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【設例解説】FP1級実技面接 2024/9/21 PartⅠ・Ⅱ

10月3日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。

各設例の主な論点について、速報で解説します。

  • 修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例中に示された論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問がなかったり、別の論点に関する質問が出ている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。

  • 【補足】では論点のさらなる詳細や深堀り、関連事項などを記載しました。

設例は金財公式サイトをご参照下さい。

※当記事は一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2024年9月を一部改変して使用しています。

2024年9月21日 PartⅠ

【設例概要】

2024年8月に急逝したAさんは、一昨年亡くなった兄Eさんの唯一の相続人で、Eさんに係る相続税の申告・納税を済ませていました。

主な論点は以下の6点です。

  1. 2024年6月にEさんの一人住まいの自宅建物を取り壊しその敷地を2.000万円でAさんが売却した際の課税関係

  2. Eさんの自宅に保管されていた金(ゴールド)を1,400万円でAさんが売却した際の課税関係

  3. Aさんに係る準確定申告の期限と方法(Aさんの入院費用は相続人が9月に支払済み)

  4. Aさんに係る相続財産の分割、相続税の申告、名義変更の手続き

  5. Aさんから長女Dさんへの毎年200万円(申告済み)×10年間の暦年贈与の扱い

  6. 長女Dさんのインボイス登録について

4.の論点は、2024/2/18 Part Iでも出題されました。

6.のインボイス制度については、これまで2023/2/11 PartⅡで追加的に質問された程度だったため、いずれ真正面から出題されるはずと踏んで税制改正の記事でやや詳しく取りあげていましたが、今回、相続人の長女Dさんが「舞台役者」というユニークな設定で問われました。


◆ Eさんの一人住まいの自宅建物を取り壊しその敷地を売却した際の課税関係を教えて下さい。

譲渡所得が申告分離課税の対象となりますが、空き家の3000万円特別控除が適用できます。

対象となる家屋は1981年5月31日以前の建築で、耐震改修または除却され、譲渡対価は1億円以下、相続の日から3年後の12月31日までの譲渡であることなどの要件を満たす必要があります。


◆ 空き家の特例は、相続税の取得費加算の特例と併用できますか?

できません。


◆ 空き家の特例の令和5年度税制改正点は何ですか?

適用期限が2027年12月31日まで延長され、譲渡の翌年2月15日までの耐震工事や取り壊しが認められ、相続人が3人以上の場合の控除額が各2000万円に縮減されました。


◆ 金(ゴールド)を売却した際の課税関係について教えて下さい。

譲渡所得が総合課税の対象となります。

売却代金から取得費と譲渡費用を控除し、さらに上限50万円を特別控除し、所有期間が5年を超える場合は、その2分の1が他の所得と合算されて課税されます。

また、相続税の取得費加算の特例が適用できます。


◆ 取得費が不明の場合はどうなりますか?

譲渡対価の5%とする「概算取得費」で計算することになります。


◆ 亡くなったAさんの所得税の確定申告について、その期限と方法を説明して下さい。

準確定申告と言い、相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内に申告・納税します。

申告は、相続人全員が連署・押印してまとめて行うか、各相続人ごとに行い、申告先は亡くなった人の住所を管轄する税務署となります。

Aさんが亡くなった後、9月に支払われたAさんの入院費用については、準確定申告上は医療費控除の対象にはなりませんが、入院時にAさんと生計を一にしていた親族、例えば妻Bさんが支払ったのであれば、妻Bさんの医療費控除の対象となります。

【補足】
所得税の納付については各相続人が行い、税額は各人の相続割合によるのが原則です。

医療費などの還付金がある場合も、相続割合によって按分されます。


◆ 相続財産の分割、相続税の申告、名義変更の手続きについて説明して下さい。

遺産分割協議の内容をまとめた遺産分割協議書を作成し、相続の発生を知った日の翌日から10カ月以内に相続税の申告と納税を行います。

不動産・預貯金・保険などの名義変更に際しては、「法定相続情報証明制度」を活用すれば、戸除籍謄本等の原本の束を何度も出し直す必要がなくなります。


◆「法定相続情報証明制度」とは何ですか?

法務局に戸除籍謄本等の束と共に、「法定相続情報一覧図」を提出すれば、登記官がその一覧図に認証文を付し、その写しが無料で交付される制度です。(5年間は再発行が可能です)


◆ 不動産の名義変更について留意する点は何ですか?

2024年4月1日から相続登記が義務化され、不動産の取得を知った日から、または遺産分割が成立した日から、3年以内に相続登記の申請をする必要があります。

【補足】
正当な理由なく登記申請を怠った場合は、10万円以下の過料が課せられます。

また、他の相続人と連絡が取れない場合や、遺産分割協議がまとまらない場合などには、「相続人申告登記」を行い、簡易に相続登記の申請義務を履行し、過料を免れることができます。

【参照】
以下の記事では、相続人が行方不明の場合の相続登記について詳しく解説しています。


◆ Aさんから長女Dさんへの毎年200万円(申告済み)×10年間の暦年贈与はどのように取り扱われますか?

Aさんは2024年8月に亡くなっているので、生前贈与の持ち戻し期間は相続開始前3年で、2021年8月以降の贈与が相続財産に加算されます。

【解説】
税制改正により、生前贈与の持ち戻し(相続財産への加算)期間が相続開始前3年から7年へ延長されましたが、改正後の7年ルールが適用されるのは2024年1月1日以降の贈与についてで、2027年1月1日以降に亡くなった人から段階的に延長され、2031年1月1日以降に亡くなった人から完全に7年ルールへ移行することになります。


◆ インボイス制度とは何ですか?

課税事業者が発行するインボイス(適格請求書)の保存によって、消費税の仕入税額控除が受けられる制度のことです。


◆ 長女Dさんがインボイス登録した際に適用できる特例について説明して下さい。

「2割特例」と呼ばれ、インボイスを発行するため、免税事業者が課税事業者となることを選択した場合、納税額を売上税額の2割に軽減するもので、2026年9月30日までの時限措置です。

【参照】
インボイス制度については、今回の2024年9月試験開始の20日前に投稿した以下の税制改正事項に関する記事で、概要・負担軽減措置など詳しく解説しています。


2024年9月21日 PartⅡ

【設例概要】

三大都市圏のS市内に所在する甲土地(1,000㎡)は、10年前に父親から相続した土地で、Aさん(68歳)が5分の3、弟Bさん(65歳)が5分の2の持分で共有しています。

甲土地は父親が2005年に期間20年の事業用定期借地としてX病院と契約し、AさんとBさんが賃貸人の地位を承継しています。

X病院からは、甲土地の賃貸借期限は2025年9月だが、2025年10月から20年間、引き続き賃借したいとの申し入れがあり、Aさんは賃料収入も期待できることから、その申入れに応じたいと思っていますが、Bさんは自宅の建替え費用(娘家族と同居するための二世帯住宅・予算5,000万円)捻出のために、甲土地をAさんと共に売却するか、単独で売却したい意向です。

甲土地の地代は、年間1,000万円で、固定資産税・都市計画税控除後の年間手取額はそれぞれの持分割合に応じて、Aさんが480万円、弟Bさんが320万円となっています。

現在保有の金融資産はAさんが2,000万円、Bさんが3,000万円で、それぞれ金融資産は減らしたくないと考えています。

甲土地周辺は、商業施設用地あるいはマンション用地として、250㎡から1,000㎡の整形地は、1㎡当たり25万円程度で売買されています。

設例には、【参考】として、1,000万円を返済期間20年、固定金利2.5%、元利均等返済で借りた場合のローン返済額が年間約64万円であることと、所得税と住民税を合わせた税額の速算表が付されています。

これは、必要資金をローンで借りた場合、その年間返済額が、地代収入の年間手取額(所得税・住民税控除後)でまかなえるかどうかを試算させる意図と思われます。

Part II の傾向と対策の記事で、2024年6月試験で出題されなかった「土地の有効活用」と「共有」は要マークとしていましたが、いきなり難度の高い設問(事業用定期借地権の存続期間が短い理由と共有不動産の変更要件)を目にして、面食らった方が多かったことでしょう。


◆ 当初の事業用定期借地権の存続期間が20年と短い理由は何ですか?

2005年の契約当時は、存続期間が10年以上20年以下であったためです。

その後、借地借家法が改正され(2008年1月1日施行)、存続期間が10年以上50年未満へと変更になりました。

【解説】
改正借地権借家法(2008年1月1日施行)では、「事業用定期借地権等」として、存続期間10年以上30年未満を「事業用借地権」、30年以上50年未満を「事業用定期借地権」と区分しています。

改正で存続期間が延びたのは、当初想定された出店・撤退が容易な店舗経営(コンビニ、量販店、ファミレス)での活用から、別の業態(大型商業施設や物流センターなど)にも需要が拡大したことが背景にあります。

設例でも「病院の存続は、市をはじめ地元からの要望も強い」と、存続期間が20年以下では不十分となっている実情が反映されています。

【補足】
「事業用定期借地権」については普通借地権(存続期間30年以上)と区別するため、 3つの特約(契約の更新がない、建物を再築した場合にも存続期間は延長されない、期間満了時の建物買取請求権がない)を公正証書に付加する必要があります。

一方、10年以上30年未満の「事業用借地権」では、3つの特約は契約に含まれていると解され、付加する必要はありません。


◆ Aさん単独で甲土地の事業用定期借地権の再契約をすることはできますか?

できません。

甲土地は共有物であり、事業用定期借地権等の契約は「変更」にあたるため、Bさんの同意が必要となります。

【解説】
共有物の「変更」は共有者全員の同意、「管理」は持分の価格の過半数の同意が必要で、「保存」は共有者が単独で行うことができます。

民法では、長期間の賃貸借は「変更」にあたるとされてきましたが、その判断基準は必ずしも明確ではありませんでした。

2023年4月1日施行の改正民法で、土地は5年超、建物は3年超の賃貸借が「変更」にあたると、一定の基準が示されました。

【補足】
また、改正民法では、形状又は効用の著しい変更を伴わない軽微な変更(アスファルト舗装や、建物の外壁・屋上防水等の工事)については、「管理」に該当し、持分の価格の過半数の同意で行えることとなりました。(設例ではAさんの持分は5分の3=過半数あるので、軽微な変更であればAさんの意向のみで行うことができます)


◆ Aさんにどのようなアドバイスをしますか?

X病院に対して、事業用借地権の再契約を前払地代方式にして欲しい旨、申し入れることを提案します。

仮に現契約のままの地代額で、20年間分のAさんの受取総額(1億2千万円)のうち1億円を前払地代方式で受け取ることができれば、AさんはBさんの共有持分(時価25万円/㎡×1000㎡×5分の2=1億円)を買い取り、共有状態を解消することができます。

【解説】
仮に前払地代方式でなく、AさんがBさんの持分の買取り資金をローンで借り受け、返済額を毎年の手取り地代でまかなおうとした場合、毎年のローン返済額は、1億円借り入れるとして、64万円×10=640万円となります。

一方、Bさんの持分を買い取ったことによるAさんの毎年の手取り地代額は、地代額を現契約のままとして、固定資産税・都市計画税控除後で800万円、さらに所得税と住民税の控除分が(800万円−63.6万円)×33.3%=約243万円で、手元に残るのは約567万円となり、地代のみでローン返済額をまかなうことは難しくなります。


◆ 前払地代方式の課税上のメリットは何ですか?

地主側では、権利金のように一時に課税されることなく、毎期均等に収益計上することができ、課税の分散を図ることができます。

借地人側では、前払地代を毎期均等に損金算入できます。

【補足】
但し地主側では、中途解約時には未経過分の前受地代を返還する必要があります。


◆ 弟Bさんの二世帯住宅建替えについて何かアドバイスできることはありますか?

建築資金のうち一定額を、住宅取得等資金の贈与の非課税と相続時精算課税を活用して娘に贈与し、建て替えた二世帯住宅を娘との共有名義で登記することをアドバイスします。

区部所有登記しなければ、娘は同居親族として、敷地全体について小規模宅地等の特例の適用を受けることができます。

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