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【設例解説】FP1級実技面接 2024/9/22 PartⅠ・Ⅱ

10月3日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。

各設例の主な論点について、速報で解説します。

  • 修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例中に示された論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問がなかったり、別の論点に関する質問が出ている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。

  • 【補足】では論点のさらなる詳細や深堀り、関連事項などを記載しました。

設例は金財公式サイトをご参照下さい。

※当記事は一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2024年9月を一部改変して使用しています。

2024年9月22日 PartⅠ

【設例概要】

Aさん(75歳)はネットベンチャーX社の創業メンバー。X社は業容を大きく拡大し上場、今や誰もが知る著名企業となっています。

実業を離れたAさんは昨年、妻Bさんを病気で亡くし、今は都内のタワーマンションに1人で暮らしています。

ストック・オプション で得たX社株式の売却で大きな金融資産を築き、目下の唯一の心配事は自身の相続対策。

長男Cさん(妻と子2人で持家)と長女Dさん(夫と子1人で賃貸マンション)には3年前から110万円の範囲内で現金を贈与したり、孫(18歳・15歳・10歳)には都度お小遣いをあげています。

昨今は、贈与税・相続税の税制改正や、居住用マンションの相続税評価額の評価方法改正などのニュースが気になっています。

Aさんの自宅マンション:

  • 鉄骨鉄筋コンクリート造

  • 40階建ての30階に所在

  • 築10年

  • 敷地利用権(15m²) の評価額は5,000万円

  • 区分所有権(90m²) の評価額は3,000万円。

※ 評価額は「居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)」による。

超富裕層のAさんという設定で、マンション評価法の改正が問われるバターンが、前々回(2024/2/10 Part I)、前回(2024/6/9 PartII)と2回連続しました。

さすがに今回は出ないだろうと、スルーした方もいたかも知れませんが、当noteが直前対策で発した税制改正記事では、当該論点を紙幅をさいて重点的に説明しました。

「2度あることは3度ある」、さらに細部の深掘り質問さえ可能な形で出題されました。

相続税の実務上、最もカレントで注目度の高いテーマであることは明白で、今後も狙われる可能性が高いと思われます。


◆ ストック・オプション とは何ですか?

ストック・オプションとは、会社が従業員や取締役に対して、自社の株式をあらかじめ定めた価格で取得できる権利を付与することです。

【補足】
ストック・オプションのうち、税制適格ストックオプションは、権利行使時の株式の時価と権利行使価格との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ(※)、株式売却時に売却価格と権利行使時の株式の時価との差額と合わせて、譲渡所得課税されます。
(※)税制非適格ストップオプションではこの時点で給与所得課税されます。


◆ Aさんは長男Cさんと長女Dさん に、3年前から110万円の範囲内で暦年贈与していますが、留意すべき点を挙げて下さい。

まず、「定期贈与」とみなされないよう、毎年、贈与契約書を取り交わしておくべきです。

次に、年間110万円の基礎控除額以下の贈与であっても、生前贈与加算の対象となる点に留意すべきです。

税制改正で、生前贈与の持ち戻し期間は相続開始前3年から7年へ延長されました。

【解説】

  • 「定期贈与」とは、あらかじめ贈与する総額が決まっており、毎年、基礎控除の範囲内で分割して贈与を行うことです。
    →「定期贈与」とみなされた場合は、贈与の総額に対して贈与税が課せられます。

  • 生前贈与の持ち戻し期間の7年ルールが適用されるのは2024年1月1日以降の贈与についてで、2027年1月1日以降に亡くなった人から段階的に延長され、2031年1月1日以降に亡くなった人から完全に7年ルールへ移行することになります。


◆ Aさんによる生前贈与について、より良い方法を提案して下さい。

相続時精算課税の活用を提案します。

税制改正により、持ち戻し不要の基礎控除110万円が創設され、毎年110万円までの贈与は非課税で申告不要です。

また、賃貸マンションに住む長女Dさんへは住宅取得等資金の贈与の非課税、長男Cさんの2人の子へは教育資金の一括贈与の非課税を活用した生前贈与を提案します。


◆ 住宅取得等資金の贈与の非課税の改正点を教えて下さい。

適用期限が2026年12月31日まで延長され、非課税限度額1,000万円となる省エネ等住宅の要件が厳しくなりました。

【補足】
省エネ等住宅の要件は「断熱等性能等級5以上、かつ一次エネルギー消費量等級6以上」です。


◆ 教育資金の一括贈与の非課税の改正点を教えて下さい。

適用期限が2026年3月31日まで延長され、贈与者が死亡し、その相続財産が5億円を超える場合は、受贈者が23歳未満等であっても、残額は持ち戻しの対象となり、また、受贈者が30歳に達した場合等の残額への贈与税課税については「一般税率」が適用されます。


◆ 居住用マンションの相続税評価額の評価方法の改正について説明して下さい。

2024年1月1日以後に相続等により取得した分譲マンションの価額は、新たに定められた個別通達により、マンションの理論上の市場価格を従来の相続税評価額×「評価乖離率」と定め、この理論上の市場価格に対する割合を「評価水準」(※ 1÷「評価乖離率」)として、0,6を基準にその大小関係から、「区分所有補正率」を決め、従来の相続税評価額を補正することになりました。


◆ 評価乖離率の4つの指数を答えて下さい。

「築年数」、「総階数指数」、「所在階」、敷地利用権の面積を専有部分の面積で割った「敷地持分狭小度」です。


◆ この改正により、Aさんの自宅マンションの相続税評価額はどうなったと思われますか?

タワーマンションであることから、評価水準は0.6未満で、従来の相続税評価額×評価乖離率×0.6と算定され、評価額が引き上げられることになったと思われます。

【解説】
設例に示されたデータから、4指数の細かな係数を知っていれば(さすがにそこまで覚えている人はほとんどいないと思いますが)、Aさんの自宅マンションの評価乖離率と評価水準を求めることができます。

  • 評価乖離率=A+B+C+D+3.220

  • A=【築年数】10年×△0.033

  • B=【総階数指数※】1×0.239
    ※総階数40階÷33  但し1を超える場合は1とする

  • C=【所在階】30階×0.018

  • D=【敷地持分狭小度】15㎡÷90㎡×△1.195

以上よりAさんの自宅マンションの評価乖離率は

  • −0.330+0.239+0.540−0.200+3.220=3.469

評価水準は

  • 1÷3.469=0.288

0.288<0.6より区分所有補正率は

  • 評価乖離率3.469×0.6=2.081

以上より、Aさんの自宅マンションの補正された相続税評価額は、従来の相続税評価額(敷地利用権の評価額と区分所有権の評価額)× 2.081と引き上げられることになります。

2024年9月22日 PartⅡ

【設例概説】

Aさん(52歳)の父Bさんは実家(甲土地、甲建物)に1人で暮らしていましたが、3カ月前に死去。相続人はAさん、妹Cさん、弟Dさんの3人です。

実家は、不動産分譲会社X社が開発分譲した住宅団地(全120区画)内にあり、Aさんらは甲土地を手取額が最も高くなるように売却し、父Bさんの相続財産を3分の1ずつ相続したいと考えています。

不動産仲介会社Y社からは、戸建て分譲会社へは1億1,000万円、個人顧客へは9,500万円(いずれも更地前提)の売却価格が目安との話がありました。

この他、売却時の諸経費として、甲建物の解体費用が約330万円、測量費用が約70万円(いずれも消費税込)、成約時に仲介手数料「売買代金の3%+6万円(別途消費税)」が必要です。

甲土地と甲建物については、「1978年3月に土地を3,500万円で購入、総額2,000万円で建物を建築」と書いたメモ書きがあるだけで、甲土地取得時の売買契約書や領収書、甲建物に関する請負契約書等は見つかっていません。


◆ Aさんたちが甲土地を売却するにあたり、税金や諸経費を支払った後の手取額を最も高くするためにどのようなアドバイスをしますか?

空き家に係る譲渡所得の特別控除の適用を検討しますが、譲渡対価は1億円以下であること、相続人が3人以上の場合は特別控除額が各2,000万円になること等に留意が必要です。

【解説】
戸建て分譲会社への売却価格は1億1,000万円となっているため、空き家の特例は使えません。

一方、個人顧客への売却価格は9,500万円で、空き家の特例が使えます。

遺産分割前に3人の相続人による共有状態の甲土地を売却する形ですが、相続人それぞれに特別控除が適用されます。

但し令和5年度税制改正で、相続人が3人以上の場合は、特別控除額は各2,000万円に縮減されました。

【補足】
戸建て分譲会社へ1億1,000万円で売却する場合(A)と個人顧客へ9,500万円で売却する場合(B)の手取額を暗算でざっと計算して、どちらが有利かを推測してみましょう。

  • (A)と(B)の売却代金の差額は1,500万円。

  • 譲渡費用のうち、解体費と測量費は同額、仲介手数料は売買代金の3%+6万円(別途消費税)だが、売却代金の差額1,500万円の3%(45万円)+6万円≒50万円ほど(A)が高い。

  • ∴(A)の手取額が1,450万円ほど多い・・・①

  • 譲渡所得税・住民税は、売却代金の差額1,500万円×20%=300万円と、空き家特例の控除額トータル6,000万円(2,000万円×3)×20%=1/200万円で計1,500万円ほど(A)は多く税金を払う必要がある・・・②

  • ①と②から判断して、(B)のほうがやや手取額は多そうだが、差は数十万円ほどか。

実際に計算してみると、甲土地の取得費をメモ書きにある3,500万円とするか、概算取得費(譲渡対価の5%)とするかで結果は異なってきます。前者の場合は(A)が84万円ほど手取額が多くなり、後者の場合は(B)が47万円ほど手取額が多くなります。


◆ 甲建物を解体せずに現状有姿のまま不動産会社に売却する場合、気を付けるべき点は何でしょうか?

売買契約にあたって、甲建物の瑕疵担保責任や告知義務を負うことになります。

また、現状有姿での売却といっても、建物内の家財道具等は売主の責任で撤去・処分しなければばりません。

【解説】
「現状有姿のまま不動産会社に売却する」というこのケースですが、甲建物を中古住宅として売却するケース(つまり買い取った側が解体するのではなくリフォームして使える状態にして売り出す等)を想定しているものと捉え、上記のような回答内容としました。

もしこのケースが、Aさん側で解体するのではなく、現状有姿のまま、戸建て分譲会社に売却し、戸建て会社側で解体するというケースを意味しているのであれば、「もし解体費用等の負担がない分だけ売却価格が下がって1億円以下になれば、戸建て会社側に譲渡の翌年の2月15日までに甲建物を解体してもらうことによって、空き家の特例の適用が可能となります」といった回答も可能かと思います。


◆ 甲土地の取得に係る売買契約書や領収書を紛失している場合、何か方策はありますか?

取得費が不明の場合は、概算取得費(譲渡対価の5%)を使うことになりますが、課税額が過大となってしまいます。

他に取得費が合理的に算出できる資料があれば認められるケースもありますので、甲土地が分譲された当時のパンフレット等が残っていないか確認したり、不動産鑑定士に購入当時の鑑定評価額が算定できないか照会することを提案します。

【補足】
もし住宅ローンを組んで購入していた場合は、登記事項証明書の抵当権設定に係る記載事項から価格を推定することが可能かもしれません。


▶︎【設例概説】2024年9月21日 Part I・Part II

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