「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」を名乗って牛肉を販売したり提供したりすると、仮にそれが適法に「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」を販売しても良い提供者から買ったものだったとしても、つまり正規品(の牛)であったとしても、商標法の世界では「商標権の侵害」が成立しうるのです。ここは、特許法など創作法の消尽論とは大きく異なる部分です。
ブランド構築の基本「モノ目線からヒト目線へ」
私たちはどうしても「モノ・プロダクト」が正規品かどうかに目が行きがちですが、商標法的には「モノ・プロダクト」を提供した人が正規業者かどうかの方が実は重要なのです。
今回は神戸肉流通推進協議会さまの「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」を例に挙げさせていただきましたが、本物の「神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎」を食べたければ、迷わず神戸肉流通推進協議会の会員の方が経営されているお店に行くこと、これが正解です。
「これは本物の神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎ですか?」というモノ・プロダクト中心の認識から、「あなたは神戸牛®︎・神戸ビーフ®︎を提供できる正規の業者ですか?」という人・業者中心の認識に変えることで、ブランド牛に限らずあらゆる「ニセモノ」から身を守ることができるようになります。
本物の神戸牛を食べに神戸まで訪れていただいた際は、ぜひ神戸肉流通推進協議会の会員の方が経営されているお店を訪れることをお勧めいたします。
また、自分もこう言った「ブランド」を作りたいという夢を持たれている方は、ぜひフィラー特許事務所までお声がけください。「ブランド作り」は知的財産制度をフル活用して実現できる特許事務所のサービスです。
弁理士・中川真人
フィラー特許事務所