ゲームレビュー「Prey Mooncrash」 プレイ毎に環境が変動する月面基地から脱出せよ
このゲームレビューはゲームメディアDFNGへの応募の際に執筆したものを改訂したものです。
自分なりに決断しながら行動しつつもゲームのシステムと乱数に翻弄され、それでもなおクリアを目指すジャンルといえば「ローグライク」ではないだろうか。ローグライクのおおよそはRPGか2Dアクションで、ゲームプレイごとに地形が変わるマップとかプレイヤーキャラクターは死亡するごとに変わるといったシステムが定番となっている。特に昨今のインディーゲームの隆盛によってローグライクゲームは爆発的に増えており、とある大手ゲーム開発スタジオは多くのインディーゲームからインスピレーションを得た「ローグライク系DLC」を2018年の6月に配信開始した。それこそが「PREY Mooncrash」だ。
まずはPREY Mooncrashの本編であるPREYについて説明しよう。PREYはBethesda Softworks(SkyrimやFallout4などで有名)が販売、Arkane Studios(Dishonoredなど)が開発したPS4/XboxOne/PC向けのFPSだ。2032年、主人公のモーガン・ユウは目覚めたら記憶を失っておりトランスター社の宇宙ステーション「タロスI」の数少ない生き残りとなっていた。船内は未知の生命体ティフォンによって常に危険にさらされており、プレイヤーは隅々まで探索して宇宙ステーションで何が起きたのかを突き止めて脱出する必要がある。
PREYのあらゆる目標・クエストには常に複数のアプローチが用意されており、プレイヤーがゲーム内で気づいたヒントの数や伸ばしたスキルの種類などによってプレイスタイルが変わる。例えば、セキュリティのかかった部屋に侵入する際にダクトを見つければそこから潜り込めるし、近くの誰かの遺体が解除コードを所有している可能性に賭けて探索してもいいしハッキングスキルを伸ばして扉を開錠することもできる。もしかしたら天井やしきりがないからパイプ伝いに登れるかもしれないし、そもそもその部屋にある物は無視しても問題ないのかもしれない。また、船内にはあらゆるところに音声ログやメモが残されていて、船員の日常や死に際の様子を記録越しに想像したり攻略のヒントにつながる情報を探したりすることができる。
これらの「プレイヤーの可能性を広げる選択」や「ドキュメントやボイスログによるストーリーテリング」といった要素は「没入型シミュレーション(Immersive Sim)」と呼ばれる系譜のゲームでよく見られる特徴であり、開発側も間違いなく意図的に設計している。FPSに詳しいゲーマーであれば「System Shock2」や「Bioshock」シリーズを想像してもらうとよい(というよりも本作の開発元のArkane StudiosはBioshock2の開発協力をしている)。
さて、PREY Moooncrashに話を移そう。MooncrashはPREY本編とは違ったゲームシステムのモードを追加するDLCで、そのうちのひとつがローグライク風モードだ。Mooncrashの主人公はトランスター社のライバルであるカズマ社と契約しており、崩壊後の「トランスターの月面基地」を再現したシミュレータを繰り返しプレイすることでトランスターに何が起こったのか情報を探る。
ざっくりと言うと、PREY本編は巨大な宇宙ステーションを一巡するような構成になのに対してMooncrashでは広くはない月面基地のエリアを何度も探索する構成で、ローグライク的に何度も死ぬことが前提の設計となっている。まず、ゲームの難易度設定が存在せず、プレイヤーキャラクターは本編と比べて脆くなっている(DLCに合わせて本編に追加されたサバイバルモードに準拠しているのだろう)。高所から飛び降りればダメージを負うだけでなく骨折して移動に支障が出てしまい、敵から頭部に攻撃を喰らうと脳震盪が起きて視界が悪くなる。しかもキャラクターが死亡した時点でシミュレーションは中断され、ゲームの中断セーブはできても同じセーブデータから何度もやり直すことができない。プレイヤーは自分が何度も失敗を繰り返すことを受け入れて、死亡せずに目標を達成するためにシミュレーションを重ねて知識と工夫を学ぶ必要があるのだ。
シミュレーションの設計もローグライクらしさに合わせた設計だ。1回のシミュレーションの中で最大5人のキャラクターから操作する対象を順番に選び、プレイヤーが解放しているキャラクターすべてが脱出あるいは死亡するとシミュレーションがリセットされる。つまり、同じシミュレーションの間はアイテムと脱出手段などの環境は継続されるので、キャラクターごとに異なる個性を考慮した上でキャラクターのプレイ順番も考慮する必要が出てくる。
例えば、被験者のキャラクターはワープ装置で脱出するとストーリー目標が開放されるが、修理スキルを向上させないとワープ装置を修理して利用可能にできない。そのため、修理スキルのノルマが比較的少ないエンジニアを成長させて、同じシミュレーション内でエンジニアがワープ装置を修理した上でエンジニアが別の手段で脱出したのちに被験者がワープ装置で脱出するといった流れが発生する。
エリアの広さのついては、月面基地は宇宙ステーションと比べると狭いもののシミュレーションごとに出現する敵の種類や環境の条件(火災、放射能汚染、酸素不足など)が異なり、マップの地形が変化することはないものの一部の施設や脱出手段が破損して使えなくなることもある。また、シミュレーション内のアイテムの配置が毎回異なるためシミュレーションの成績で稼いだポイントで購入したアイテムを持ち込むこともできるが、シミュレーション毎の購入が必要となる上にポイントも成績次第なので常に余裕があるとは限らない。
このように、PREY Mooncrashでは環境が常に変動し、プレイヤーは予測できないリスクに対してどこまでコストを払えるかが問われ、トラブルに遭遇した際にどのように対処するかを常に試される。もちろん、プレイヤーにはただ理不尽に見舞われるだけでない対抗するための手段が用意してある。
地形的な困難に陥った場合はPREYの特徴的な武器のグルーキャノンを使うことで障害を乗り切れるだろう。グルーキャノンに殺傷能力はないが敵を固めたり壁や床にグルーで固めたブロックの足場を作ったりすることができる。例えば、崩れた上に火災が発生している階段後があれば階段の跡に沿って足場を作りつつ消火もできる。大きな水たまりが漏電しているなら必要なだけグルーの足場をつくって渡ればよい。
そのほか、巻き込んだオブジェクトを素材化する爆弾のリサイクラーチャージ、敵の麻痺や施設の機器にも使えるディプラスタースタンガン、殺傷能力はないもののタッチパネルの操作から敵の陽動にも使えるハントレス・ボルトキャスターなど「使い方は一つだが用途が複数あるアイテム」が多数用意されており、活用方法はプレイヤー次第となっている。
これらのアイテムはPREY本編で既に存在したものであるが、筆者はむしろMooncrashでこそ活かされているようにも感じる。PREY本編はメインクエストだけでなくサブクエストも達成する場合は広大な宇宙船の中を何度も往復する必要があり、エリア移動ごとに倒した敵が復活したりエリア移動のロード時間がかなり長かったりといった要因でテンポが著しく阻害されている面があった。その点、PREY MOONCRASHはエリアを狭くしてローグライク要素を取り入れることでゲームプレイのテンポを速くし、限られたリソースと時間の中で没入型シミュレーションの「複数のアプローチの中から何を採用するか」を自分で素早く考える醍醐味の頻度を向上させている。唐突なトラブルに上手く対処できたときの快感や偶然の気づきによるひらめきが連続的に発生することによって、派手な楽しさとは言えないかもしれないがこの満足感が自分の狭いツボを刺激してくるのだ。
とはいえ、難点もいくらか存在する。エリアの環境はシミュレーション毎に環境が異なるとはいえ飽きは来ることは避けられないので完璧を目指さずに早めにクリアするのが良いだろう。また、シミュレーションの制限時間(汚染レベル)が非常に短い。シミュレーションの一回分における制限時間は決まっており、プレイヤーキャラクター全員分の制限時間は共有となっているのでプレイが進むにつれて一人当たりの時間が極端に少なくなっていく。制限時間を増やすアイテムの購入もできるがあまり当てにはできない。また、せっかくのボイスログやドキュメントも時間制限によってストーリーの意識を巡らせたり内容を確認したりする余裕がほとんどなくなっているのだ。これらの制限時間が厳しいという点はベセスダ公式ブログでも触れられており、開発側もユーザーからの不満を認識している様子ではある。
なお、MOONCRASH配信当初は日本からはSteam版のみ購入可能でPS4/XboxOne版が購入不可となっていたものの、2018年12月に実施された大型アップデート「Typhon Hunter」に合わせて日本からもゲーム機版が購入可能となった。「Typhon Hunter」には人間VSティフォンの非対称型PvPモード(当初はVR対応が予告されるも未実装に終わる)やVR専用の脱出ゲームが追加されているものの、残念ながら評判は芳しくない。PvPモードはそもそもゲームとして面白くなく、前提として一人プレイ専用ゲームにPvPモードを追加することそのものがベセスダ社によるマルチプレイ推進の方針が見られる(それは残念ながらFallout 76でも失敗している)。VRモードはゲームの世界観や舞台・美術が好きな人であれば楽しめるがそれ以外は特筆すべき点はない。これらのモードはあくまで無料追加分として割り切った方がよいだろう。
ちなみに、ベセスダソフトワークスは公式ウェブサイトで頻繁にニュース記事(日本語訳もある!)を更新しており、ベセスダのあらゆるゲームに関する記事が充実している。Prey Mooncrashの記事では「開発者がいかにローグライクのインディーゲームに影響を受けたか」を解説しており、実際にゲーム内アイテムのスキンとして「Spelunky」「Rogue Legacy」「Darkest Dungeon」「Risk of Rain」「Dead Cells」「Don’t Starve」とコラボしている。
もし、あなたが没入型シミュレーションFPSのファンであったり、ローグライクのゲームが好きであったりする場合はPREY Mooncrashに興味を持っていただけると嬉しい。現在、Steamでの価格は4400円(DLC込み)でベセスダはセール時に大幅なディスカウントも実施するのでセールを狙って購入してみてはいかがだろうか。
●関連リンク
・Steam:Prey
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