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【設例解説】FP1級実技面接 2024/6/16 PartⅠ・Ⅱ

2024/6/16の設例の主な論点について解説します。

  • 修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例から読み取れる範囲の論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問はなく、別の質問がされている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。

設例は金財公式サイトを参照して下さい。

Photo by Danor Aharon via Pixabay

2024年6月16日 PartⅠ

個人で不動産賃貸業を営むAさん(82歳)には、妻Bさん(76歳)、長女Cさん(52歳)、二女Dさん(50歳)、さらにAさんには離婚歴があることから、前妻との間に子Eさん(60歳)と子Fさん(58歳)がいます。

Aさんはできれば前妻や子Eさん•Fさんに財産を相続させたくないと思っています。

またAさんは、相続により取得した郷里の実家が空き家となっていることに頭を悩ませており、先日、国が不動産を引き取ってく れる制度が始まったとの話を耳にし、その仕組みを知りたいと思っています。

「相続登記の義務化」(2024/2/18 PartII)、「管理不全空き家」(2024/6/9 PartI)に続き、今回は「相続土地国庫帰属制度」と、空き家や所有者不明土地の解消に向けた一連の法改正事項が集中的に問われています。


◆ 前妻や子Eさん•Fさんに財産を相続させないことは可能ですか?

前妻には相続権はありませんが、前妻の子は法定相続人であり、それぞれ16分の1の遺留分があります。

財産を相続させないとなると、前妻の子にこの遺留分を放棄してもらう必要がありますが、放棄は権利者の任意であり、強制はできません。

【解説】
設例の場合、35年以上音信が途絶えている状況から、遺留分の放棄は現実的には難しいと思われます。可能な場合でも、放棄の代わりにいくばくかの生前贈与を行う必要があると思われます。

尚、生前に遺留分を放棄する場合は、家庭裁判所の許可が必要となります。


◆ 前妻の子に相続させる財産をなるべく少なくする方法はありますか?

遺留分に配慮した遺言書を作成する、生命保険を活用する、生前贈与を行うなどの方法があります。

【解説】
遺言書ですべての財産の相続先を漏れなく指定します。(漏れがあると遺産分割協議の対象となってしまい、前妻の子への相続の可能性が生じます)

受取人の固有財産となる生命保険の死亡保険金は、原則として遺留分侵害額請求の対象外です。再婚した家族を受取人に指定して財産を多めに残せば、一方で前妻の子の遺留分は減ります。

法定相続人(妻Bさん、長女Cさん、二女Dさん)に対する生前贈与は相続開始前10年間に行われた場合は、遺留分算定の対象となるので、できるだけ早く行っておく必要がありますが、法定相続人でない孫Gさんへの生前贈与の場合は、遺留分算定の対象は相続開始前1年間にとどまります。

FIREニキさんの面接体験記によれば、「Eさん・Fさんの財産自体を減らすことはできないか」との質問があったようです。

FIREニキさんが網羅的に列挙されているように、相続財産の全体のパイを少なくすると共に、妻Bさん・長女Cさん・二女Dさんへの配分額を多くすることで、Eさん・Fさんへの配分額を少なくすることはできますが、「他への配分額に関わらず遺留分の額そのものを直接減額する」ということになると、上記のように遺留分の放棄を持ちかけ、その代替措置として(遺留分未満の)生前贈与を行うといった方法しかないように思われます。

勿論、Eさん・Fさん側がそれで納得するかどうかは別問題ですが。


◆ 国が不動産を引き取ってく れる制度について説明して下さい。

「相続土地国庫帰属制度」で、相続または遺贈により土地を取得した人が、一定の要件を満たした場合、土地を国庫に帰属させることができる制度です。

建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、境界が明らかでない土地は対象外です。

負担金は、1筆ごとに20万円が基本となっています。


◆ 二女Dさん(50歳) に挙式費用を援助する方法を教えて下さい。

相続時精算課税による贈与を行います。

Dさんは50歳なので、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税は適用できません。

【解説】
令和5年度税制改正で、結婚・子育て資金の一括贈与の非課税(1,000万円・結婚資金は300万円まで)の期限は2025年3月31日までとなり、受贈者が50歳に達した場合等において、非課税拠出額から支出額を控除した残額に贈与税が課される場合は、「特例税率」ではなく「一般税率」が適用されます。


◆ 二女Dさん(50歳) に住宅資金を援助する方法を教えて下さい。

住宅取得等資金の贈与の非課税を活用します。

2024年6月16日 PartⅡ

Aさん(90歳)は三大都市圏のS市内に所在する甲土地(地積1,500m²)と乙土地(地積300m²)を所有しています。

甲土地は1990年10月からX社に旧借地法による期間40年の借地契約により店舗敷地として賃貸し、乙土地には1980年10月に自宅として乙建物を構え、子が独立し、3年前に妻が亡くなった後は、Aさんが1人で暮らしています。

論点は以下の3点です。

  • X社からの借地契約の中途解約(2025年9月付)の申入れへの対応

  • 要介護1の認定を受けて、老人ホームに入居する予定のAさんの乙土地売却に係わる課税関係
    ➡︎Aさんが老人ホーム入居後に売却する場合
    ➡︎老人ホームに入居したAさんが亡くなった後に相続人が売却する場合

  • 甲土地と乙土地の一体地を売却するかどうかのアドバイス(価格は3億5,000万円程度)

賃貸借契約の相続人への承継(2024/6/8 PartII)、根保証契約における極度額の明示(2024/6/15 PartII)、そして本設例の借地契約の中途解約の有効性と、今回のPart IIでは「契約」に関する細部の知識が問われました。


◆ Aさんは、X社からの借地契約の解約の申入れに応じる必要がありますか?

契約書に中途解約に関する条項がないため、応じる必要はありません。

【解説】
旧借地法であれ、借地借家法(1992年8月1日〜)であれ、原則として存続期間中の中途解約はできません。

但し、借地契約書に中途解約の条項を盛り込んでおけば可能ですが、本設例の契約書にはその条項はありません。


◆ 乙土地について、Aさんが老人ホームに入居後に売却する場合の課税関係はどうなりますか?

Aさんが乙建物に住まなくなった日の3年後の12月31日までに売却すれば、居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除と長期譲渡所得の軽減税率の特例が適用できます。


◆ また、老人ホームに入居したAさんが亡くなった後、相続人である子が売却する場合の課税関係はどうなりますか?

Aさんは要介護認定を受けているので、相続開始直前に乙建物に住んでいなくても、空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例を適用できます。

【解説】
相続時から譲渡時まで居住用・事業用・貸付用に供されておらず、譲渡対価1億円以下で、相続の日から3年後の12月31日までに譲渡する必要があります。

また、建物は譲渡前か後に耐震改修または除却をする必要があります。(譲渡後の場合は譲渡の翌年2月15日までに)


◆ あなたはAさんや長男Bさん、二男Cさんにどのようなアドバイスをしますか?

10年前から生前贈与により金融資産を減らしてきたのに、甲土地と乙土地の一体地を売却してここで金融資産を増大させてしまうのは相続対策上、得策とは言えません。

ディベロッパーに等価交換方式が可能かどうか打診することを提案します。

等価交換方式で、土地の譲渡と引き換えに区分所有建物を取得して賃貸に出せば、立体買換の特例により譲渡益課税が100%繰延べられると共に、相続税対策として、貸家建付地・貸家や小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)による評価減が受けられ、遺産分割もしやすくなります。

【解説】
別解として、X社との契約を継続した場合は以下のような展開も想定できます。

  • 6年後の期限まで甲土地を賃貸し、それまでにAさんの相続が発生した場合は、甲土地は貸宅地、地籍規模の大きな宅地、小規模宅地等の特例の貸付事業用宅地等に該当し、評価減が可能となります。

  • 契約期限までにAさんの相続が発生しなかった場合は、その時点でディベロッパーとの間の等価交換方式を検討します。


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