学生トレーダー急増ニュースに思う懸念
たまたま見たNHKの番組
2022年元旦にあったNHK(BS)の放送を見ました。
番組タイトルは、
『欲望の資本主義2022 成長と分配のジレンマを越えて』
(番組HPはこちら)
この番組を見たのは、今後のビジネスや運用に役立ちそうだな、と思ったからなのですが、思わぬことに番組の中で、
「大学生が投資に興味を持ち、実際に始める人が急増している」
という下りがありました。
日本における投資人口が、老後資金2000万円問題をきっかけに急増していることは知っていましたし、人口が減っていく中で自分の労働収入だけでは将来資金が不足する現状から、学生だけでなく社会人も投資について学び欧米諸国同様に、投資による資産所得を得る必要がある時代になっている事は、私自身も様々なメデイアを通して発信してきました。
しかし、この番組で紹介された学生達を見た感想は、
「これは危うい」
という危機感でした。
私が投資を始めたきっかけと失敗
私自身が投資を始めたのは今からちょうど10年前の2011年、年齢は40歳の時でした。始めてから10年経ち、その間に経済や相場に関する知識と経験を蓄積してきました。
投資を行うことはきちんと学び、段階的に実力をつけていくなら、人生にとって非常に良いことだと思います。
私は、投資を始める前は、好きで選んだ建築設計の仕事を夢中になってやっていましたが、経営を任されるようになった頃、2008年頃に起こった、リーマンショックを経験しました。
経営していた設計事務所には1年間もの間、全く新規の仕事が入ってこず、慣れない営業活動もみを結ばず苦しい状況が続きました。
「不景気になったら、どこに営業に行ったって仕事なんてない」
これが、この時に痛感した事でした。
この頃、
「株式投資では、価格が下がっても利益を出す方法がある」
ということをネット記事で見つけ、大変興味を持ちました。
不景気の時にはどこに行ったって仕事なんかない。そんな苦しい時期に、
「株価が下がったら利益が出せる方法」が本当にあるならば、渡に船だ!
そのように思ったのが僕が投資を始めようと思ったきっかけでした。
投資を始めると、今まで無関心だった経済のニュースや地政学的リスクなどに敏感になりました。
「このニュースは株価や景気にどんなインパクトを与えるか?」
という観点で情報を分析する習慣ができました。この事は、投資を行うためだけではなく、ビジネスを行う上でとても良い影響をもたらしました。
「投資は簡単に儲かる」は嘘
しかし、「投資で利益を出すこと」はそう簡単ではありませんでした。
我流で、見様見真似で始めたにわか投資家だった僕は、始めて数年間の間に、ざっと1000万円近い損失を出すことになりました。これが現実です。
損失が止まらなかった日々
損を出すたびに、もっと頑張らなければ、もっと勉強しなければ、とセミナーに通ったり、商材を買うなど、できる限りの努力をしました。
しかし結果は出ず、利益を残すどころか損失を膨らませる結果となり、こんなことなら投資など始めなければ、少なくとも失った資金を貯金したり有意義に使えたのに、と後悔する日々が続きました。
悪夢
そんな僕もテクニカル分析を学び、トレードで利益が出始めた頃。悪夢のような出来事が起こりました。
その日は会社から帰り夕ご飯を食べた後にインデックスの日経先物を取引していました。
強い上昇トレンドが続く相場で、短い時間足で押し目を拾えば簡単に利益が伸ばせる地合いで、
「こんなに簡単に儲かっていいの?」
と思いながらルンルンとトレードを行っていました。
資金100万円に対しあっという間に利益が30万円ほどに膨らんだ時です。
大きめの下げが入り、少し違和感を感じました。今から思えばそれこそが悪夢の前兆だったのですが、その時は「あれ?」と思った程度の違和感。
「高値掴みにだけ気をつけて押し目を拾ってさえいればいくらでも儲かる」
と調子に乗っていた僕は、その後も価格が下げてきて反発上昇する兆しを見れば、それまで同様に買いを入れていきました。買値から少しくらい下げても気にしません。
「どうせまた上昇するに決まっている」
これが僕の頭の中の思い込みでした。
その後どうなったか
価格が上昇回帰することはありませんでした。さっきまでプラス30万円だった利益はいつの間にかマイナス30万円になっています。
少し焦りましたが、さっきまで30万円も利益が出ていた、という記憶が、
「一旦損切りしよう」という正しい判断を鈍らせます。
「もう結構下げたから、そろそろ反発するっしょ。」
冷や汗をかきながら、こんな甘いことを考え、損切りすべきか我慢すべきかという葛藤になり、頭がパニックになります。
そして僕がとった行動は・・・
見るに耐えず、パソコンを閉じてしまいました。。。
そして数時間後、
「頼む、上がっていてくれ!」
とパソコンを開いてみると、驚愕の事態に。
マイナス100万円!
僕は数時間のうちに資金を全て溶かしてしまっていたのです。
学生トレーダーの皆さんに伝えたいこと
僕は学生の方が経済や相場に興味を持つこと自体は悪いことではない、むしろ良いことだと思っています。
しかし、今まで書いてきたように、投資はとても怖いものでもあります。
100万円の損失を出した時、当時の僕にとってのその金額は、かなりダメージがありました。家族の暮らしに影響を及ぼす金額でした。
暮らしに影響を及ぼす金額がいくらか、は人それぞれで異なりますが、そのような損失を出す可能性が投資を行っていればついて回ります。
私は現在、トレード講座で多くの投資家にトレードのコツやテクニカル分析の方法を教えたり、トレードに便利なツールを提供したりしていますが、最も力を入れているのは
『リスク管理』
についてです。自分自身がリスク管理できていなかったせいで大きな損失に苦しみ追い詰められた経験があるからです。
投資が怖いのは、投資を行っている目的が資金を増やすこと、であり、投資で損を出したとしても、それはいずれ取り返せる(はず)という前提に立っていることです。
しかし現実には、返ってこないこともあります。というより、かなり上達するまでは、
「返ってこないことの方が多い」
です。
『投資による損失は、後になってからわかる』ところが最も怖いことなのです。損失を出しているその時は気が付かない。いずれプラスになるとその時は信じている。
私が番組で学生たちが投資に興味津々な様子を見て危惧した理由は、
『教えている人間も、教わっている人間も、まだ大損失を出す失敗を経験したことがない人たち』
ということです。
どうか投資を安易に考えず、経験からリスクを十分理解している人に就いてしっかり学んだ上で、長期的に投資のスキルを身につけて欲しい、と願います。