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【設例解説】FP1級実技面接 2024/6/8 PartⅠ・Ⅱ

6月20日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。

各設例の主な論点について解説します。

  • 修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例から読み取れる範囲の論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問はなく、別の質問がされている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。

設例は金財公式サイトを参照して下さい。

Photo by Edi Nugraha via Pixabay

2024年6月8日 PartⅠ

代表取締役のAさん(71歳)が急逝し、事前準備のない中でいかにして資産・事業承継を行うのか。

明らかに、2023/9/24 PartⅠの設例の改作です。

Aさんが70歳以上で死亡し、後継者の長男Cさんは1年前にX社の取締役に就任という展開もそのままで、相続発生後の事業承継税制(特例)の活用がメインテーマであるのも同じです。

3階建ての自社ビルは、各階で「区分所有登記」してあるので、小規模宅地等の特例の適用に注意が必要ですが、この論点は2024/2/11 PartⅡで問われました。

直近の設例をよく学習している方は、設例読み段階で「これは行けそう!」と、回答の見通しを立てることができたはずです。


◆ X社株式はどのように承継(遺産分割)すべきでしょうか?

遺産分割協議により、Aさん所有のX社株式(80%)は長男Cさんが相続することとし、事業承継税制(特例)を活用します。

相続開始後8か月以内に特例承継計画の提出と円滑化法認定の申請を行って認定を受けますが、Cさんは相続開始後5か月経過した時点で代表取締役に就任している必要があります。

また、円滑に事業承継を進めるために、「遺留分に関する民法の特例」の活用を検討します。

【解説】
相続開始後の事業承継税制(特例)申請においては、被相続人が70歳以上で死亡した場合、後継者は相続開始の直前において会社の役員であれば要件を満たします。(70歳未満で死亡したら、役員要件は必要ありません)

Aさんは71歳で死亡しましたが、長男Cさんは1年前に取締役に就任しているので要件を満たします。

「遺留分に関する民法の特例」は、後継者に承継された株式について、除外合意(株式の価額を遺留分の算定基礎財産から除外する)と固定合意(株式の価額を合意時の時価に固定する)の2つの法的手続があり(本設例の場合は除外合意)、推定相続人全員の合意を得て、1か月以内に経産大臣に申請して確認を受けて、1か月以内に家庭裁判所に申し立てて許可を得る必要があります。


◆ 二男Dさんの相続財産はどうすべきでしょうか?

現預金と共に、X社資材置き場を相続し、X社に譲渡することを提案します。

相続開始から3年10か月以内に譲渡すれば、相続税の取得費加算の特例の適用を受けることができます。

【解説】
X社資材置き場は設例に記載がありませんが、X社がAさんから使用貸借で借り受けているものと思われます。

Dさんは不動産ではなく金融資産を希望されていることから、相続した当該土地(自用地評価)を余剰資金が3億円以上あるX社に時価で買い取ってもらうことを提案します。


◆ 自宅兼X社本社ビルに小規模宅地等の特例はどのように適用できますか?

  • X社に賃貸している1階部分(250㎡)は、X社の取締役である妻Bさんあるいは長男Cさんが相続すれば、特定同族会社事業用宅地等(80%評価減)に該当し、

  • 妻Bさんが居住する3階部分(125㎡)は、妻Bさんが相続すれば、特定居住用宅地等(80%評価減)に該当しますが、

  • 長男Cさん家族が居住する2階部分(125㎡)は、区分所有登記されているため、小規模宅地等の特例は適用できません。

【解説】
仮にこのビルが区分所有登記されていなければ、長男Cさんは二世帯住宅に同居する親族とみなされ、2・3階部分について、妻Bさんあるいは長男Cさんが相続すれば、特定居住用宅地等(80%評価減)に該当します。

2024年6月8日 PartⅡ

Aさん(56歳)は、父親の相続により、甲土地(地積2,240㎡)と賃貸マンションである甲建物を取得。

また、甲土地の東側に隣接する乙-1土地(地積900㎡)を、Aさんの父親の代から、甲建物の入居者専用の駐車場用地として地主Bさんから賃借しています。

Bさんは乙-2土地(地積1,200㎡)を家電量販店のY電機に店舗専用の駐車場用地として賃貸しており、賃料単価は乙-1が290円/㎡、乙-2が363円/㎡となっています。

Bさんが亡くなり、相続人のCさんから、「乙-1の賃料単価が20%も安いのは納得できない。現契約は父が亡くなった時点で無効。乙-1を譲渡する場合は、相続税評価額の2倍の価格」と言われた、という展開です。


◆ 甲土地と乙-1土地 は、K市役所により一体利用地として一画地認定を受けていますが、どのような課税上の効果がありますか?

駐車場の乙-1土地が住宅用地となり、固定資産税が軽減されます。

【解説】
乙-1土地は賃貸マンションの入居者専用駐車場で、建物と一体利用されていると認定されているので、固定資産税の課税標準が更地ではなく、住宅用地として減額されることになります。

住宅用地は200㎡までは6分の1(マンションの場合は200㎡×世帯数分)、200㎡超は家屋の面積の10倍までは3分の1の課税標準となります。

下記記事の「駐車場の固定資産税」を参照して下さい。

設例の場合、賃貸マンションのある甲土地はAさんの所有ですが、駐車場となっている乙-1土地はBさんの相続人Cさんの所有です。(駐車場なのでCさん側では自用地として評価され、Aさん側には借地権はありません)

仮に駐車場の乙-1土地がAさん所有であった場合は、甲土地との一画地認定により、乙-1土地は貸家建付地として評価されることになります。


◆ 乙-1土地の賃料単価と乙-2土地の賃料単価に差があることについて、どのように思いますか。その理由とともに教えてください。


上記のように、乙-1土地の固定資産税負担額が軽減されることに加え、乙-2土地はY電機の店舗のある土地と一体化して利用されることになります。

Y電機の店舗のある土地は角地で、正面路線価は乙土地よりも高く、2路線に面していることなどから、一体化により乙-2土地の価値が上がりますから、賃料単価に差が生じるのは当然だと思います。

【解説】
ちなみに、乙-2土地(1200㎡)の固定資産税評価額を計算してみると、

  • 乙-2土地 の正面路線価は、Y電機の店舗の敷地と一体化することから、200千円

  • 公示価格は200千円÷0.8=250千円

  • 固定資産税路線価は250千円×0.7=175千円

であることから、固定資産税の課税標準額は、

  • 175千円×1200㎡=210,000千円

固定資産税の税率は1,3%、都市計画税の税率は0.4%だから、固定資産税の月額は、

  • 210,000千円×1.7%÷12=297,500円

◆「乙-1土地を相続税評価額の2倍の価格であれば売ってもよい」とのCさんの発言について、あなたはどのように考えますか?

乙-1土地の路線価は1㎡あたり145千円で、その2倍は290千円。一方、周辺の土地の相場は、1㎡あたり約181千円(600千円÷3.3)ですから、やはり割高だと思われます。

【解説】
はんなりさんの面接体験記には、「乙ー1土地は細長いので、相続税評価額に補正がかかる」との面接官の先生の認識が示されています。

縦に長い土地は「奥行長大補正率」による評価減が考えられます。奥行距離÷間口距離=8以上の場合、普通商業・併用住宅地区で最大0.90の評価減となりますが、設例の場合は60m÷15m =4なので0.98の評価減です。

また、乙ー1土地の地積は900㎡で、普通商業・併用住宅地区にありますが、指定容積率は400%であるため、地積規模の大きな宅地の評価減は適用できません。(指定容積率は東京23区が300%未満、それ以外は400%未満である必要があります)


◆「Bさんが亡くなった時点で土地の賃貸借契約書の効力は無くなっている」とのCさんの発言について、あなたはどのように考えますか?

Bさんが亡くなっても貸主の地位は相続され、契約内容はそのまま有効ですから、Cさんの発言は間違っています。

【解説】
不動産の賃貸借契約の期間中に貸主または借主が死亡した場合、その地位は相続人に承継されます。

賃貸借契約書の契約内容もそのまま有効となります。

※(補足)

乙-1土地の賃貸借契約について

資材置き場や駐車場など、建所有以外の目的の土地(宅地以外の土地)の賃貸借契約には、借地借家法は適用されず、民法が適用されます。

民法では賃貸借の契約期間は50年を上限とし、下限の定めはありません。

設例の乙-1土地の契約期間は10年となっています。

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