【設例解説】FP1級実技面接 2024/9/28 PartⅠ・Ⅱ
10月3日、金財の公式サイトに、先頃行われたFP1級実技面接の設例が掲載されました。
各設例の主な論点について、速報で解説します。
修正や追加があれば随時更新します。
設例中に示された論点、予想される質問について解説しました。実際の面接では、このような質問がなかったり、別の論点に関する質問が出ている可能性があります。
冒頭や最後の定番問題の解説は省略しました。
ラスパーが考える最適解(できるだけ受検生の口頭レベルに近づけたもの)を示し、必要な場合はそれについての【解説】を付しました。
【補足】では論点のさらなる詳細や深堀り、関連事項などを記載しました。
設例は金財公式サイトをご参照下さい。
※当記事は一般社団法人金融財政事情研究会 ファイナンシャル・プランニング技能検定1級実技試験(資産相談業務)2024年9月を一部改変して使用しています。
2024年9月28日 PartⅠ
【設例概要】
X社の代表取締役社長のAさん(75歳)の事業承継と資産承継がテーマ。
主な論点は以下の5点です。
X社株式の100%を保有するAさんから専務取締役である長男Cさん(妻と子2人の4人で持家に居住)への事業承継(X社は大会社、余剰資金4億円、配当は毎期30円/株)
M&Aのメリット・デメリット
自宅がある土地を弟Eさんと各2分の1の持分で共有している点(弟Eさんも同じ土地上に自宅を構えている)
Aさんが所有 する甲土地を二男Dさんの歯科医院開業の用地として無償で 貸すことにした点(将来的には、甲土地をDさんに相続させるつもり。Dさんは妻と子2人の4人で賃貸マンションに居住)
新NISAの概要
いずれも対処しやすい標準レベルの論点で、スムーズかつ的確な応答が求められます。
◆ X社株式は長男Cさんにどのように移転すべきですか?
法人版事業承継税制の特例措置を活用します。
2026 年3月31日までに特例承継計画を提出して円滑化法の認定を受け、2027 年12月31日までに株式を贈与すれば、一定の要件のもと、贈与税の納税が猶予・免税されます。
◆ 贈与の場合の後継者の主な要件を教えて下さい。
贈与時に、会社の代表権を有し、役員に就任して3年以上経過し、本人と同族関係者で議決権の50%超を保有することとなること等です。
◆ X社株式の評価額を引き下げるにはどんな方策が考えられますか?
Aさんに役員退職金を支給する、 Cさんの役員報酬を適正な範囲で増額する、毎期の配当を特別配当や記念配当に変更する、高収益部門を分社化するなどの方策が考えられます。
◆ M&Aのメリット・デメリットを挙げて下さい。
メリットとしては、会社の信用力が向上し、事業シナジーや販路拡大による売上増が見込める点、株式売却によるキャピタルゲインや経営者保証の解除により創業者利益を獲得できる点などです。
デメリットは、自社の経営権限が縮小する点、企業風土の相違などにより統合作業が難航したり、従業員が離職したりするリスクが生じる点などです。
◆ M&Aで株式の譲渡価額を決める目安となる評価方法を挙げて下さい。
貸借対照表に着目した「コストアプローチ」、類似企業の取引実績に着目した「マーケットアプローチ」、将来の収益に着目した「インカムアプローチ」です。
【補足】
「コストアプローチ」では
「(修正)簿価純資産法」「時価純資産法」など、「インカムアプローチ」では「DCF法」「収益還元法」などがあります。
中小企業では「時価純資産法」に営業権を加味した価額が実務上多く採用されます。
◆ M&Aは株式の評価額が高くなる分、売り手のAさんにとっては譲渡所得が過大になるリスクがありそうですが、これを回避する手立てはありますか?
M&Aによる株式譲渡対価の一部を、X社から役員退職金として受け取る契約にすれば、譲渡所得を控除額の大きい退職所得に転換できます。
また、M&Aの対象会社であるX社においては、支払う退職金が適正額であれば全額が損金算入され、買い手側の企業においても、株式の買取に充てる資金を減らせます。(子会社となるX社側の余剰資金をM&Aで活用した形になります)
◆ 役員退職金はどのように計算しますか?
最終報酬月額×勤続年数×功績倍率で計算します。
功績倍率は、各役職により2倍~3倍程度ですが、代表取締役は3倍が目安です。
◆ 自宅がある土地を弟Eさんと各2分の1の持分で共有している状態の解消方法と課税関係について説明して下さい。
2分の1の持分で分割し、それぞれを単独所有地とします。
分割では、土地の譲渡・交換はなかったものとされ課税関係は生じませんが、単独所有した土地の評価額に差がある場合は、高い方の土地を得た人に贈与税が課される場合があります。
【解説】
1つの土地の共有状態を解消する方法としては、分割、共有者間での買取・贈与、第三への売却がありますが、AさんもEさんもこの土地に自宅を構えていることから、分割を選択します。
※ 今回の設例では、土地の概況図が示されていませんが、以下のケースでは注意が必要です。
AさんとEさんがが2分の1ずつの持分で共有する700㎡の土地を単純に面積割合で分割して、Aさん350㎡、Eさん350㎡の土地にしたとします。
そして、もしAさんが所有する土地が幹線道路に面しており、Eさんが所有する土地が幹線道路に面していない場合は、Aさんの土地の時価がBさんの土地の時価より高くなります。
つまり、Aさんはこの分割により2分の1の持分よりも多くの経済的利益を得たことになり、贈与税が課税される可能性があります。
◆ Aさんが所有する甲土地を二男Dさんの歯科医院開業の用地として無償で貸して、Aさんの相続が発生し、Dさんが甲土地を相続した場合、甲土地の評価はどうなりますか?
自用地として評価されます。
◆ 甲土地が小規模宅地等の特例の特定事業用宅地等に該当するためには、どんな要件が必要ですか?
二男DさんがAさんと生計を一にし、申告期限まで甲土地を保有し、事業を継続する必要があります。
【解説】
設例中では、賃貸マンションに住む二男Dさんの住居をどうするかについては言及がありませんが、仮に、甲土地に歯科医院と二男Dさん家族とAさん夫妻が住む二世帯住宅兼用の建物を建てて生計を一にした場合は、上記の要件に該当することになります。
◆ 新NISAについて、その概要を説明して下さい。
投資で得られる利益が非課税となる制度で、2024年から年間120万円のつみたて投資枠と年間240万円の成長投資枠が1口座で併用でき、保有期間は無期限、生涯の非課税上限額は1,800万円(成長投資枠は1,200万円)となりました。
【補足】
売却した場合、投資元本分の非課税枠は翌年以降に再利用が可能で、口座は1人1口座のみの開設、金融機関の変更は年単位で可能となっています。
2024年9月28日 PartⅡ
【設例概要】
1976年に位置指定道路を築造して開発された分譲地(甲-1~甲-6)では、建物が老朽化し、住民が対応を迫られています。
主人公の甲-2土地に住むAさん(55歳)の他、各住民それぞれの状況や事情が細かく示され、かなりの情報量となっています。
本分譲地周辺は大手デベロッパー による等価交換方式によるマンション建設が多く見られる(数年前に南側隣地にもマン ションが建設された)との記述に注目すれば、等価交換方式を分譲地全体のトータルな解決策と想定して、設例に示された表を参考に、必要な情報を整理していけば良いことがわかります。
本分譲地周辺のマンション用地の仕入価格は1種(容積率100%)当たり40万円/坪前後。
→容積率200%の場合は80万円/坪甲-1(Eさんの自宅):娘と同居することになったので、更地で4,300万円で売却したいと思っている。
甲-2(Aさんと夫Bさんの自宅):所有期間は7年
甲-3(Aさんの実家):一人暮らしの母が1年前に亡くなり、Aさんと兄Cさんが2分の1の持分で相続、現在は空き家。
甲-4( 2棟の賃貸住宅がある):Aさんと兄Cさんが 2分の1ずつ共有、現在は空き家。
甲-3、甲-4とも今後どうするかはCさんから任されており、Aさんはすべて売却して、近くのマンションを購入しようかと考えている。
甲-5(Dさんの自宅):二世帯住宅に建て替えたいと思っている。
甲-6(Fさんの自宅):3年前 に自宅を建て替えている。
位置指定道路の用地(全体で224.5㎡)は甲-2、甲-3、甲-4、甲-5で共有している。
不動産に詳しい知人が
「位置指定道路の用地を活用できないのかな」と言っていた。
等価交換方式の場合、課税関係としては立体買替えの特例の一択と考えがちですが、設問は「Aさんと夫Bさんが本分譲地内に所有する不動産を売却した場合の課税関係」と、あくまでもAさん固有の不動産譲渡に係る課税関係が問われています。
甲-2、甲-3、甲-4については、所有期間や利用実態などにも注意し、他の税制特例適用の可能性も念頭に置いておく必要があります。
◆ 位置指定道路とは何ですか?
2m以上の接道要件を満たすために、特定行政庁(都道府県知事や市町村長等)から位置の指定を受けた幅員4m以上の私道です。
【解説】
位置指定道路は建築基準法上の道路ですが、通常は私道であるため固定資産税等が課税されます。
但し、公共の用に供するもの、たとえば、通り抜け道路のように不特定多数の者の通行の用に供されている場合は固定資産税の課税対象外となります。
◆ 分譲地内で、この位置指定道路のように、宅地等以外の未利用部分のことを何と言いますか?
「潰れ地(つぶれち)」と言います。
【解説】
開発行為や土地区画整理事業において、宅地・公共施設・利便施設等を除く、道路・公園緑地・外周部等の未利用部分を言います。
近年は、環境保全や公園緑地確保等のため、「潰れ地率」が高くなる傾向にあります。
◆ 本分譲地の土地について、Aさんと夫Bさんが取り得る最も経済的価値が高まる有効活用として、どのような方法が考えられますか?
すでに自宅を建て替えている甲-6を除く甲-1から甲-5について、各住民の意向を調整した上で、共同でデベロッパーに土地を譲渡し、等価交換方式によりマンションを建設する方法が考えられます。
出資割合に応じた区分所有建物を得ることで、各住民はその要望を叶えることができ、位置指定道路の用地も無駄なく有効に活用できます。
【解説】
甲-1のEさんは娘と同居のため、敷地(225.2㎡≒68坪)を更地前提で4,300万円で売却したいと思っていますが、マンション用地として売却したほうが、80万円/坪×68坪=5,440万円と有利です。
また、甲-5のDさんは、二世帯住宅への建替えが希望ですが、マンションの部屋を複数取得することで、二世帯の居住用とすることが可能です。
【別解】
甲-1を売却したいEさんとの調整は可能ですが、甲-5に二世帯住宅を建てたいDさんとの調整は難しいかもしれません。
その場合は、位置指定道路の用地であるAさん所有の④とDさん所有の⑤を交換します。
そうすれば、Aさんは⑤を他の敷地と共に譲渡でき、等価交換方式によって有効に活用することができます。(建設されるマンションは甲-1部分が6メートルの市道に接します)
一方、Dさんが甲-5に建てる二世帯住宅は、Dさん所有となった④部分が6メートルの市道に接することになります。
◆ 等価交換方式のメリットとデメリットを挙げて下さい。
メリットとしては、自己資金なしで区分所有建物を得て、自己の居住用や賃貸物件として活用したり、一部を売却して現金化できる点、相続時の遺産分割が比較的容易になる点、税制優遇措置(立体買替えの特例)がある点などです。
デメリットとしては、土地の単独での所有権が失われて共有となり、権利が複雑化する点、デベロッパーとの間での還元床面積の調整が難しい点、賃貸する場合に減価償却の効果が限定される点などが挙げられます。
【解説】
減価償却の効果が限定されるのは、買換資産(マンションの部屋)が譲渡資産(土地)の取得価額を引き継ぐためです。
通常は建物の建築費相当額が減価償却の対象となるところ、等価交換方式では譲渡資産の土地を相続で取得していた場合、その少額の取得価額が減価償却の対象となります。
結果として、減価償却費が小さくなり、経費化できない分、不動産所得が増加します。
◆ Aさんと夫Bさんが本分譲地内に所有する不動産を売却した場合の課税関係について教えて下さい。
立体買替えの特例が適用可能で、譲渡益が100%課税繰延べされます。
【解説】
分譲地は首都圏の既成市街地に所在しますから、等価交換方式により建設するマンションが、3階建以上の耐火建築物であること、床面積の2分の1以上が専ら居住用であること、土地を譲渡した年または翌年に区分所有建物を取得し、取得の日から1年以内に居住または事業(貸付可)の用に供することなどが要件です、
◆ その他に適用できる税制特例はありませんか?
立体買い替えの特例との選択適用となりますが、Aさんの自宅である甲-2については、居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除が適用できます。
但し、所有期間が7年である(10年超でない)ため、長期譲渡所得の軽減税率の特例は適用できません。
また、特定の居住用財産の買換え特例も適用できません。
Aさんの実家の甲-3は、一人暮らしの母親が1年前に亡くなって空き家になっており、相続の日から3年後の12月31日までに売却すれば、空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除の特例が適用できます。
◆ その場合、Aさんと兄Cさんが2分の1の持分で共有していますが、特別控除額はどうなりますか?
AさんとCさんそれぞれで3,000万円の特別控除を受けられます。