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【設例解説】FP1級実技面接 2024/6/9 PartⅠ・Ⅱ

2024/6/9の設例の主な論点について解説します。

  • 修正や追加があれば随時更新します。

  • 設例から読み取れる範囲の論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問はなく、別の質問がされている可能性があります。

  • 冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。

  • ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。

設例は金財公式サイトを参照して下さい。

Photo by Danor Aharon via Pixabay

2024年6月9日 PartⅠ

大手上場企業で役員や子会社社長を歴任した富裕層Aさん(70歳)の資産承継。

相続税対策でタワーマンションの購入に興味を持ち、「税制改正で話題となった」生前贈与は早く始めたほうがいいと感じ、長男や長女にはNISAを活用して投資を経験して欲しいと思っています。

また、金融機関の担当者から、一時払終身保険を活用した相続対策の提案を受けています。

2024/2/10 PartⅠに続く出題となったマンション評価法の改正、生前贈与の令和5年度改正事項、新NISA(2023/6/10 PartⅠで出題)と、直近の設例と税制改正事項を十分に学習してきた方にとっては、難なく回答できる設例だと思われます。


◆ 不動産投資を行うと、なぜ相続税が軽減されるのでしょうか?

現金は券面額で評価されますが、同じ金額で不動産を購入すれば、相続税評価額が低くなります。

また、取得に係る借入金は債務控除の対象となり、賃貸物件の場合は、敷地は貸家建付地、建物は貸家として評価、小規模宅地等の特例(貸付事業用宅地等)を適用できる可能性もあります。


◆ タワーマンションによる節税が難しくなったと言われていますが、どうしてでしょうか?

2024年1月より、相続税評価額と市場価格との乖離が著しいタワーマンションは、築年数や階数などの指数に基づく「評価乖離率」により補正され、相続税評価額が引き上げられました。

【解説】
現在の相続税評価額が市場価格理論値(以下の①×②)の60%未満となっているものは、市場価格理論値の60%になるよう、現在の相続税評価額を引き上げます。

⇒①現在の相続税評価額×②「評価乖離率」(築年数・総階数・所在階・敷地持分狭小度(専有面積と敷地利用面積の差分)の4指数で算出)×60%を新たな相続税評価額とする。


◆ 生前贈与について、令和5年度税制改正の概要を説明して下さい。

暦年課税による生前贈与加算が、相続開始前3年以内から7年以内に延長されました。

また相続時精算課税については、基礎控除額110万円が新たに設けられました。

【解説】
生前贈与加算が延長された分(4年分)については、その合計額から100万円を控除した残額を相続税の課税価格に加算します。

また相続時精算課税について、贈与者が死亡した場合の相続税の課税価格への加算額は、基礎控除額110万円を控除した後の残額となります。


◆ Aさんが生前贈与する場合、他に活用できる制度はありますか?

長男Cさんが、もし持家の取得を希望する場合は、住宅取得等資金の贈与の非課税、長男Cさん・長女Dさんの子の教育資金については、教育資金の一括贈与の非課税の活用が考えられます。

【解説】
令和6年度税制改正で、住宅取得等資金の贈与の非課税(省エネ等住宅1,000万円、その他500万円)の期限は2026年12月31日までとなり、非課税限度額1,000万円となる省エネ等住宅の要件が厳しくなりました。(断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6以上)

令和5年度税制改正で、教育資金の一括贈与の非課税(1,500万円)の期限は2026年3月31日までとなり、贈与者が死亡した場合、その相続税の課税価格が5億円を超える場合は、受贈者が23歳未満等であっても、非課税拠出額から支出額を控除した残額は相続税の課税価格に加算します。

また、受贈者が30歳に達した場合等において、非課税拠出額から支出額を控除した残額に贈与税が課される場合は、「特例税率」ではなく「一般税率」が適用されます。


◆ 新NISAについて、その概要を説明して下さい。

少額の投資による売却益や配当金が非課税となる制度で、つみたて投資枠は年間120万円、成長投資枠は年間240万円で、一口座で併用が可能です。

保有期間は無期限、生涯の非課税上限額は1800万円、成長投資枠は1200万円です。


◆ 一時払終身保険を活用した相続対策について説明して下さい。

死亡保険金は、遺産分割協議の対象外で受取人の固有財産となり、すぐに準備できる納税資金として活用できると共に、500万円×法定相続人の数までは非課税となります。

2024年6月9日 PartⅡ

Aさん(48歳)の妻Bさんの父Eさん(82歳)が所有する甲土地上の甲建物について。

8年前に借家人が退去して以降、空き家となったまま放置され、老朽化による損傷が激しく、「管理不全空き家」に該当しないか、懸念される状況となっています。

もしEさんが甲建物を取り壊した時は、Aさんは甲土地を借り受けて、そこに家族で暮らす戸建て住宅を建築したいと考えています。

甲土地については、無償で借りられれば助かりますが、一方で、Eさんに地代を支払って賃借すれば、Eさんの相続対策になるし、Eさんの相続時に甲土地を妻Bさんが相続することの後押しにもなるかもしれないと考えています。

近年の設例では、「空き家の3,000万円特別控除」が頻出論点となっていましたが、今回は「空家等対策特別措置法」が2023年12月に改正施行され、「管理不全空き家」という区分が新たに加わった点が狙われました。

税制のみでなく、その他の関連法制の直近の改正については十分に注意し、概要を丁寧に拾っていく必要はありますが、質問に対応できるレベルまで内容をいちいちクリアーに把握しておくのは、なかなか難しいと思われます。

もうひとつの「通常の地代」の論点は、前回2024/2/18の「土地の無償返還に関する届出書」の隣接論点です。

当サイトの記事などで地代概念をきちんと押さえていた方は、こちらでの加点が可能であったかもしれません。


◆ AさんがEさんに伝えた「管理不全空き家というものに該当してしまうと税金が高くなる」という制度の概要について説明して下さい。

そのまま放置しておけば「特定空き家」に該当する恐れがあるものを「管理不全空き家」とし、固定資産税の優遇措置の対象外とする制度です。

【解説】
「特定空き家」とは1年以上誰も住んでおらず、放置すれば倒壊の危険がある等の空き家です。

これに指定されると、固定資産税の優遇措置(住宅用地として200㎡までは6分の1、200㎡超は家屋の面積の10倍までは3分の1の課税標準とする)の対象外となり、自治体の助言・指導、勧告・命令・戒告を経て、「行政代執行」に至る可能性があります。

従来、「特定空き家」に指定されなければ、固定資産税が優遇されるので、空き家を放置してしまう一因となっていましたが、2023年12月13日から新たに「管理不全空き家」という区分が加わりました。


◆ Aさんが、Eさんに権利金等の一時金を支払うことなく、通常の地代で甲土地を賃借(普通借地)し、税務署に何ら申告しなかった場合、
①仮に、数年後にEさんが死亡し、相続税額の計算上、甲土地を貸宅地として評価する場合、その相続税評価額はどのように算出されますか?


自用地価額×(1-借地権割合※)で評価されます。

※設例の場合は0.5(前面道路100Eより)


◆ ②甲土地を貸宅地として評価した場合、課税上、どのような問題が生じる可能性がありますか?

EさんからAさんに権利金等相当分が贈与されたと認定され、Aさんに贈与税が課される可能性があります。


◆ 権利金等の一時金を支払うことなく、相当の地代で賃借した場合は、貸宅地の相続税評価額はどのように算出されますか?

自用地価額×80%で評価されます。

★論点的中!
下記記事の前半部分で、土地の賃貸借における「権利金」や「地代」の基本概念、「権利金の認定課税(贈与税)」などについて解説しています。


◆ 甲土地をEさんがAさんに相当の対価で貸し付けていて、Eさんの相続が発生した場合、甲土地に小規模宅地等の特例は適用できますか?

相続開始前3年を超えて賃貸し、甲土地を妻Bさんが相続し、相続税の申告期限まで甲土地を所有し、Aさんへの賃貸を継続すれば、貸付事業用宅地等(200㎡まで50%評価減)に該当します。

【解説】
この場合、妻Bさんが貸主で夫Aさんが借主となりますが、生計一親族間であっても賃貸借契約は成立します。

但し所得税法上は、生計一親族間であるため、夫Aさんからの地代は、妻Bさんの不動産所得の金額の計算上、収入に算入することはできません。

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