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地方のローカル鉄道はどうなるのか、またはどうあってほしいか① 北海道の失敗

 こんにちは、猛暑にあえぐパスタライオンです。前回のあいさつを兼ねた記事の続きです。↓ 前回の記事

 前回取り上げた国の「検討会」について、この「検討会」ができるまでのJR各社の動きを何回かに分けて振り返ってみようと思います。
 これまでの経緯というものは非常に大事なので、遠回りなようでも10年ほどプレイバックすることから始めます。まず今回は、JR北海道の事例からご紹介します。

・きっかけになったのはJR北海道

 私の認識では、JR各社が現在「JR単独では維持できない線区」等を公表し、データを開示して地元と協議を行うという流れを最初に作ったのはJR北海道であると認識しています。

 なぜ、JR北海道がこのようなことを言い出したか、時系列で振り返ります。

・2011.5 石勝線列車脱線事故

 この事故が大きな転換点です。不幸中の幸いというべきか、死亡者こそ出ませんでしたが山のトンネルど真ん中で列車が脱線転覆+火災発生、条件が少しでも違えば(たとえば事故発生が冬なら…)もっと悲惨な事態を招いたであろうことは想像に難くありません。 

資料出展:北海道旅客鉄道株式会社 石勝線 列車脱線事故 (平成23年5月27日発生)
事故調査報告書 説明資料(運輸安全委員会)

・2014.6 JR北海道再生推進会議の設置

 先述の石勝線での事故以外にも、社員による不祥事(社員が故意に列車の装置を破壊したちうものもある)や重大なインシデントとしては検査データの改ざん等があり、国がJR北海道に対し「業務改善命令」と「監督命令」を出しました。
 事故・事象・不祥事が連続して発生し、端緒となった石勝線での事故から約3年が経っても、JR北海道は自らの体質を正すことができませんでした。会議には社外の有識者や行政関係者も参画し、多角的に見直しを進めていくこととなりました。

 *会議の切り込み

 石勝線の事故を起こしたのはなぜか、その後の連続した不祥事を起こしたのはなぜか、技術的なことよりも企業風土や経営体質の問題に会議は切り込みました。
 そこで明らかになったことは、「お金の使い方がおかしい」ことです。

*お金の使い方がおかしい=考え方がおかしい

JR北海道再生推進会議(第2回) 議事概要 マーカー筆者
https://www.jrhokkaido.co.jp/corporate/safe/pdf_gijigaiyou/140711-2.pdf

 会議において真っ先に指摘されたことは、安全確保について必要なコストをかけてこなかったこと、それが蓄積して一連の事故につながったという意見です。
 「まさに経営そのもののあり方が問題」だったという極めて厳しい指摘があり、経営陣の鉄道事業そのものへの考え方が問題だったことがわかります。
 会議は以後も定期的に続き、JR北海道が会議委員の現場視察を受け入れたり、データを開示したりと、認識の共有にかなりの時間と労力をJR側と会議側が割いたことがわかります。

・2015.6 「提言書」の発表

 会議は一度、中間報告のような形でJR北海道起こした事故やその背景の分析、それを踏まえたうえで行うべき対策を盛り込んだ「提言書」を発表します。(「JR北海道再生のための提言書」)
2015年度末には北海道新幹線の開業を控えており、ギリギリのタイミングでした。

*「提言書」の革命的文言

 「提言書」は当然JR北海道に厳しく経営改善を求める内容でしたが、今日の地方鉄道のあり方についての議論に発展する部分が明記されています。
 それは、「国、自治体、地域の皆様にお願いしたいこと」として、JR北海道単独ではこれまでの事業の維持は困難であることを明らかにしながら、当座の財政支援や議論喚起を呼び掛けていることである。

JR北海道再生のための提言書

 橋梁や構造物の老朽化の問題に触れながら、こうした問題は「近い将来、日本全体が直面する困難の先行事例」としての位置づけを行い、根本的な議論が求められていると結んでいる。

・2016.7 「持続可能な交通体系のあり方」について

 「提言書」をJR、そして自治体が受け取ってから1年余が経過した頃、JR北海道が談話のような形で発表したものです。
 ここではじめて、線区の存廃(バス転換含む)に公に言及し、議論は熱を帯び始めます。といっても、議論を始めたいJR北海道に対し、テーブルにつかない自治体という構図でした。とにかく反発がすさまじいものであったように記憶しています。

・2016.10 「当社単独では維持困難な線区」について

 JR北海道が路線(線区)ごとに、この路線はこのまま維持できないという資料を公開しました。かなりインパクトのある資料で、通常の民間企業であればセグメント別収支を公開することはあっても、顧客が何人いて事業所別ではどれほどの収益(損失)があって…という詳細なデータの公開などあり得ないわけです。そうした資料を出さざるを得ないほど、JR北海道は追い込まれていました。石勝線の事故から5年超が経っています。

「当社単独では維持することが困難な線区」について

・2016.12 JR北海道再生推進会議の「声明」

 上述のような情報開示がありながら、自治体は議論のテーブルにつかず、JR北海道も議論してくださいという「お願い」をするのみにとどまり、膠着状態が解消されることはありませんでした。
 そこで、JR北海道再生推進会議は「声明」を発表し、国・北海道・市町村・JR北海道に議論を進めるよう強く促しました。

「声明」

 JR北海道は自らの起こした事故がそもそもの始まりであることにしり込みしてか、自治体の顔色を窺ってばかり。市町村や道は協議を放棄している。国は指導不足。
 同年10月の「維持困難な線区」の発表と、この「声明」はセットです。
 JRが強力に議論を推進できる立場にないことは明らかですし、かといって自治体も国も誰もかじ取りをしたくない。利害関係のない立場の権威者から強く言われないと、「じゃあ話しますか」とはならなかったのです。
 JR北海道は自分の会社の生き死にの問題なのに、そして地域交通に責任を持つのは自治体なのに、おかしなことですけど、これが実際に起きた現実の出来事です。

・協議が本格化 → 実行に移される

 ようやくここから協議も始まり、バス転換等が実際に行われ現在に至ります。ざっと概略を時系列で追っただけでこの長さになってしまいました…(文章力)

・この記事で伝えたいこと 

 まずは、これから全国で本格化していくことになる地方の鉄道をどうするか問題については、JRの経営がどうこう、ましてや国鉄改革の功罪をどうこう言いだしてももはや何にもならないしですよということです。そして、この問題については、当事者でない人間などいないのです。

 路線の維持か廃止かというのは副次的なテーマであって、総合的な地域の交通網を10年、20年後見越して今作らなくてはいけないのです。

 北海道みたいにテーブルに着くまでに5年以上、時間を空費しますか?
 そして、都市部に住んでいるそこのあなた、その時間の空費にあなたの納めた税金が消えていくのを黙って眺めているんですか?

 それでいいんですか?という投げかけをして今回は記事を終わろうと思います。長文にお付き合いくださりありがとうございました。

マガジンにこのテーマの記事をまとめています、よろしければぜひ!


続きの記事です

 地方の鉄道はどうなるのか、またはどうあってほしいか② 誤解をほどく|パスタライオン ~鉄道と交通政策のまとめ~|note


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