FP1級実技2025/2月対策 ②民法の改正等
FP1級実技面接2025年2月対策②は、不動産登記法や民法の改正等を取り上げます。
▶︎対策①令和5年度・6年度税制改正の総まとめ
近年、空き家や所有者不明土地が増加し、社会問題となっています。
その対策として、2023年〜24年にかけて様々な民事法制上の措置が講じられました。(不動産登記法や民法の改正等)
そして、それに呼応するように、最近のFP1級実技面接では、これらに関する出題が目につくようになりました。
頻出の税制改正事項である「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除」と共に、これら民事法制の論点もよく把握しておく必要があると思われます。
論点ごとに見出しを付け、直近1年半の出題頻度数を★1〜2で示しました。
2023年と2024年に制定・改正施行された法制に加え、2020年施行の改正民法(賃貸借契約等により生ずる債務の保証等の改正)も取り上げました。
◆ 不動産登記法の一部改正、相続土地国庫帰属法の制定、空家等対策特別措置法の一部改正
【★2】相続登記の申請義務化
(2024/2/18 Part I、2024/9/21 Part I)
所有者不明土地の発生を予防するために、不動産登記法の一部が以下のように改正されました。
相続・遺贈により不動産を取得した相続人は、その取得を知った日、または遺産分割協議が成立した日から3年以内に、相続登記の申請をしなければならない。(2024年4月1日から施行)
正当な理由なく申請義務に違反した場合は、10万 円以下の過料が課せられる。
自らが法定相続人である旨を申し出る「相続人申告登記」(オンラインも可)により、相続登記の申請義務を簡易に履行することができる。
登記簿上の所有者の住所に変更があった場合は、変更日から2年以内に、住所変更登記の申請をしなければならない。(2026年4月1日から施行)
【補足】
相続人が行方不明の場合、相続登記はどうするのか?
(2024/6/8 Part Iの面接中に追加質問)
行方不明の相続人がいる場合、その状態のままでは遺産分割協議ができない。
そこで、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任申立てをし、選任された財産管理人(弁護士や司法書士など)と他の相続人が遺産分割協議をし、その上で相続登記を行うことになる。
【★1】相続土地国庫帰属制度
(2024/6/16 Part I)
所有者不明土地の発生を予防するために、「相続土地国庫帰属法」が制定され、これに基づいて「相続土地国庫帰属制度」が創設されました。(2023年4月27日から施行)
相続・遺贈により取得した土地を負担金を支払うことによって国に引き渡すことができる制度。
負担金は1筆ごとに20万円が基本。
建物がある土地、担保権や使用収益権が設定されている土地、境界が明らかでない土地などは対象外。
共有名義の土地は共有者全員で申請する必要がある。
【★1】︎ 「管理不全空き家」
(2024/6/9 Part II)
「空家等対策特別措置法」の一部が2023年12月13日に改正施行され、「特定空き家」に加え、「管理不全空き家」という区分が新たに設けられました。
「特定空き家」とは1年以上誰も住んでおらず、放置すれば倒壊の危険がある等の空き家のこと。
「特定空き家」に指定されると、固定資産税の優遇措置(住宅用地として200㎡までは6分の1、200㎡超は家屋の面積の10倍までは3分の1の課税標準とする)の対象外となり、場合によっては自治体の助言・指導、勧告・命令・戒告を経て、「行政代執行」に至る可能性がある。
改正では、そのまま放置しておけば「特定空き家」に該当する恐れがあるものを新たに「管理不全空き家」と区分し、固定資産税の優遇措置の対象外とすることとした。
◆ 土地・建物等の利用に関する民法の一部改正(2023年4月1日施行)
所有者不明土地・建物の利用の円滑化を図るため、2023年4月1日に民法の一部が改正施行されました。
隣地が所有者不明土地である場合の対応
隣地の木の枝が伸びて越境してきたら、自ら切除することができる。 →改正前は隣地所有者に枝の切除を求めることしかできず(応じない場合は裁判を提起)、隣地の所有者が不明の場合は、そもそもその求めさえできなかった。
公示等による通知を行えば、隣地の所有者不明土地にライフライン設備(電気・ガス・水道)を設置したり、そこにある設備を使用したりすることができる。
所有者不明土地・建物管理制度の創設
所有者不明土地・建物について、裁判所が管理命令を発令し、管理人を選任する。
管理人は保存行為や一定の 利用・改良行為ができる。
裁判所の許可を得れば、売却、建物の取壊し等を行うこともできる。
共有不動産について、所在不明の共有者がいる場合の対応
裁判所の決定を得て、
所在不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物に「変更」を加えることができる。
所在不明共有者以外の共有者の持分の過半数により、共有物の「管理」に関する事項を決定できる。
また、共有を解消する場合は、裁判所の決定を得て、
所在不明共有者の持分を取得することができる。(不明共有者の持分の価額に相当する額の金銭の供託が必要)
所在不明共有者の持分を譲渡する権限が裁判所から付与される。(共有不動産全体を第三者に譲渡する場合のみ行使可能)
【★1】 共有持分を超える対価の支払義務
(2023/6/10 Part Ⅱ)
所在不明共有者に係る事項以外にも、共有関係のルールを明確化する次の改正が行われました。
共有物を使用する共有者は、他の共有者に対し、自己の持分を超える使用の対価を支払う義務を負う。(但し、共有者間において無償とするなどの合意があればその必要はない)
共有者は善良な管理者の注意をもって共有物を使用する義務を負う。 →共有物を使用する共有者が自己の責めに帰すべき事由によって共有物を失ったり壊したりした場合、他の共有者に対し、善管注意義務違反等を理由とした損害賠償義務を負う。
(※)2023/6/10 Part Ⅱの設例で次のようなケースが登場しました。
Aさんの自宅敷地はAさん、弟、妹が3分の1ずつ共有。
弟と妹は固定資産税等を負担、Aさんは弟と妹に地代は支払っていない。
弟「不公平だ!」
この場合、弟と妹はAさんに対し持分の使用料(賃料)を請求できることになります。
【★1】共有不動産を賃貸する場合の要件
(2024/9/21 Part II)
共有不動産の賃貸借を「変更」とする場合の基準が示されました。
共有物の「変更」は共有者全員の同意、「管理」は持分の価格の過半数の同意が必要で、「保存」は共有者が単独で行うことができる。
従来、民法では長期間の賃貸借は「変更」にあたるとされてきたが、その判断基準は必ずしも明確ではなかった。
今回の改正で、土地は5年超、建物は3年超の賃貸借が「変更」にあたると、一定の基準が示された。
【補足】
この他、改正民法では、形状又は効用の著しい変更を伴わない軽微な変更(アスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の工事)については、「管理」に該当し、持分の価格の過半数の同意で行えることとなりました。
(※)2024/9/21 Part Ⅱの設例で次のようなケースが登場しました。
甲土地はAさんが5分の3、弟Bさんが5分の2の持分で共有。
Aさん単独で甲土地の事業用定期借地権の再契約(期間20年)をすることができるか?
期間20年の土地の賃貸借は「変更」に当たるので、 Aさん単独 での再契約はできず、Bさんの同意が必要となります。
一方、この土地について「軽微な変更」を行う場合は、Aさんの持分は5分の3=過半数あるので、Aさんの意向のみで行うことができます。
長期間経過後の遺産分割の見直し
長期間放置された後の遺産分割について、共有状態の解消を促進するため、以下の改正が行われました。
相続開始から10年経過した後は、寄与分や特別受益の主張が制限され、法定相続分または遺言による指定相続分により簡明に遺産分割を行うことを原則とする。
【解説】
寄与分や特別受益など個別の事情を考慮した相続分を「具体的相続分」と言います。
寄与分や特別利益の算定には時間を要し、従来は具体的相続分による遺産分割に期限の定めがなかっため、遺産分割が長期化する要因となっていました。
(※)但し10年経過後も、相続人全員が具体的相続分による遺産分割をすることに合意した場合は、具体的相続分による遺産分割が可能です。
◆ 賃貸借契約に関する民法の一部改正(2020年4月1日施行)
【★1】債務の保証に関するルールの見直し
(2024/6/15 Part II)
2020年4月1日施行の改正民法では、賃貸借契約等により生ずる債務の保証に関するルールの変更がありました。
個人が保証人になる「根保証契約(※)」については,保証人が支払の責任を負う「極度額」(金額の上限)を定めなければ,保証契約は無効となる。
この極度額は,「○○円」などと明瞭に定め,書面に記載する必要がある。
(※)【解説】
「根保証契約」とは,将来発生する不特定の債務について保証する契約を言います。
例えば,不動産の賃借人の一切の債務の保証がこれに当たりますが、根保証契約を締結して保証人となる際には,主債務の金額が分からないため,将来,保証人が想定外の債務を負うことになりかねないため、今回の「極度額」記載のルールが設けられました。